利水ダムの治水利用にまず一歩

利水ダム620基、事前放流へ…貯水能力倍増で洪水対策
 豪雨や台風による洪水対策を強化するため、国は、発電や農業用水などに限って使われていた「利水ダム」も活用できるよう運用を見直した。台風などの前に、新たに620基の利水ダムで事前放流を実施することで、雨水などの貯水能力を46億立方メートルから91億立方メートルに倍増させる。
 運用が見直されることになったのは、1級河川を抱える水系にある利水ダム620基。国は電力会社や利水事業者らと協議を進め、事前放流後に水位が回復しない場合に、国が費用の一部を補填するなどの内容で協定を締結した。これによって洪水対策への活用が可能となり、雨水などの貯水能力(洪水調節容量)は、八ッ場ダム50基分にあたる45億立方メートル増え、見直し前の2倍となった。
 国は今後、降雨量などの予測精度を高めるため、人工知能(AI)の活用なども検討する。

Yahooニュース(読売新聞オンライン)

豪雨や台風による洪水被害が頻発する中、ついに利水ダムを治水目的にも使えるよう、運用が見直されました。

方向性としては、とても良いことだと思います。せっかく貯める能力があるダムなのに、使わない と言うのはとてももったいないことですから。

特に今回良い点はここ。「事前放流後に水位が回復しない場合に、国が費用の一部を補填するなどの内容で協定を締結」一部とはいえ、予測が外れた際に、国が補填するそうです。今までは協力してもお金は出ませんでしたから、こういう制度になったのは評価すべきところ。 

コロナウイルス感染対策で「営業自粛させるなら補償をするのが当然」という議論がありましたが、これと同じことが利水ダムにも言えるのです。

営利目的で利用するため水を貯めている利水ダム(水力発電とか農業用水とか)で、水を捨てて洪水対策に協力・・・するのはいいんですけど、もし予測が外れて予定通りに水位が回復しなければ、電力会社なら「利益を捨てた」と株主から訴訟を起こされても仕方ないですから、一部とはいえ費用を補填してるなら、これまでよりは協力もし易いでしょう。

一方で、国が補填するのは費用の一部のみですから、実運用はなかなか厳しいかも という懸念も残ります。 もし予測が外れた場合、一部補填される分以外は利水者が「社会貢献」みたいな感じで負担するわけですからね。

理想形としては、利水容量の一部を「普段は自由に使っていいけど、洪水の危険がある際は空けて」というような契約で、利水者から国が買い取るべきものだと思います。(保険です)

それと、もう一点残念なのがこちら。 「国は今後、降雨量などの予測精度を高めるため、人工知能(AI)の活用なども検討する。」

新技術を使って降雨の予測精度を高めるのは誠に結構なんですが、それは気象庁だって威信をかけて頑張っているはず(でもなかなか精度はね・・・)

それに、ダム運用で重要なのは降雨量ではなく、もう一段先の「ダムへ流れてくる水の量(流出量)」なんです。 

山に降った雨(降雨量)が、どの程度の時間をおいて、どの程度の量が川に流れ出てくるのか。 降雨と流出の間には、山岳土壌というブラックボックスが介在し、その予測精度は決して高くないのです。

 だから国が技術開発するのであれば、降雨ではなく流出量をより正確に予測するシステム開発をしてほしい と思った次第。まあ「降雨量など」ってあるので、そこは期待しましょう(笑)。

投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

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