空母とカタパルト(2)

空母とカタパルト」の続編です。さらに マニアックな話なので、興味のある方だけご覧ください。趣味に走ってすいません。

歴史上、航空母艦(空母)を何隻か集めて集中運用すると、敵の基地だって攻撃できる大戦力になる と言うことを証明したのは日本海軍でした。(真珠湾攻撃)

ただし、その日本の空母には、最後までカタパルト設備がありませんでした。一方で、アメリカ海軍は開戦時にはすでに装備済み。(1937年ヨークタウン)

航空母艦にカタパルトを設置することのメリットは、前回の記事に書いた通りです。そして日本海軍もカタパルトは持っていたのです。

戦艦と規模の大きな巡洋艦には、偵察および弾着観測用の水上機と、それを打ち出すカタパルトが設置されていたからです。こんなヤツ↓。

重巡利根に搭載された水上機とカタパルト

アメリカと日本が戦争する場合、国力が違いすぎるので日本海軍は軍艦の「量より質」を重視しました。カタパルトがあれば空母の質が上がることは自明なんですが、なぜ装備しなかったのか?

飛行甲板前部に空母用カタパルトの設置のための溝をつくる工事も佐世保海軍工廠で行われ、1941年9月末に極秘裏にカタパルトを搭載して射出実験が長崎沖で実施されたが、実用には困難と判断されたため、即刻カタパルトを撤去した。当時の証言によれば、射出そのものには成功したが、パイロットの命がないような射出であり、また航空機を射出状態にするには時間と手間がかかりすぎるとのことであった。結局未搭載のまま開戦を迎え、カタパルト完成の機会はなかった。結果的に、日本海軍は終戦まで空母用カタパルトを実用化できなかった。

wiki 加賀(空母)

少し調べてたですよ。その結論としては「日本海軍は、空母に搭載できるような実用的なカタパルトを開発できなかった」ってことではなかったかと。残念ですが。

まず、先ほど触れた日本の戦艦や巡洋艦に装備されたカタパルトは、少数の例外を除き推進力を「火薬」とするものでした。

空母で運用する飛行機の翼の下には、外部燃料タンク(増槽)や爆弾、魚雷が装着されています。その直下で「火薬式」カタパルトを作動させたら・・・爆発事故が恐ろしくて無理っす。水上機の場合は翼の下にあるのは海面に着水するときのフロート(浮き)だけですから、まあ大丈夫だったのでしょう。

追記。ただし、「彗星」艦上爆撃機を火薬式カタパルトで射出するという計画を持った「航空戦艦・伊勢級」も存在しました。「彗星」は爆弾を胴体内部の爆弾倉に格納していましたから(日本製艦上爆撃機として初装備)、「火薬式」カタパルトの射出も危険性が少ないとして計画されたのでしょう。どの程度の実験かは分かりませんが、一応射出は成功しているそうです。航空戦艦の運用実績は皆無でしたけど、マニアとしてはイロイロ妄想が膨らみます。

第六三四海軍航空隊は、日本海軍の部隊の一つ。航空戦艦を母艦として運用する変則的水上機・艦上機部隊として整備されたが、母艦と連携する機会がないまま、小規模の水上機基地航空隊として終戦まで運用された。
 割り当てられたのは水上偵察機瑞雲と艦上爆撃機彗星で、着水能力がない彗星は、基地または空母に着陸・着艦する片道運用を想定していた。 6月23日カタパルト射出実験開始。全機成功。

wiki「第六三四海軍航空隊」

それから火薬式の場合、爆発を利用してカタパルトを動かすんで、飛行機の重量が増加し離陸速度が速くなるにつれ(=カタパルトの出力を上げる必要がある)火薬の爆発規模が大きくなり、加速(G)に耐えられずパイロットが失神するリスクが増加するみたいです。水上機は割と軽量で離陸速度が低かったので、火薬式でなんとかなったようですけど。

まてまて、日本海軍には「潜水艦から水上機を発射させる」という素晴らしい技術があってだな。この発射はさすがに火薬は使えんから空気式(圧縮空気)カタパルトだそうな。中でも潜水空母(伊400型)は、「晴嵐」という水上機だけど800kg爆弾を積んだ攻撃機を発艦できたそうな。これはかなりの重量機だったはず。だからこの空気式カタパルトを空母に載せたらいいんじゃね?

追記。水上艦艇のカタパルトについては、別ページを建てたので、よろしければ参考まで、こちらもご覧ください。

うん。これは可能性はあったと思います。ただし、このカタパルトは最初の飛行機を飛ばして、次の飛行機を飛ばすのに準備時間として4分間が必要だったそうです(1944年)。うーん時間かかりすぎ。 

※潜水空母は計画上、晴嵐を3機積んでパナマ運河を攻撃する予定でした。が、この攻撃には潜水艦がアメリカ大陸近くで飛行機を3機飛ばすのに15分程度水上に浮上してなきゃいかんわけです。潜水艦は、海中に潜ってこそ真価を発揮できるわけで、水上ではレーダーを活用してたアメリカ軍に対して無力でしょう。これって有効な作戦だったのかなあ?

・・・なんてことは当時の海軍および技術陣も分かってたことでしょう。でもこれ以上次発時間を縮められなかった。これが日本の技術の限界だったってことですよね。※

閑話休題。対してアメリカ軍のカタパルトは「油圧」で動いたそうです。現実的な選択ですね。現在工事現場で見るバックホーは油圧でバケットを動かしていますから。油圧を使う特徴として

  • 比較的小型の油圧ポンプで、大きな力を出すことができる。(空気圧機器よりも高圧で使える)
  • 出力や速度の調整が容易であるため、繊細な操作が要求される航空機の舵面操作にも対応できる。

つまり、火薬式より安全で、空気式より強い力を出すことができ、飛行機を離陸させるに十分かつパイロットが失神しない、微妙な速度でカタパルトを運用することが比較的容易だった ってことです。 

ちなみに、油圧カタパルトの場合「エセックス(1942」は二基のカタパルトを持ち、二機をたがいちがいに30秒毎に発艦させることができたようです。一基のカタパルトが最初の飛行機を飛ばして、次の飛行機を飛ばすのに準備時間として必要なのは1分間ってことですね。実用にはこれくらいの速度が必要だったってことでしょう。

この日米差は、カップラーメンができるぐらいでかい(技術力の差があった)ってことです。もっとも、アメリカは油圧式カタパルトの技術を、イギリスから導入したんですけど。 イギリスすげー。

 ※大淀という巡洋艦に、 空気式 全長44m のバケモノカタパルトが搭載されていました。(伊400型のカタパルトは全長26m)。こいつが飛ばせる荷重は伊400と同じ。紫雲という高速水上機を発射させるためのものだったのですが(搭載6機)、どのくらいの間隔で次の飛行機を発射できたのかは不明です。まあ、潜水艦の方が条件がシビアなんで、水上艦搭載のものが、潜水艦搭載の4分を切ることはないと思うけれど。

「葛城(1944)」もちろんカタパルト非搭載。
完成時には航空機も搭乗員も足りず、戦闘どころか外洋にもほとんど出られませんでした。「助けてよ、ミサトさーん!」(苗字の由来)

当時、カタパルトなしでどうやって空母から飛行機を発艦させたかと言うと・・・最大戦速で風上に突っ走り、向かい風をつくり飛行甲板で飛行機を滑走させ、合成速力が離陸速度に達したら発艦可能。繰り返しますが「敵艦に向かい」ではなく「風上に向かう」のです。

アメリカの場合、 カタパルト設備に頼ることもできたので、速力が遅い「護衛空母」という小さな空母を造ることができました。速度が遅くても良ければ、増産は各段に容易になったでしょう。

「カサブランカ級」全長156m 全幅33m 排水量7800トン 速力20ノット(9000馬力) 搭載機34機?

日本の最小空母 (実用)

「千歳型」全長186m 全幅21m 排水量11200トン 速力29ノット (56000馬力)  搭載機30機?  

エンジン出力(馬力)が全然違います。さらに日本の空母の場合、 速力をあげるため、 エンジン出力を何倍にも上げるだけでなく、抵抗を減らすため全幅が非常に細いことにも注意。(空母だけでなく、一般的に日本海軍の艦艇は速力を重視したので、プラモデルとしてはほっそりして優美。飾るにはおススメです(笑)。実用上は、戦闘で横転する艦が多かったように思うのでどうかと思うけど)

 しかし実用上は・・・排水量の割に飛行甲板(特に幅)が狭くなります。多分千歳級よりカサブランカ級の方が広いんじゃないかと。だから船は思いっきり小さく軽装備(エンジン)なのに、カサブランカ級のほうが搭載機は多いのかな。搭載方法の違いもあるでしょうけど。

それに護衛空母って基本的に対潜哨戒とか船団護衛に使われる空母です。質重視の日本海軍には護衛空母なんてありません。千歳は対艦対空母のガチ戦闘空母なので、本当はこの2隻を比較したらいかんのです。でも、護衛空母と搭載機似たり寄ったりの戦闘空母なんていや~。

最盛期にはこの護衛空母が1週間に1隻完成したので、「週刊空母」と呼ばれたとかなんだとか。第二次世界大戦で登場した空母の数、日本二十五隻。アメリカ百二十隻。 げにアメリカの国力恐るべし。

参考資料

投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

「空母とカタパルト(2)」への2件のフィードバック

  1. 本日は友人から(その人は65才ですが)火薬式カタパルトも話を聞いたのでこの記事にたどり着きました。大変参考になりました。ありがとうございます。パイロットは大変だったでしょうけれども実用化はされていないですよね。それではまた。

  2. マニアックな記事をお読みいただき、ありがとうございました。
    日本海軍では、開発した火薬式カタパルトを実用化しており、大型艦(排水量5500t以上)の多くは、火薬式のカタパルトを装備し、偵察機をそれで飛ばしていました。その筋の本によると、射出時の加速度は3〜4G(重力の3〜4倍)に及び、ちょっと間違えれば事故につながる危険なものだったようです。そのため、射出には「危険手当」が支払われたそうです。

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