29日に随意契約で引き渡された備蓄米(玄米)は早くも精米を終え、31日に店頭に並びました。は、早いねえ。古すぎる奴の味はやや心配ですが、現在のご時世では価格と品質を考えたら妥当な線なのでしょう。(味に文句あるなら高いブランド米買え!)
政府が低価格の随意契約で小売業者などに売り渡す備蓄米の引き渡しが29日始まった。アイリスオーヤマ(仙台市)のグループ会社が運営する精米工場(宮城県亘理町)に同日午前、12トンの玄米がトラックで搬入された。精米後、5キログラムずつ袋詰めにして6月2日からグループ会社の店舗や通販で販売する。
アイリスオーヤマ(仙台市)は31日午前9時、随意契約の政府備蓄米を千葉県と宮城県にあるグループのホームセンター2店舗で発売した。イトーヨーカ堂と並び実店舗で最も早い販売となる。5キログラム入りを2店合計で160袋を用意。1袋2160円(税込み)という安さにひかれ早朝から多くの人が集まり、開店1時間前に整理券を配布しすぐに完売した。
それに比べると、3月に入札された米は、まだ13%しか店頭に並んでいないそうです。
政府が3月の2回の「入札」で放出した備蓄米約21万トンのうち、5月11日までにスーパーなどの小売店に届いたのは12.9%の2万7369トンにとどまった。農林水産省が30日に発表した。・・・流通の遅れが問題視されたため、農水省は3月の入札分の9割超を落札した農協系のJA全農に対し、5月2日に出荷の前倒しを要請。流通のペースはやや上がったが、大幅な改善には至っていない。
いろいろ事情はあれど、これだけスピード感の違いがあると「安い価格で早く消費者に米を届ける」という点において、ほぼJAの独占落札と、それを許した農水省の前回までの入札劇は「無能なJAなんていらない」「農水省は価格を下げる気がなかった」と非難がでるのも当然かと。
流通の遅れは、JA一社(ほぼ独占)に膨大な量の備蓄米(処理量)を落札させたことが原因でしょう。 量が多すぎるから精米して流通させるまで時間がかかるのは目に見えていました。
一方で、今回の随意契約みたいに60社に細かく分割して契約すれば、それぞれの会社の処理量は少なくなるから早く処理できるし、独占では望めない「他社との競争」で精米や流通を急ぐ効果も期待できました。事実記事にあるように、アイリスオーヤマは6月2日から売り出しの予定だったのを、5月31日に前倒ししてます。
小泉農水相:
一番に出そうという民間企業同士の競争が始まったわけですよ。6月の上旬も無理じゃないかと言われたのが、なんと5月31日にそれができた。それは本当に多くの皆さんの協力のおかげなんです。・・・「本当に感謝の気持ちでいっぱいだ」と述べました。
しかし以前はなぜJAが落札を独占できたのでしょう。それは、随意契約と入札の違い ではありません。
入札を発注した農水省が「原則1年以内に農水省が落札分を買い戻す」という入札参加条件を設けたからです。これはその条件を満たさないと入札に参加できない足切りです。 膨大な量の買戻し米を準備(集積)できるのは、JA以外の機関には無理だからして・・・いわば出来レースだったのです。
近畿大学農学部の増田忠義准教授は、これまでの入札で放出されたほとんどをJA全農が落札したことが“スタック”の一因ではないかと指摘する。
「備蓄米の入札は、原則1年以内に同品質・同量のコメを政府が買い戻す条件の下で行われました。いま備蓄米をガンガン出荷して、1年後に政府に新米を返すとなれば大損です。さらに備蓄米を大量に出せば、米価が暴落するリスクもある。ある程度セーブしつつ出荷したいというのが、JAの本音ではないでしょうか」「JAに放出すべきでなかった」 備蓄米が消費者に届かない本当の理由 「米卸がコメをため込んでいる」という批判に業者は真っ向から反論
農林水産省が備蓄米放出の入札について参加条件の緩和を検討していることが9日分かった。現在は原則1年以内に農水省が落札分を買い戻すことになっている。2025年産の収穫量が見通せない中、集荷業者が参加するハードルになっていた。与党から条件の見直しを求める声が出ていた。
大人の事情で、”公正な入札”を掲げる役所では、「入札参加条件を上手に書くこと」は大事な才能(笑)。 さすがに露骨すぎて指摘、修正されたけど。とりあえず2回分は「天の声」の意図通りの結果になったわけだな。
逆に足切りのおかげで備蓄米の流通は遅れました。しわ寄せは消費者に来ました。
与える影響が多大なので今回は小泉劇場により小休止となりましたが、おそらくこの先も同様の事態が起こることと思います。
その時に備え劇幕が下りる前に、建前上「安い価格で早く消費者に米を届け、結果として米価を安定させる」ことを目的としていたはずの農水省の備蓄米の放出に際し、なぜこんな見え見えの足切り条件付記が許されたのか、徹底的に追及してほしいと思うのです。
江藤拓農林水産相は2月28日の衆院予算委員会分科会で、備蓄米放出に関連して、食糧法には価格の安定は「書いていない」と4回繰り返した。実際には法律の正式名称に「価格の安定」が入っているほか、条文にも書かれている。指摘を受けて訂正したが、担当閣僚としての資質を問う声も出そうだ。
分科会では、政府が備蓄米放出を発表した後もコメの店頭価格高騰が止まらない実態について、日本維新の会の徳安淳子氏が「国民は買いたくても買えない」とただした。
これに対し江藤氏は「法律に基づいて備蓄米は運用しなければならない」などとした上で「価格の安定なんて書いてありません、食糧法には。書いてありません。書いてありません。書いてありません」と自信満々に答弁した。
参考記事
「減反政策というシステム」が現実に合わず、そのシステムエラーの結果としてコメ不足が生じた という分析もあります。小泉劇場は小手先の改善にすぎず。根本的にはシステム改良が必要とのこと。まったくその通りだと思うけれど、この国では戦後、まともなシステム改善ってできたためしがない・・・
これまでの農水省やJAの振る舞いを見ている限り、彼らの頭の中には「減反政策など既存のコメ行政の仕組みを守る」ということしかない。そういう“システム至上主義”に取り憑かれた組織というのは往々にして、本来守るべき人々をシステムを守るための「犠牲」にしてしまうという「破滅的な戦略」に流れがちなのだ。
・・・昨年の「令和の米騒動」や今にいたる米価格高騰は、国が50年以上も続けてきた「減反政策」のせいで、コメ農家の生産量と競争力が壊滅的に低下したことが大きい。この人口増加時代に立ち上げた生産調整システムが、人口が急速に減っている今でも見直すことなく、あいも変わらず信奉されている。それによって、「米不足」や「安定供給体制への不安」などさまざまなシステムエラーが引き起こされ、価格が上がっているのだ。
本質的な問題は、日本の米の供給量が政策的にコントロールされていることだ。
「減反政策」は2018年度に廃止されたが、その後も「水田活用の直接支払交付金」制度(「水田にコメ以外の作物を作付けする」ことに対して補助金を支給する制度)などを通じて、実質的な生産調整が継続されている。・・・令和の米騒動と言われる事態がなぜ発生したかを振り返ってみれば、米の需要量を少なめに見通し、それに合わせて供給量を少なめに設定したところ、2023年に天候不順や外国人客による需要望などが発生して、需給が逼迫し、24年の夏に、スーパーの棚から米が消えるという「令和の米騒動」が発生したのだ。
米の需要が長期的に減少しつつあることは事実だ。しかし、そうではあっても、それ以上に米の生産を事実をそれ以上に削減すれば価格は上昇する。
いま求められているのは、硬直的な生産制限から脱却し、市場需要に応じた柔軟な供給体制を構築することである。