1万トン軍艦の設計思想比較例(ポケット戦艦、日米条約型巡洋艦)

野球において、理想的な野手を「走攻守三拍子そろった」と形容することがありますが、「走→速力が早いこと 攻→攻撃力が大きいこと 守→防御力が大きいこと」 と読み替えれば、理想的な軍艦というのも、これらのバランスが取れた艦のことと言えそうです。

が、高速力を得るには高出力エンジン(重い)の搭載が必要となり、攻撃力を増すためには、搭載する兵器の重量が増大します。防御力を増すにも厚い装甲が必要(当然重くなる)が必要。走攻守の能力増加を行うと、重量増加が避けられません。

史実においては、二つの大戦間において「基準排水量1万トン以下」という軍艦の国際的排水量制限が設けられた時期がありました。

1万トンという制限下で、走攻守すべてに満足できる解の存在は難しそうです・・・ってことで、この時代の軍艦であれば、各国がこの制限の中で何を犠牲にし、何を優先して軍艦を設計したかが比較できます。

当然、それは模型にも反映されるので、組み立てて比較するとなかなか面白いなぁと思いまして。  マニアだ・・・

第一次大戦に敗れたドイツに課されたのは、「老朽戦艦の代替艦は1万トン以下」という条件(ヴェルサイユ条約)であり、アメリカ・イギリス・フランス・日本・イタリアに課されたのは、巡洋艦は「一万トン以下、主砲8インチ(20.3cm)以下」という軍縮条約でした。(ワシントン海軍軍縮条約。これに基づき造られた艦を「条約型巡洋艦」と呼ぶ)

ドイツと日本、そしてアメリカの事例を紹介します。アメリカの模型はないんだけど・・

ドイツはある程度の戦艦(海防戦艦等)にも対抗できる28cmという、条約型巡洋艦の20cm砲を大きく凌駕する砲を乗せる代わりに、巡洋艦としての防御力と速力を犠牲にした(攻優先、走守を犠牲に)、「極端な軍艦」「巡洋艦と戦艦の境界の軍艦」を造りました。ポケット戦艦と呼ばれる艦です。

ドイッチュラント級装甲艦は、第一次世界大戦後、ヴァイマル共和政下のドイツ海軍 がヴェルサイユ条約の制限下において、退役艦の代替艦として初めて就役させた1万トン超の軍艦。ドイッチュラント (後にリュッツォウに改称)、アドミラル・シェーア 、アドミラル・グラーフ・シュペー の三隻が建造された。 条約型巡洋艦を上回る砲撃力と、戦艦を上回る速力を有し、ディーゼル機関によって大きな航続力を有する。そのような特徴をとらえてポケット戦艦と呼ばれた。

wiki

主砲に28cm砲を6門、副砲に15cm砲を8門搭載し、しかも魚雷発射管まで積んでいます。それを一万トンの船体におさめるため、涙ぐましい努力をしたのです。

  • ディーゼルエンジンの採用  高速力を出すには、蒸気タービンを載せることが必要です。が、タービン機関はスペースと重量を食います。そこで妥協してより軽量小型となるディーゼルエンジン搭載としました。→大型ディーゼル機関は快調とはいきませんでしたし、速力は「巡洋艦としては」遅い。けど燃費がいいので、航続力は大きくなりました。
  • 電気溶接の採用 当時、鋼板をつなぐ手法は2枚の鋼板を重ね、リベット(鋲)で止めるのが一般的でした。でもそれを電気溶接にすれば、重ね代が減らせるから、かなりの軽量化が期待できます。 日本海軍でも電気溶接を試みた艦がありましたが、溶接による熱で船体が歪み、船体を切断して矯正するなど、当時では難易度の高い技術でした。ドイツでは「クルップ社」がこの船のために溶接可能な新鋼板を開発して実用化しました。
  • 構造物には「軽合金」を採用
  • 大事な主砲は厚い装甲で守るけど、割ける重量がないので、副砲には装甲付けません(砲塔に見えますが波除カバーです)。
  • それでも足りないから、艦全体の装甲は薄くなりました。通常、軍艦は自分の持つ砲に耐える防御力を持つのが一般的です。例えば条約型巡洋艦の場合、20cm砲に耐えるため舷側装甲として130mmくらいの装甲が必要になります。けど、ポケット戦艦の舷側装甲は80mmしかありませんでした。28cm砲どころか20cm砲にも耐えられん・・・

そこまで身を削って?がんばったけど、結果としては1万トンを20%ほど上回ってしまいました。が、これを国際的には1万トンに抑えたと称しました。ま、これはある程度「お約束」みたいなもので、日本もアメリカも超えちゃってたりします。

これが条約型巡洋艦になると、逆に主砲を8インチに抑えることで、わりと走攻守のバランスが良い艦になります。でも20cm砲と28cm砲だと攻撃力には雲泥の差があるし、副砲だって載せられない・・・悩みどころではあります。比較表を掲げると以下の通り。

注目すべきは主砲・副砲、魚雷発射管数の差、蒸気タービンとディーゼルの出力差、装甲の厚さ でしょうか。 ポケット戦艦ば別格としても、条約型巡洋艦のなかでも、日米で諸元に濃淡があります。

日本は高速力で、魚雷発射管を多く積んでいます。半面装甲はやや薄く、特に主砲装甲はペラペラです。アメリカは魚雷発射管を諦め、速力少し低め(機関重量を抑えられる)の代わりに装甲厚め。主砲装甲も厚く、そもそも主砲の砲身が55口径と長い(重い)ことが特徴(「×口径」という表示は、砲身長さが口径の×倍であることを示す。砲身が長いと、同じ口径でも威力が上がる)。

高雄

これは、日本海軍巡洋艦は高速で相手に接近し魚雷で攻撃する戦法(雷撃戦)を重視していたからであり、砲撃戦では主砲の攻撃力は重視するも防御力は付与せず、弾が当たったら諦めるという思想がありそう。

対するアメリカ海軍は砲撃戦を最重視し、魚雷戦は駆逐艦に任せて諦め、代わりに主砲の威力増大と主砲および艦自体の防御力を重視したという思想がありそうですね。

主砲塔防御を重視するなら、門数を1減らしても、連装砲塔5基ではなく、3連装砲塔3基にするでしょう(防御重量軽減のため)し、「弾が当たったら諦める」なら多数の主砲塔に分散したほうが合理的かもしれない。設計としては面白いところだと思います。

あと、日本は搭載航空機を露天に置くのに対し、アメリカは格納庫に入れられるとかね。これも砲戦を大事にしたアメリカの艦だから、でしょうか?(日本では、砲戦の衝撃で搭載機が損傷したという事例があったと思います)

ドイツ海軍のポケット戦艦は・・・日本以上に攻撃的というか、うーん、主砲と副砲の攻撃力はすごいんだけど、装甲薄いわりに速力も出ないから、捕まったら逃げ出せないし(戦艦との速度差もそれほどない)、設計コンセプトは面白いけど、あんまりいい使い道、ないんじゃね?・・・先のwikiにはこんな記述があり、そうだよねえ・・・と思ってしまいます。

「巡洋艦を圧倒できる砲力、戦艦との交戦を回避して離脱できる速力、長大な航続力で通商破壊作戦も可能」と宣伝された本級だが、ドイツ海軍側からは「政治によって造られた艦」で「弩級戦艦に砲力で、巡洋艦に速力で劣る艦」という厳しい評価もあった。

ただし本級の登場は列強各国に大きな衝撃を与え、建艦競争を引き起こした。 第二次世界大戦では、初期の対英戦における通商破壊作戦で活躍した。

同上

まあ、これだけの重武装を搭載して艦体を1万トン強に抑えたドイツの技術力はすごいなあって思うし、戦艦に見える艦形は、模型としては見栄えしていい(笑)

ところで、造ってて気になった点が2つ。知ってる人いたら教えてください。(マニアック)

①ポケット戦艦の対空能力について

この艦の対空能力が高かった という評価は聞かないのですが。この船の高角砲は65口径10.5cm連装砲3基。これって日本海軍で傑作と呼ばれた長10cm高角砲と同程度の長砲身なんですよね。初速度900m/s、発射速度も毎分15~18発とそれほど悪くありません。その高角砲を連装で3基搭載し、光学式指揮装置で制御しているなら(ドイツには優秀な光学技術があった)・・・かなりの対空能力があったと思うんですが、どうなんでしょう?

②搭載機 アラドAr196について

複葉か単葉かの違いはあれど、諸元的には日本の零式観測機とにかよった性能を持っています。となると、比較的短距離の索敵や弾着観測が主任務だと思うのですが・・・

武装がやたら充実しています。(機銃だけ見れば、戦闘機であるゼロ戦と同スペック)。水上機にこんな重スペック載せて何を狙っていたんでしょう? 水上戦闘機的な役割?

投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

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