「ヒューマンエラー」で片づけたら、再発するよ・・・羽田航空機事故

羽田空港の滑走路で日航と海上保安庁の航空機が衝突した事故で新事実が判明した。着陸機が接近する滑走路に別の機体が進入した場合、管制官に画面で注意喚起する「滑走路占有監視支援機能」が、事故当時、正常に作動していたことが分かった。国交省が5日、明らかにした。海保機は滑走路に進入後、約40秒間停止していたとみられ、管制官が注意喚起表示を見落とした可能性もある。海保機と管制のヒューマンエラーを含む複数の要因が重なり事故が発生した疑いがあり、運輸安全委員会や警視庁は詳しい経緯を調べる。

羽田空港衝突事故、管制官が「画面の注意喚起表示」を見落としか 海保機の機長、滑走路進入は「他クルーにも確認した」

まだ最終的な事故原因は解明されていませんが、これまでの報道を見る限り、両者のヒューマンエラー が主因となりそうな雰囲気です。

確かにヒューマンエラーが直接の原因だったのかもしれません。でも、人間が関わる以上、ヒューマンエラーというのは必ず起こるものなのです。

よくある事例なのですが、「今後は二度とこのような事がないよう社員教育を周知徹底してまいります」とあたかも個人が悪かったような言い方で、さらっと流してはいけないのです。なぜ組織でヒューマンエラーが発生してしまったか。そこを深堀しないと、再発防止の意味がありません。

ヒューマンエラーとは、人間が原因となっておこる失敗(問題)のことです。
人間は完璧ではありませんので、必ずミスをしてしまいます。

ヒューマンエラーは0にできない!エラー削減のためにできること

 

以後は独断と偏見ですけど、同じ役所(海上保安庁も航空機の管制官も、国土交通省に属します)に勤めていた者として一言言わせていただきたい。

「管制官が注意喚起表示を見落とした可能性」を指摘するなら「管制官が忙しすぎて注意喚起表示まで見られなかった可能性」もきちんと追及すべきじゃないですか?(要するに人手不足)

わたくしも、同省の地方事務所で防災担当(主に水害)をやっていましたけど、交代要員がいないから、早くから体制に入るといざ本番にヘロヘロでしたもの。 しょうがないから人がいない中で無理に交代するんですけど、それって・・・ねえ。

人手不足で、やりたいけど、やっとくべきだけど、時間的にやれないことがある ってのは、日本のどこの現場でも痛感していることじゃないでしょうか。このままだといつか重大事が起こるかも・・・。願わくば、それが自分の担当時でなければいいな・・・。誰かが疲労で先に倒れてくれたら、体制が改善されるんじゃないかしら・・・ という一種のババ抜き的気分。分かる方も多いのでは。

羽田空港って、誰が考えてもめっちゃ忙しい空港ですよね。特に正月は忙しいでしょうし、そのうえ能登半島で災害が起き、災害対応の航空機対応もあって、(衝突した海保機、事故前24時間以内に震災対応で2回飛行)空港管制はすっちゃかめっちゃかだったはずです。 

そもそも羽田は滑走路が4本もあるし、それらが平行ではありません(飛行機を時間差でクロスさせないと離発着できない)。そのうえ飛行制限区域(横田空域)もあります。そうとう運用難易度の高い空港のはず。

その管制を24時間365日、わずか80人の管制官でやるんですよ。 普段も、突発的な非常時も。(徐々に応援は来るのかもしれないけど、不慣れな人が来てもねえ)

管制塔での仕事には、滑走路を使う順番を決めて離陸や着陸の許可を出す「飛行場管制席」、地上の走行経路や待機場所を指示する「地上管制席」、飛行コースや高度が記載された飛行計画の承認を伝達する「管制承認伝達席」、ターミナル・レーダー管制室や航空交通管制部にいる管制官などとの連絡や調整をする「副管制席」等があり、それぞれを別の管制官が担当します。また、羽田空港には管制塔の四方に井桁状に走る滑走路が4本存在するため、360度を東西南北のエリアに分けて担当する「飛行場管制席」が4つあります。これらを滑走路の運用形態に応じて組み合わせて使用し、統括者である先任航空管制官以下約80名の管制官が昼夜交替で、互いに綿密な情報交換をしながら運用にあたっています。管制官の急病など万が一の事態にも対応できるバックアップ体制を整え、1日24時間365日、常に羽田空港の安全を監視しつづけているのです。

羽田空港のこれから

まあ、オフィシャルにはこういうことになってますが。でもまあ、NHKのニュースをみて、びっくりしたね。

(事故を受けて)羽田の管制業務で機体の位置を確認できるモニターを常時監視する担当を6日から、新たに設けることになりました。・・・管制官は増員せず、現在の人数で対応するということです。

羽田の管制業務“機体位置確認モニターの常時監視担当”新設へ

正しい日本語では、こういうのは「新設」とは言いません。「増員なしの業務増」と言います。で、これが安全に資すると本気で思ってんの? 終わってら。

きちんとモニターを見る時間的余裕があれば、管制官はちゃんと見るでしょ。素人じゃないんだし、その必要性を一番よく知ってる人たちです。担うその責任の重さも。

たぶん今頃現場では、「だったら増員しろよ。てかお前(この措置を決めたえらいさん)が現場来てモニター常時監視してみろ!何もできないくせに」と悪態をついてるんじゃないでしょうか。

何かしらの対策として人を付けた方がいいと思います。ただ、この1人は増員ではないということは、本来やっていた業務は不足にならないのか。あるいは、管制官の疲労管理という点で休憩が減ったりしていないのか。その作用・反作用がありますので、ただ付ければいいのではなく、おそらく国交省もそこを見極めてきたと思うので、見極めた上でメリットの方が大きいと判断したんだと思います。

日航機衝突“赤い警告画面”管制官が気付けず? 元管制官に聞く「不自然かな」

見極めたうえでメリットが大きいと判断したなら僥倖ですけど、上層部にそれを見極められる能力があるとは考えづらいなあ。そんな優秀な組織なら、見落としたくらいで重大事になるような監視モニターのみを設置して「これで安全やわ~」と平然としてた なんてことはないでしょう。

事故あったからとりあえずなにか対策取らな責められる・・・と泥縄で決まったんじゃないですか?

海保機の側も、ヒューマンエラー?を起こしているようですが

交信記録などによると、管制官は衝突2分前、海保機に滑走路手前の停止位置への走行を指示した。・・・機長は「他の乗組員らにも確認し、滑走路への進入許可を得たと認識していた」と説明している

滑走路進入で海保機長「他の乗組員にも確認、許可得たと認識」…日航機の着陸「知らなかった」

こちらも酷使しすぎじゃないかと。

男性機長は事故前日の1日、中国の海洋調査船への警戒監視のため、別の機体で約1700キロ離れた沖ノ鳥島(東京都小笠原村)周辺海域を飛行していたことがわかった。
 別の関係者によると、男性機長は1日午前10時頃に羽田空港を出発し、往復を含めて7時間超の飛行を終えて同午後5時過ぎに戻ったという。翌2日、能登半島地震の被災地に向けた支援物資を運ぶために海保機に搭乗。同午後5時47分頃に衝突事故が発生した。
海保幹部は「直前の勤務状況が過重だったことはなく、心身ともに問題はなかった」としている。

同上

幹部の発言に失笑しちゃいますが、「機長の勤務状況は過重じゃない」というのは「(人手不足の)日本の海上保安庁としては普通の勤務」というだけで、「世界的に見てパイロットの運用としてはどうか」 という視点に立ったものじゃないですよね。ま、前者の視点に立てないと、このような組織で幹部になれませんけど。 

さて、再発防止に資するのは、どちらの視点なんでしょう?

以下の例は海上保安庁ではなく(事例がなかった)、自衛隊とアメリカ軍との比較ですが。まあ、日本の災害対応組織(自衛隊、警察、消防、国交省)はどこもこれと同じ状況だと確信してます。

日米軍と交代制 休暇

日本の役所は(軍隊も役所)、平時をやりすごす最低限の人数で定員構成されているんで、災害時(非常時)に人手不足になるってか、そもそも交代要員がいません。長期戦が戦えない時点で、非常事態対応官庁としておかしいのですけど。

でもまあ、上記の事例のように日本軍もそういう考えでしたから、日本のうるわしき伝統ってやつです。

やる気(大和魂)があれば、不可能も可能になる!できないのは気合が足りないからだ。死ぬ気で突撃してこい!・・・まるで魔女裁判っす。どうやっても死確定(笑)。

もちろん、災害時に対応するために編成されている組織だから、「非常時だから頑張らなくちゃ!」と構成員は士気高く頑張ります。ただ、それはアメリカだって日本だって同じです。

人間は機械じゃないので、頑張ってやっていても疲れは出るし、ミスだって出やすくなります。それをヒューマンエラーで片づけられては、現場はたまりません。

ここは人情論ではなく、組織経営論として「十分休ませる」「そのための人員は確保したうえで投入」することが必要なんだけど、日本はその意識が徹底的にかけてます。ゆえに、事象は再発します。

アメリカのブラック企業として名高いアマゾン(特にピッキング作業)だって、経営者はそれくらいの意識は持っているよう。これ日本基準で言うと、アマゾンはブラック企業なん?

Amazonには、「Good Intentions don’t work, only mechanism works!」という経営哲学がある。これは、直訳すると「善意は機能しない、仕組みだけが機能する」という意味である。
「自分が少し無茶してがんばればよい」という“善意の行動”は、すべての社員ができるわけではない。そうではなく、全員が無茶なく、ミスなく適用できる仕組みを整えよ、というのだ。

Amazonは“日本企業のように”「気合でなんとかする」ことをしない… 至極真っ当なその理由

運輸安全委員会の調査官に読ませてあげたい文書だけれど、そもそも彼ら自身も人手不足で多忙で、そんなことやってる余裕は、無いんでしょう・・・

国家公務員は労働基準法が適用されず、残業時間は人事院規則で決められる。月100時間、年720時間が上限だが、重要法案の作成などの特別業務があれば残業時間は無制限になる。
…精神・行動障害による国家公務員の長期病休者は21年度に4760人で、この20年で倍増した。霞が関近くの精神科クリニックで診療する井原裕・独協医大教授は警鐘を鳴らす。
 「ぼうっとして、真っ白に燃え尽きた『あしたのジョー』のような官僚を何人も診た。情緒不安定で涙がぼろぼろ出る、パニック発作などの症状を抱えた人もいる。官僚の働き方を変えるべきだ」

<コモンエイジ>「無理ゲー」の霞が関 退職官僚がつづった思いとは

追記

羽田空港で航空機2機が衝突した事故を受け、国土交通省は、管制官が離陸許可を出す際に出発順を示す「ナンバー1」という言葉を使わないなどの緊急の安全対策を取りまとめました。 

羽田事故で“緊急安全対策” 管制官「ナンバー1」使用禁止へ

誤解を招く呼びかけを使わない とか。ヒューマンエラーを起こさないようヒューマンに気を付けさせるような対策ばかり。(重要な点は「無料」でできること!)根本的には、ヒューマンはエラーを起こすものなのだから、それを人間ではない機械等とのダブルチェックでエラーを発生させないよう防止することが肝要なのに。 世界の常識は、日本の非常識だそうですよ。

航空機側に衝突を未然に防ぐ装置が存在するのかというと、2つのシステムが実用化されています。
「TCAS(ティーキャス)」と呼ばれる接近警報装置です。これをさらに進化させて、自機の位置を緯度経度の座標情報を含んだ信号で、周囲にいる他の航空機に発信するシステムが「ADS-B」と呼ばれるものになります。・・・
ところが日本では、TCASやこれに反応するモードSの導入は進んでいますが、ADS-Bは義務化されていません。


 海外メディアは、この点が今回の事故の重要な要因として報道などで取り上げているのに対し、国内メディアは、このことに触れていないという点に大きな違いがあります。海外メディアは、今回の事故を起こした海保機は、モードSこそ搭載していたものの、ADS-Bは未搭載であったと伝えています。


そこへ今回の事故が発生してしまいました。この事実を国土交通省はどう説明するのでしょうか。しかも、日本で最も忙しい羽田空港の常駐機にADS-Bが搭載されていなかったことは、世界の常識と照らし合わせると考えられないことだといえるでしょう。

羽田衝突事故「海保機に非搭載だった」と海外メディア報じる装置とは 欧米で義務化 日本は事故後も“沈黙”

このような状態では、安全を確保する最低限の人数は確保しているものの、余裕は全くないはず。ひっきりなしに離着陸を行う飛行機を見続けなければならない管制官にかかる負荷が大きくなっている現状もあるのだ。
取材の最後、前出の担当者は「(今回の事故を受けて)報道等で飛行機がいたことを見落とした等と表現される。でも管制官は多忙の中で常に仕事をしており、そのような表現をされると全国の管制官のメンタルは非常に傷つく。あれを過失と言われるならどうやって自分の身を守ればいいのか。管制官は常にこのような状況に置かれていると知ってほしい」と訴えていた。

羽田で5人死亡の航空機事故、国交労組「人手不足で安全保てない」…遠因の指摘も

投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください