局地的な気象(線状降水帯等)の予測・対策の困難さについて

予測に限界、遅れた警告 豪雨500ミリに気象庁「まさか」


熊本県南部を襲った集中豪雨で、心肺停止の状態で見つかる人が多数に上った。雨は三日から降り始めたが、局地的な気象の予測には技術上の限界があり、気象庁は四日未明まで大雨特別警報を発表できなかった。先を見通し、注意報や警報の段階でいち早く避難を促す難しさがあらわになった。


一つの積乱雲の寿命は一時間程度だが、連続発生し、風に吹かれることで同じ場所に雨を降らせることで知られる。日本で発生する多くの豪雨は線状降水帯が原因と考える専門家もおり、注意を要する気象現象だ。
「まさかここまで降るとは・・・」ある気象庁関係者は四日、肩を落とした。
線状降水帯の発生は上空の風や地形の影響を受けるとされ、現代の技術でも予測が難しい。

中日新聞

熊本県南部を襲った集中豪雨は、ひどいことになっています。というか、現在進行形です・・・ 

近年豪雨災害が続き、国交省はダムがある河川の場合、「利水ダムを治水利用する」とか「豪雨が降り出す数日前からダムを放流し、容量を空っぽにして水害に備える」というような対策を打ち出しており、このブログでもたびたび記事にしています。

これらの「施設有効活用対策」は、施設があれば災害対応としてもちろん有効なんだけど、事前に準備しておくためには、正確な降雨予測が不可欠です(正確には流入量予測だけど)。

が、気象庁曰く、今回の豪雨のように「線状降水帯」を原因とする大雨は、現在の技術では予測が困難だそう・・・。そのうえ「日本で発生する多くの豪雨は線状降水帯が原因と考える専門家もいる」そう。

ってことは、今回みたいな「線状降水帯」豪雨の場合、先の「施設有効活用対策」の実効性は極めて低いってことだね!orz.

もちろん台風が来ている状況であれば、まだこれより予測は立てやすく、有効活用できることもあるでしょうけど。

そんなら、どういう対策を考えればいいんだよー!

一応理論的には「流域治水」がその解になるんですが、これもなかなか実現困難なのです。実は今回の災害の舞台となった球磨川は、上流のダム計画が中止され※、「ダムに頼らない治水を目指す」という方向で動いていて「流域治水」の先進地でもあったんです、が・・・。

「流域治水」先進地の熊本、間に合わなかった 国交省が防災総合対策公表

豪雨災害に対応するため、国土交通省がダムや堤防の整備に加え、住まい方を工夫したり、雨を貯留する施設を造ったりといった対策を総動員する「流域治水」を打ち出した。「堤防やダムだけで水を制御するのは難しい」(国交省幹部)ためだ。ただ、いち早く流域一帯での対策を目指してきた熊本県の豪雨被害からは課題も浮かぶ。

熊本のケースでは関係者の協議が長期化、堤防のかさ上げ、洪水時の水位を下げるための川底掘削といった案が検討されながら、結論は出ないまま。樺島知事は5日、記者団に「多額の資金が必要で実現できなかった」と釈明した。

中日新聞

「多額の資金が必要だった」こともあるんだけど、テレビのヘリ中継で千寿園(老人ホーム)上空あたりを見ていると、山中の川沿いのわずかな平地に、老人ホームや小学校、人家が密集して建っています。さらに支川が流れ込んでいたりする。 

あのような地形で堤防をかさ上げ(堤防高を上げるためには、堤防に盛り土が必要。今以上の盛り土を行うため、堤防用地が追加で必要)することは、ただでさえわずかな平地が減り、現在堤防沿いに建っている家は移転しなきゃいけない と言うことです。 

あの地形で水位を下げるための川底掘削・・・どのくらい下流から(すなわち大量に)掘って来なきゃいけないことか。そもそも、掘削するための重機の置き場や掘削した土砂を運ぶ大型ダンプの通行路が無い・・・あっても街の平穏な生活が乱される・・・

ってことで、住民の平常時の生活は不便になることばかり。そりゃ「案が検討されながら、結論は出ないまま。」に決まってます。

「雨を貯留する施設(球磨川なら調整池だろう)造る」ったって、そもそも空いてる平地がない。「住まい方を工夫」は有効だろうけど、「あんたの家は危ないから、1階は車の駐車場だけにして、2階に居間と寝室を造るよう勧告する」とか「危険のある地区には住まないよう要請」ってこと(コロナ対策で「外出自粛要請」しか出せない国だから)これも有効打にはなり得ないでしょうね。

結論として、現実的に有効そうな対応って、なさそう・・・・

んで、日本の山間地を流れる河川には、あのような地形条件に暮らす集落って、いくらでもあるんです。

そこまでの現状を踏まえた上で、個人として対応できそうなことを考え、実施していくしかないんでしょうねぇ。

※ダムがあれば、今回の洪水が防げた とは限りません。それは「どのような規模の洪水を治水目標とするダムを造るか」が重要になってくるためで、今回の洪水規模がダムの治水目標を超えたものであれば、ダムの防災効果は限られたものになります(異常洪水時防災操作に移行するため)。

 

利水ダムの治水利用にまず一歩

利水ダム620基、事前放流へ…貯水能力倍増で洪水対策
 豪雨や台風による洪水対策を強化するため、国は、発電や農業用水などに限って使われていた「利水ダム」も活用できるよう運用を見直した。台風などの前に、新たに620基の利水ダムで事前放流を実施することで、雨水などの貯水能力を46億立方メートルから91億立方メートルに倍増させる。
 運用が見直されることになったのは、1級河川を抱える水系にある利水ダム620基。国は電力会社や利水事業者らと協議を進め、事前放流後に水位が回復しない場合に、国が費用の一部を補填するなどの内容で協定を締結した。これによって洪水対策への活用が可能となり、雨水などの貯水能力(洪水調節容量)は、八ッ場ダム50基分にあたる45億立方メートル増え、見直し前の2倍となった。
 国は今後、降雨量などの予測精度を高めるため、人工知能(AI)の活用なども検討する。

Yahooニュース(読売新聞オンライン)

豪雨や台風による洪水被害が頻発する中、ついに利水ダムを治水目的にも使えるよう、運用が見直されました。

方向性としては、とても良いことだと思います。せっかく貯める能力があるダムなのに、使わない と言うのはとてももったいないことですから。

特に今回良い点はここ。「事前放流後に水位が回復しない場合に、国が費用の一部を補填するなどの内容で協定を締結」一部とはいえ、予測が外れた際に、国が補填するそうです。今までは協力してもお金は出ませんでしたから、こういう制度になったのは評価すべきところ。 

コロナウイルス感染対策で「営業自粛させるなら補償をするのが当然」という議論がありましたが、これと同じことが利水ダムにも言えるのです。

営利目的で利用するため水を貯めている利水ダム(水力発電とか農業用水とか)で、水を捨てて洪水対策に協力・・・するのはいいんですけど、もし予測が外れて予定通りに水位が回復しなければ、電力会社なら「利益を捨てた」と株主から訴訟を起こされても仕方ないですから、一部とはいえ費用を補填してるなら、これまでよりは協力もし易いでしょう。

一方で、国が補填するのは費用の一部のみですから、実運用はなかなか厳しいかも という懸念も残ります。 もし予測が外れた場合、一部補填される分以外は利水者が「社会貢献」みたいな感じで負担するわけですからね。

理想形としては、利水容量の一部を「普段は自由に使っていいけど、洪水の危険がある際は空けて」というような契約で、利水者から国が買い取るべきものだと思います。(保険です)

それと、もう一点残念なのがこちら。 「国は今後、降雨量などの予測精度を高めるため、人工知能(AI)の活用なども検討する。」

新技術を使って降雨の予測精度を高めるのは誠に結構なんですが、それは気象庁だって威信をかけて頑張っているはず(でもなかなか精度はね・・・)

それに、ダム運用で重要なのは降雨量ではなく、もう一段先の「ダムへ流れてくる水の量(流出量)」なんです。 

山に降った雨(降雨量)が、どの程度の時間をおいて、どの程度の量が川に流れ出てくるのか。 降雨と流出の間には、山岳土壌というブラックボックスが介在し、その予測精度は決して高くないのです。

 だから国が技術開発するのであれば、降雨ではなく流出量をより正確に予測するシステム開発をしてほしい と思った次第。まあ「降雨量など」ってあるので、そこは期待しましょう(笑)。