新型コロナウイルスの感染拡大を受け、埼玉県と国が開催自粛を求めていた大規模格闘技イベント「K―1 WORLD GP」が22日、さいたま市で予定通り行われた。大野元裕知事は同日、会場前で報道陣の取材に応じ「要請に強制力はなく、あくまでお願いだったが、聞き入れていただけなかったのは残念」と話した。
県によると、午後6時時点の来場者は約6500人。
K―1、自粛要請に応じず開催 埼玉県知事「残念」
このご時世に体育館(アリーナ)に6500人の人を集めて開催する大規模イベント開催って疫学的にヤバくね?と思います。けど、
「要請に強制力はなく、あくまでお願いだったが、聞き入れていただけなかったのは残念」 とする行政側の姿勢こそ、残念 と思いました。
経緯としては、国が県に開催自粛を促すよう要請し、県は複数回にわたって主催者側に自粛を求めたけれど、主催者は万全の対策を取るとして応じなかったとのこと。
さて問題。国、県、主催者のうち、開催したことで責任を負ったのは誰でしょう?
国は県に要請を行い、県は主催者に要請を行っただけで、何ら責任を負ってません。国は「やめてほしいって主催者に言え」県は「空気を読んで開催をやめてほしいんです」と言っただけ。結局主催者は、もし感染があれば (その確率は高いと思うが) 非難を受けるリスクを負って開催しました。
でも、感染拡大を防止するという行政の使命に立ったうえでこのイベントをやめるべきなら、国は新型コロナウイルス対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を宣言し、それに基づき埼玉県知事が開催の禁止を要請すべきだったと思います。
法律に基づかない自粛要請と、法律に基づく自粛要請では何が違うのでしょう?
前者の場合は、あくまで主催者の意向で開催を中止したので、要請した側に責任は生じません。けど、後者の場合は要請した側にも責任が生じるんです。
後者なら、結果はどうであれ主催者は「行政機関からの要請により開催を不本意ながら中止したので、中止に掛かった費用を弁済してください」と要請者を訴えることができます。でもだれもその責任を負いたくない。
ぶっちゃけ、法律に基づかない「自粛要請」ってのは、悪名高き日本の行政手法「ギョーセーシドー」そのものです。
行政指導「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないもの(行政手続法2条6号)」
行政指導って悪い面だけじゃないんでしょうけど、この場合は圧倒的な権力を持つ行政が決めた「望ましい方向」を相手に押し付ける行為です。(方向性は間違ってないとは思いますけど)当然言われる側には不利益が生じます。それでも「泣く子と地頭には勝てん。ここで行政に逆らって後で陰険な仕返しされたらかなわんから、泣く泣く指導に従います」というのが普通の構図。 大人の世界です(笑)。
しかし、それに逆らったのだから、ある意味アッパレ(笑)。
まあ人気のあるK-1の主催者なら、反骨心も中止したとしても持ちこたえる経済力もあるでしょう。けど、小規模の主催者だったら 6500人規模のイベントを中止したら倒産しかねないですよ。それを無責任な「空気読め自粛」要請で片付けられたら、たまらんですわ。「同情(要請)するなら金をくれ」です。
同様の事態は、団体だけでなく個人でもあり得ます。
新型コロナウイルスの感染が1カ月間確認されていなかった沖縄県内で、新たな感染が確認された。10代女性ら一行が成田空港に到着したのは20日午前9時半だった。
一行が訪れていたのは政府が入国制限対象地域に指定し、訪問者全員に新型コロナ感染検査を実施していたスペインのマドリード。成田空港検疫所は検査結果が出るまで一行に空港内待機を要請した。
しかし要請はあくまで「お願いベース」と県。強制力はなく一行はそのまま沖縄に移動した。 航空便変更や宿泊費用は自腹で、さらに検査で陰性でも、2週間、自宅などでの待機が必要となる。公共交通機関を使わなければ帰宅できない今回のような事例は、2週間分の宿泊費用も自腹で負担しなければならない可能性もあった。
「要請に応じなかったことへの見解は難しい」と言葉を選びつつ「他人に感染させない観点から協力はしてほしかった」と述べた。
飛行機代、宿泊費の「自腹」が負担に? 新型コロナ、強制力ない空港待機 沖縄に再び緊張感
こんな時期に家族でスペイン旅行に行くんじゃねーよ。ヨーロッパまで長時間飛ぶ飛行機内なんてヤバ過ぎだし(湿度20%以下の密室空間)、だいたいなんで春休み前に学校が休校になったか分かってんの? とまず非難するけど、
航空便変更や2週間分の宿泊費用も自腹で負担しなければならない状況で、「検査結果が出るまで待機を要請」されても、強制力なければそりゃ帰るわな。常識のないご一行の場合は特に。
自粛要請も、例えば2週間とか明確に期間を絞ってなら協力できるかもしれない。けど、期間未定で要請されても、経済的に無理が生じるんじゃないだろうか?
そろそろ法律に基づく要請もしくは指示に切り替えるべきじゃないかと思います。巨額の補正予算組むなら、ポイント還元とか意味わからん対策より、きちんと指示を出して、その代償を支払うべきではないでしょうか。
※豪雨や水害の場合は、いとも簡単に避難指示が出るのに(すこし乱発しすぎだと思う)、なんで伝染病の場合はできないのかな〜。死者数と広域性を考えても、こっちの方が危険だと思うんだけど。
※3月27日追記。 改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき緊急事態宣言を出し、法的根拠のある対応を取っていたとしても、この場合損害賠償は無理じゃね とい記事もあったので追記します。
ちなみに法律上は、都道府県知事の要請または指示によって興行を中止した場合でも、主催者が被る経済的損失が政府または都道府県によって補填されないと考えるべきでしょう。第62条が定める損失補償などの対象に興行の中止は入っていないからです。
したがって、興行を中止させられて主催者が損失を被った場合、主催者ができる対応は、憲法第29条(財産権)を根拠に国を訴えて損失補填を請求する程度になるかと思います。当然ながら、訴訟にはすごく長い時間と多大なコストがかかるので、自転車操業の格闘技団体の主催者がそれをやることは、特に倒産してしまったら事実上ほぼ不可能です。
コロナ「緊急事態宣言」は使い物にならない、K-1強行開催で見えた現実
このあと記事は、「緊急事態宣言を出すような非常事態に向けては、法的拘束力が強い罰則や補償付きの“命令”の規定がまったくないのは、緊急事態対応を意図する法律としてはダメと言わざるを得ないのでは」とつづくんだけど、全く同感。何のための法律なんだか・・・
さらに追記。緊急事態宣言が出され、企業が営業を停止した場合、現在の法体系では「企業は社員に休業手当を支払う義務はない(厚労省)」そうです。 同省は企業に対し雇用調整助成金を活用し休業手当を支払うよう呼び掛けているんだけど、「企業が面倒だから申請手続きをしない」場合でも強制力は無く、その場合従業員には手当が支払われない恐れがあるそうな。んで、緊急事態宣言前に休業となった労働者から労働組合などに「休業手当を払わないと言われた」といった相談が相次いでいるって。 この救いようのない話・・・だれか何とかしてください
休業手当、支給に不安 緊急事態宣言で営業停止時―コロナ対策
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府が緊急事態宣言を出した場合、大型商業施設などは営業の停止を要請・指示される可能性がある。厚生労働省は国の助成金を活用し、休業手当を支払うよう呼び掛けているが、企業が申請手続きに手間がかかるとして利用しなければ、従業員に手当が支払われない恐れが強い。宣言を出す時は休業時の所得を補償する仕組みを導入することも求められる。
時事ドットコムニュース
労働基準法26条は、使用者の責任で従業員を休ませる場合、賃金の6割以上を支払うよう定めている。ただ、緊急事態宣言に基づく休業が「使用者の責任」になるかどうかは、専門家の間でも意見が分かれる。最終的には司法の判断に委ねられるため、厚労省も明確な指針を示すのは困難な状況だ。
一方、同省は休業手当を払った企業に支給する雇用調整助成金の助成率を、4月から最大9割に拡大した。企業には積極的に活用するよう求めているが、強制力はない。利用を申請しない企業もあり、既に労働組合などには労働者から「休業手当を払わないと言われた」といった相談が相次いでいる。
<新型コロナ>緊急事態の業務停止 休業手当の義務、対象外 厚労省見解
新型コロナウイルス感染の拡大で、安倍晋三首相が改正新型インフル特別措置法(新型コロナ特措法)にもとづき緊急事態宣言を出し、ライブハウスや映画館などが営業停止した場合の社員への休業手当について、厚生労働省は二日、本紙の取材に「休業手当の支払い義務の対象にならない」との見解を明らかにした。
労働基準法を所管する厚労省によると、施設・企業での休業は「企業の自己都合」とはいえなくなり、「休業手当を払わなくても違法ではなくなる」(同省監督課)としている。
東京新聞