安倍晋三元首相の国葬に関する閉会中審査が8日午後、衆参両院の議院運営委員会で行われる。岸田文雄首相が出席し、国葬開催を決めた理由や法的根拠などを国会に初めて報告し、与野党の質問に答える。
国葬、初めて国会に説明 岸田首相出席、8日閉会中審査
安倍元首相の国葬については、賛否両論ありますね。しかしまあ、「安倍氏を国葬すべき理由」あるいは「安倍氏を国葬すべきでない理由☆」なんて、どちらももっともらしくなんとでも作れます。政治家の人物評価なんて見方によって違うから、実施理由が正当だったを議論しても、その議論は平行線で不毛でしょう。
いずれにせよ、国税を投入して実施することは決まっているんで、この儀礼をコスパよくやってほしいものです。
でも本来の議論としては、「安倍氏を国葬することが妥当と判断した理由」ではなく、「安倍氏は国葬法実施基準のどの条項に合致し、その該当要件の審査が適切であると判断する法的根拠」が問われるべきだったでしょう。日本は法治国家であり、首相が記者会見ではなく、衆参両院の議院運営委員会という立法府で説明するなら特にそうです。
法治国家 その基本的性格が変更不可能である恒久的な法体系によって、その権力を拘束されている国家。すなわち、国家におけるすべての決定や判断は、国家が定めた法律に基づいて行うとされる。
wiki
立法府とは立法を通じて国民または市民がどのような方法で何をするべきかを決定する国家機関の一部門である。
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でも、現在の日本に国葬法はないんです。戦前の日本には国葬令があり、「国家に偉功ある者」に対し、「天皇の特旨により国葬を賜う」ことができたのですが、今は根拠薄弱。当然「この人の功績がどの要件に合致したので国葬を行うか」という選定基準なんてありません。じゃあ、どうやって法治国家が国家事業(国税投入)を実施しようと言うんだ・・・
そして、国葬該当要件認定は、誰がどういう理由で決めたんでしょう?最低でも、第三者委員会で国葬に値する功績か審議するレベルだと思うのだけれど。
仕方ないから、開催は 「閣議で決定」。功績審査は・・・この運用も問題ですねえ。
一 「故吉田茂国葬儀」の際には、大喪の礼を除いて国葬についての根拠法令がなかったことから閣議決定によって国葬儀が行われた。その一方で、今回の「故安倍晋三国葬儀」に関しては、令和四年七月十四日の岸田文雄内閣総理大臣の発言によると、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)において国の儀式が内閣府の所掌事務となっており(第四条第三項第三十三号)、国の儀式として行う国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るとしている。しかしながら・・・
安倍晋三元内閣総理大臣の国葬儀に関する質問主意書
閣議了解でOKなら、時の内閣総理大臣が強い意志をもってやると決めれば誰でも国葬できることになっちゃいます。法治国家としては非常にヤバい運用です。
・閣議(かくぎ)とは、内閣の意思を決定するために開く会議。
wikiより引用
・総理大臣が主宰し(議長)、官房長官が進行係を務める。
・閣議は各大臣の隔意のない意見交換のために非公開が原則。
・閣議の意思決定は出席した閣僚の全員一致を原則とする。内閣一体の連帯責任に基づき、解釈上、閣議の方針に服しがたい閣僚はその職を辞すべきとされ、制度上も内閣総理大臣は任意に国務大臣を罷免できる(憲法第68条第2項)とされている。
ちなみに、内閣府設置法第四条の第三項第三十三号は以下の通り書かれているだけ。いや、これで「国葬を実施することができる」って、どう読めばそうなるのかなあ?これが通るなら、同解釈で首相は「自らの誕生日を祝う」国家行事だって栄典として国費実施できるんじゃ?
3 前二項に定めるもののほか、内閣府は、前条第二項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
三十三 国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)。
内閣府設置法
追記 この点の法的問題については、毎日新聞がうまくまとめていますので、以下の記事をどうぞ。
安倍氏の国葬について「法的根拠は何か?」「根拠法はあるのか?」と聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか。戦前の「国葬令」は廃止されている。「ない」とか「不明確」と言うだろうか。それとも「閣議決定」「内閣府設置法」と答えるだろうか。
国葬の「法的根拠」は何か
私は是非は別にして、最近まで「内閣府設置法4条3項33号」が政府が説明する法的根拠だと思っていた。一部報道でもそういう説明をしているところがある。しかし取材をしていて、その理解はやや不正確だということを知った。
まあ・・・仮に国葬令があったとしても、(戦前のものと同レベルの「国家に偉功ある者」という曖昧な基準であるなら)どう選考するか、その功績審査が適切であったかの判断は非常に難しい(賛否両論)ことは確かでしょう。 特に日本のように、「微妙そうな・ヤバそうな審査文書は最初から残さない、残しても開示しない」国では検証は特に困難でしょう。
宗教法人を所管する文化庁が1998~2009年に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)から活動状況を9回聴取した際、会議資料や報告書を作成していなかったことが24日、訴訟資料から分かった。文化庁は「記録を残すかどうか法的根拠はなくケース・バイ・ケース」と説明しているが、教団と所管庁との関係性に疑問は残る。訴訟で原告側代理人を務めた弁護士は「行政として継続的に対応するには適切な記録保管が重要だ」としている。
旧統一教会の文化庁聴取記録なし 9回分作成せず
訴訟は元信者が09年、教団側と国に献金の返還などを求めて起こした。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が長年希望していた名称変更が突然、文化庁に認められたことについて、2015年8月の決裁文書の開示を受けたところ、変更理由が黒塗りになっていたと、共産党の宮本徹衆院議員がツイッターで明らかにした。
旧統一教会の名称変更めぐる「黒塗り開示」に批判 文化庁に理由を聞いた
宮本氏は、宗教法人は税制上の特例を受けており、国民への説明責任があるとして、黒塗り部分は開示すべきだと批判している。なぜ開示しなかったのか文化庁の話を聞いた。
・・・開示しない理由については、情報公開法第5条2号のイに基づくと説明した。そこでは、行政文書開示について、「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」の情報を除くとされている。
国家組織でも、末端で務める分には議事録や公文書の取り扱いはウルサかったんですが、中央へ行けば行くほどそれが(多分意図的に)杜撰になる。手塚治虫の漫画にそういうのありましたね。 そう、陽だまりの樹。
タイトルの「陽だまりの樹」は、水戸学の弁証家である藤田東湖が劇中で主人公の伊武谷万二郎へ語る藤田東湖の家の庭にあった桜の樹でありそれは当時の日本の姿を比喩する名称である。19世紀後半、欧米が市場を求めてアジアへ進出した世界状況で、日本の安全保障を確保するには天皇の権威を背景に江戸幕府を中心とする体制再編により国体強化が必要であるとした東湖だが、幕府の内部は慣習に囚われた門閥で占められている事から、シロアリ等々の虫によって中身が腐っている事から倒れかけているとして、これを「陽だまりの樹」と呼ぶ。
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閉塞状況を打開するものは青年の行動力以外にないと謳いあげた東湖のアジテーションは憂国世代の心を大きく揺さぶる。
アメリカでは、前大統領が機密文書を私邸に隠していた として家宅捜索を受けましたが、僕はこのニュース、「アメリカはまだ日本よりだいぶ健全だなあ」という印象を受けました。てか、これが「普通レベル」なんでしょうけど。
残念ですが、この手の事件は日本では起こらないでしょう。 もちろん、日本の政治家や高級官僚が清廉だから ではなく、日本ではそんな機密文書は「そもそも作成されていない」あるいは「処分済み」だから。
米連邦捜査局(FBI)がドナルド・トランプ前米大統領の自宅を家宅捜索した際に、「最高機密」と指定された政府文書を発見し押収していたことが12日、明らかになった。FBIが「スパイ防止法」違反などの疑いで、捜索令状を得ていたことも判明した。米司法省の申請を受け、フロリダ州の連邦地裁が捜索令状と押収品受領書の開示を許可した。これに先立ちトランプ氏は、令状の公表を歓迎する発言をしていた。
米FBI、トランプ邸から最高機密文書を押収 捜索令状公開
日本では、「証拠隠滅のため、ヤバい書類は全部燃やしちゃえ(命令)」という輝かしい文化的・歴史的事例が戦前から脈々とありますし。てか、そんな命令があったのか、なかったのか、証言以外にの有力な証拠が限られるという・・・それを出した関係者が、このために罰せられたとも聞かないですし、責任追及を逃れるための書類隠滅は十八番なんで。
☆ちなみに、戦後日本で国葬された政治家・吉田茂は、戦後軍政統治されたOccupied Japanにおいて、再独立に向け尽力した首相であり、主席全権としてサンフランシスコ平和条約に署名(これにより、日本国は再び独立国として国際社会に承認された)した人物です。本土独立のため支払った代償は高く(安保締結、在日米軍の(実質)治外法権、沖縄の独立置き去り等々)、またその他の政策を含め手腕や判断に賛否あるけれど、先の功績は「歴史的業績」として良いでしょう。首相としての連続在任期間は歴代3位。
連続在任期間歴代2位の佐藤栄作は、日本人唯一のノーベル平和賞を受賞していますが、国葬はされていません。
佐藤氏は当時、連続在職日数が7年8カ月で現憲法下最長。ノーベル平和賞を受賞し、党内からは国葬にすべきだとの意見も出ていたが、吉国長官が「法制度がないので、国葬とするには立法、行政、司法の三権の了承が必要」と語ったと伝えた。これが国葬見送りの理由になったとも語った。野党は国葬に反対していた。
国葬は「三権の了承必要」、過去に内閣法制局長官が見解 関係者証言
さて、連続在任期間歴代1位、国葬される安倍晋三は、この二人に匹敵する歴史的業績をなにか行ったのでしょうか?(「業績をあげた」レベルなら認めるもやぶさかではないけれど。)
私は国葬儀を実施するとの決断をいたしました。民主主義の根幹たる国政選挙を6回にわたり勝ち抜き、国民の信任を得て、憲政史上最長の8年8か月にわたり重責を務められたこと。第2に、東日本大震災からの復興や、日本経済の再生、日米関係を基軸とした戦略的な外交を主導し、平和秩序に貢献するなど、様々な分野で歴史に残る業績を残されたこと。第3に、諸外国における議会の追悼決議や服喪の決定、公共施設のライトアップを始め、各国で様々な形で国全体を巻き込んでの敬意と弔意が示されていること。第4に、民主主義の根幹である選挙活動中の非業の死であり、こうした暴力には屈しないという国としての毅然(きぜん)たる姿勢を示すこと。国葬儀を執り行うとの判断に至った理由をこのように説明してきました。
岸田内閣総理大臣記者会見
第四の理由については、城山三郎の「男子の本懐」を読んで、政治家が国葬を行われる理由にあげるのがふさわしいか、よく考えるべきでしょう。第三の理由、各国の敬意と弔意なんて理由にならないでしょう・・・
昭和初年に金解禁を断行した濱口雄幸(当時内閣総理大臣)と井上準之助(当時大蔵大臣)を主人公とした歴史経済小説。濱口は狙撃事件ののちその際の傷が遠因となって死去するが、これをかねて、殺されることがあっても男子の本懐だと述べていたことが題名の意味である。
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第二の理由も、本人に聞けば、「いやいや、とても両先輩には及びませんよ(まだこれからも頑張るし)・・・」と言われたかと思います。
ま、「死人に口なし」とはよく言ったものです。 それと、「葬式は死者のためではなく、残った生者のためのものである」という言葉も添えておきましょう。ともあれ、道半ばで無念の死を遂げたであろう氏のご冥福はお祈りします。