僕の趣味の一つに、日本軍艦船模型の製作があります。 軍艦というのは色彩が地味で目立たないのですが(ほぼ灰色と茶色のみ)、飛行機を搭載すると「緑色」が加わり、少し華やかになるんですね。 それもあって、飛行機を搭載した艦を好んで作っています。
この当時の軍艦搭載の飛行機というのは、フロート(浮舟)をつけた水上機を指します。離陸は軍艦に装備されたカタパルトから打ち出され、着陸は海面上に着水。艦のクレーン(デリック)で艦に引き上げられる仕組み。
参考記事’日本海軍艦艇のカタパルト
日本海軍は、この水上機の開発や活用に熱心で、多くの水上機が存在しました。 それはアメリカ海軍と比較すると一目瞭然。一覧表をつくってみたので、比較してみましょう。
左から右に時代が流れていて、線で結んだのは「後継機」の意味合いです。 あと日本軍のほうは、縦軸を「浮舟の個数」と「役割」で分類しました。
総数としては日本側11機種、アメリカ側4機種です。
水上機の主な任務は、偵察と哨戒です。
偵察には、比較的短距離の「弾着観測」と遠距離の「偵察」があります 主力艦の大砲は最大飛距離が30kmを超えるので、弾着は艦上から観測するより、上空の飛行機から確認し誤差を修正するほうが合理的です。この任務を担うのが水上機による「弾着観測」です。操縦士と偵察員の二人乗り(二座)の水偵が担うことが多いです。アメリカのSCシーホークは「自動操縦装置」を積んで、この仕事を一人(単座)でヨロシク!という意欲的な機体です。ちょっとキビシイんちゃう?
偵察は文字通り偵察です。ただし海上のなにも目印がないところを飛んで行くので、「操縦士」「偵察員」に加え「航法士」を乗せて行きたいところ。 3人乗りを「3座(席)」と言いますが、遠距離偵察を行うのは三座機が多いです。二座でも行かされるけどな。
あとは艦隊の上空を飛んで、敵の潜水艦を警戒するような対潜「哨戒」なんかが主任務。
アメリカの水上機は、全てこれらのために開発された機体です。縦軸(役割)の分類がないから、世代交代の4機種で事足りたのですね。
日本海軍は事情が異なりました。 太平洋戦争前の日中戦争で、水上偵察機に対空戦闘や爆撃をやらせて、なかなか戦力になった経験から、水上機の開発にそれらの性能も求めていたのです。(当時はまだ陸上機も車輪をぶら下げて飛んでたから、陸上機と水上機の性能に大きな差がなかった)
零式水上観測機は、速度を犠牲にしても対空戦闘で小回りが効くよう、その時期には珍しい「複葉機」でしたし、零式水上偵察機は胴体に爆弾倉を持っていました。他の機体も、30〜60kg程度の小爆弾を搭載できるようになっていました。
また、太平洋戦争の前中盤は、両軍による島嶼攻防戦が盛んでした。
アメリカ軍は島を占領すると大量の重機を持ち込み、短時間のうちに飛行場を建設、そこを基地にした陸上機を攻防戦につぎ込みました。でも日本軍は重機がほとんどなく、なかなか飛行場を造れませんでした。んで閃いたのです。「陸上機の代わりに、水上機に対空戦闘や爆撃やらせたらいいんじゃ?」
ゼロ戦(零式艦上戦闘機←「艦上」というのは、航空母艦から飛び立てる、短距離離着機です。)にフロートをつけて、水上戦闘機に仕立てた「二式水上戦闘機」や「強風」といった水上戦闘機を作りました。 まあ、車輪を引っ込めた陸上や艦上戦闘機が相手では、まともに戦えないけど・・・それでも 「二式水戦」や「零式水観」は遠方の基地から飛んできた零戦と共同作戦を取ればそれなりに実績をあげたのです。「零式水偵」は搭載爆弾で「魚雷艇」攻撃に活躍したしね。
「強風」は戦争末期に琵琶湖から離水し、B29の迎撃に向かったことがあるそうです(戦果不明) 。強風を陸上機化した「紫電」、それをさらに改造したのが大戦末期の名機「紫電改」ですから、高性能機の鱗片はあったものかと。
他にも 水上機だけど急降下爆撃ができるし、戦闘機並みの武装をした「瑞雲」という水上機を造ったりしました。こちらは250kg爆弾が搭載できたそうな。ここまでやればもう爆撃機だわね。
この瑞雲という機体、沖縄戦時に日本軍の飛行機が「特攻」(帰還を想定せず)していた時期に、「夜間単独飛行」とはいえ爆撃攻撃(帰還を前提)をしていた数少ない機体です。キビシイ任務で、帰還率は極めて低かったのですが。
日本では、戦闘を強いられる戦闘機や爆撃機の熟練パイロットが激減し、未熟なパイロットでは、特攻しか効果的な攻撃(?)手段がない という状況だったのにくらべ、「偵察機」は帰ってなんぼ(偵察結果を報告するのが務め)なので、水上機乗りに比較的熟練パイロットが生き残っており、夜間単独飛行に爆撃という熟練を要する攻撃ができた という説もあるようです。
それから、日本軍は大型潜水艦に偵察用の小型水上機を乗せるのに熱心でした。特に零式小型水上機は敵の軍港偵察(遠方では真珠湾、オーストラリア、ニュージーランドやマダガスカル島の港)、さらに小型の爆弾でアメリカ本土爆撃までしてるんです。よくもまあ、こんな小型の水上機でよくそこまで頑張ったな。
その延長線上・・・かな、ばかでかい潜水艦に水上爆撃機を3機載せて、潜水艦群でパナマ運河を爆撃しよう! という計画で「潜水空母・伊400級」を作っちゃいました。搭載された水上爆撃機が「晴嵐」です。
実際にはパナマから 「ウルシー環礁(西太平洋カロリン諸島)」に碇泊する敵艦船攻撃へと目標が変更され、そこを爆撃に行く航海中に終戦になったため実戦経験はありません(そもそも軍用機として制式採用もされていなかったが)。それでも800kg爆弾を搭載する正真正銘の「爆撃機」であったことは確かです。
上から「零式小型水上機」
「零式水上偵察機」「零式水上観測機」
「二式水上戦闘機」「強風」
「瑞雲」「晴嵐」
こういうふうにいろんな機体を搭載した艦は実際には無いんだけれども、攻撃力のある水上機部隊(水上偵察機+水上戦闘機+水上爆撃機)を架空艦に載せてみた〜。 まあ機体だけ眺めても、このサイズでは機を見分けるのはなかなか困難だけど。