講談社「興亡の世界史」・・・

21巻読破したけれど・・・残念。あんまりおもしろくなかった。 タイトルはなかなか期待できそうだったのに。

この本の20巻には総括として、こういう言葉があります。

「各巻は、基本的に、ある時代に興盛した地域世界や文明が、なにゆえ台頭できたのか、そしてまた何ゆえ滅亡の道をたどらなければならなかったのか、それを大きな歴史像として描いてみる試みである。」 「歴史を問うという行為は、現在の位置を見きわめ、現代人が直面している問題のありかを明確にして、これからの人類の進むべき道を問うためにこそある、そういう思いである。

本シリーズの視座と本書の意図

はい、僕もまさにこの視点をシリーズに期待したんです。 でもその思いはあんまり汲み取れなかったですぅ。 

各巻はそれぞれ歴史記述として貴重なのかもしれないけど、興亡の原因と結果分析という「歴史科学」としての視点があんまりないと思うんです。そこへ踏み込まないから「歴史は面白くない」とか「高等教育としての人文科学なんて不要じゃね?」と言われるんじゃないでしょうか。

もちろん事例収集も大切なんですが、「歴史は役に立つか」シンポジウムとか開く前に。こういう一般向けの本で社会に上記の事例ををわかりやすくつき付ける努力が必要だと思うんです。

歴史本は売れないけど歴史小説は売れる、司馬遼太郎や塩野七生が売れてるのは、明確にそういう記述を心掛けているところだと思うんですよね。もちろん歴史学者と歴史小説家は違いますが、このシリーズは歴史学者じゃない人も入れてるんだから、思い切って 塩生さんの「海の都の物語」をこのシリーズに入れたらふさわしいと思いました。

全体的にはそんな感じでしたが、個別巻は頑張ってました。

  1. 杉山正明「モンゴル帝国と長いその後」(第9巻)
  2. 羽田正「東インド会社とアジアの海」(第15巻)
  3. 青柳正規ほか「人類はどこへ行くのか」(第20巻)

1.の著者である杉山さんは、「遊牧民から見た世界史」を書くなど、まさに上記の問題意識を持っておられ面白いです。内容を読んでても、「通説だと、モンゴル兵の騎馬突撃力はすさまじい と言われるけど、そうじゃなくて、集団行動のできない敵軍隊が弱すぎた」とか、頷ける記載も多いです。ただ、独特の「杉山節」が強く出過ぎで読みにくいなぁ。「遊牧民から見た世界史」のほうが読みやすかったような。

2.出色。このシリーズは図書館で借りたのだけど、この本は買いました。 「東インド会社」の盛衰と「世界史」を描いています。最近話題の「一帯一路」を考える基礎文献としても一読の価値があると思います。

3.いくつかの論説と対談集。「日本初の歴史像を目指して」全開杉山節。大御所?が風呂敷広げるのも愛嬌としてはいいのかもしれないけど、このシリーズがうまくまとまってない時点で無理じゃね?歴史家の現状認識としてどうかね?  とはいえ、他の論考、「人口からみた人類史」「人類にとって海はなんであったか」「宗教は人類に何をもたらしたか」「アフリカから何がみえるか」「中近世移行期の中華社会と日本」などは、これをタイトルに一巻造れよ と感じる論考が並びます。

逆にダメダメだった巻も上げておきましょう。

  1. 陣内秀信「イタリア海洋都市の精神」(第8巻)
  2. 石澤良昭「東南アジア 多文明世界の発見」(第11巻)
  3. 生井英孝「空の帝国アメリカの20世紀」(第19巻)

1.陣内秀信氏の、イタリアをめぐる都市の話は本も持ってるし好きです。内容もまあそこまで悪くはないのですが「興亡の世界史」に入れる必要性が分かりません。 人選ミス。

2.「東南アジア」といいつつ、アンコールワットの話しかない。典型的なタコツボ・タイトル詐欺。

3.「アメリカの世紀」を取り上げるのに、「航空機」という視点は面白い。興味深い記載もあった。でも「アメリカの世紀」を説明できてない。

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青柳正規「人類文明の黎明と暮れ方」(第0巻)
森谷公俊「アレクサンドロスの征服と神話」(第1巻)
林俊雄「スキタイと匈奴 遊牧の文明」(第2巻)
栗田伸子・佐藤育子「通商国家カルタゴ」(第3巻)
本村凌二「地中海世界とローマ帝国」(第4巻)
森安孝夫「シルクロードと唐帝国」(第5巻)
小杉泰「イスラーム帝国のジハード」(第6巻)
原聖「ケルトの水脈」(第7巻)
陣内秀信「イタリア海洋都市の精神」(第8巻)
杉山正明「モンゴル帝国と長いその後」(第9巻)
林佳世子「オスマン帝国500年の平和」(第10巻)
石澤良昭「東南アジア 多文明世界の発見」(第11巻)
網野徹哉「インカとスペイン 帝国の交錯」(第12巻)
福井憲彦「近代ヨーロッパの覇権」(第13巻)
土肥恒之「ロシア・ロマノフ王朝の大地」(第14巻)
羽田正「東インド会社とアジアの海」(第15巻)
井野瀬久美惠「大英帝国という経験」(第16巻)
平野聡「大清帝国と中華の混迷」(第17巻)
姜尚中・玄武岩「大日本・満州帝国の遺産」(第18巻)
生井英孝「空の帝国アメリカの20世紀」(第19巻)
青柳正規ほか「人類はどこへ行くのか」(第20巻)

投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

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