接ぎ木で考えた「敵国条項」

 台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁に端を発した中国側の対抗措置がエスカレートしている。日本への経済的圧力だけでなく、死文化している国連憲章の「敵国条項」まで持ち出して非難する外交姿勢は度が過ぎる。
 対立の長期化は日中双方に何のメリットもない。話し合いによる早期の対立解消を目指すべきだ。
 在日本中国大使館は「国連創設国(米英仏中ロの5カ国)は、安全保障理事会の許可を要することなく、直接軍事行動を取る権利を有する」とSNSに投稿。敵国条項に基づき日本への武力行使の可能性に言及した。
 国連憲章には敵国条項が削除されずに残り、日本やドイツなど第2次世界大戦で敗れた旧枢軸国が戦後の国際秩序に反すれば、武力行使を可能としている。

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国連「敵国条項」 度を越えた中国の主張  中日新聞

在日中国大使館が日本に対し「敵国条項」なるものを持ち出して非難したときに、僕は二つのことに驚きました。 一つ目は、なぜ国連憲章にいまだ「敵国条項」なる恐ろしい条文が残っていたのか。二つ目は、中国はなぜこんな悪手を使ったのか ということ。 

敵国条項(てきこくじょうこう、英: Enemy Clauses、独: Feindstaatenklausel、または旧敵国条項[1])は、国際連合憲章(以下「憲章」)で、「第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国」(枢軸国)に対する措置を規定した第53条および第107条と第77条の一部文言のことを指す条項である。

第53条第1項後段(安保理の例外規定)は、「第二次世界大戦中の連合国の旧敵国」が、戦争により確定した事項を無効または排除した場合、国際連合加盟国や地域条約機構は安保理に依らず、当該国に対して軍事的制裁を課すことが容認され、この行為は制止できない[9]。また同様に地域協約が締結されている場合も、安保理に依らず敵国に対して制裁(軍事的若しくは経済的な。憲章第7章定義)を課すことができる。

wiki

まず、なんでこんな恐ろしい条文が国際連合憲章にあるのか、それは、「国際連合」という国際機関が「連合国」という国家連合を母体として生まれた組織だから でしょう。

こちらが国際連合憲章ができた経緯

1944年8~10月 – アメリカ合衆国、イギリス、ソビエト連邦、中華民国の政府代表がワシントンD.C.郊外のダンバートン・オークスで会議を開き(ダンバートン・オークス会議)、憲章の原案となる「一般的国際機構設立に関する提案」を作成
1945年6月26日 – サンフランシスコ会議において、51ヶ国により署名
1945年10月24日 – ソ連の批准により、安保理常任理事国5ヶ国とその他の署名国の過半数の批准書が揃い、第110条により効力発生

wiki国際連合憲章

こちらは連合国から国連が生まれた経緯

第二次世界大戦における連合国(れんごうこく、英: Alliesまたは英: United Nations[1])とは、枢軸国(ドイツ、イタリア、日本など)と敵対した国家連合。1942年1月の連合国共同宣言に署名したアメリカ、ソビエト連邦、中華民国、イギリスなど26カ国と、その後同宣言に加盟した諸国が該当する[2]。

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連合国は、戦後処理問題などで比較的緊密な連絡を取った。現在の国際連合 (United Nations) は、戦争中の連合国協議によって生まれた国際機関である。現国際連合は連合国諸国が原加盟国となっている。特に中心となったアメリカ合衆国・イギリス・ソビエト連邦(1991年ロシアが地位を継承)・フランス・中華民国(1971年中華人民共和国に代表権が移行)は、国際連合憲章によって安全保障理事会における「常任理事国」の地位が与えられ、拒否権などの特権を有するなど、国際社会において強い影響を持つこととなった。変更するには全常任理事国の同意による改正が必要である[6]。

wiki連合国

まとめると、第二次大戦が勝者=連合国、敗者=枢軸国という結果で終結しました。んで、勝者が敗者に「おめーら俺らの秩序に背いたら問答無用にしばくから覚えとけ!」と宣言したのが敵国条項。やがて連合国は国際連合に看板を書き換え(英語訳はどちらもUnited nations)、その後敗者である枢軸国も国際連合のメンバーに加えられ・・・今に至るっていう感じ。 

接ぎ木で例えると、国家連合(連合国)を台木に、穂木として国際機関(国連)を接ぎました。そんで台木から出た芽(台芽)が敵国条項 みたいな感じ。で、接ぎ木成功の要諦とは・・・

台芽は元の作物(穂木)の生育を阻害するため、こまめに摘み取る必要がある と。

実際、穂木は「台芽を摘み取ろう」と決議までしたんです。でも大人の事情で?摘み取られなかった。

実話に戻ると・・・長い年月が過ぎ、敗者からは「もはや戦後ではない」というか、「平和を愛する模範的な国際連合メンバーなったんで、そろそろ敵国条項消してください」って声が上がりました。国連加盟国の圧倒的多数は「そうだな」って言ってくれたんです。

1995年の国際連合総会決議50/52において、「時代遅れ(become obsolete)」として、国連加盟国の圧倒的多数の賛成(賛成155、反対0、棄権3)により削除に向け作業する事が決議された[2][3][4]。前記決議に関連して小泉政権期に、日本政府は「事実上死文化している」と対外発信を行い始め、2005年には国連首脳会合において国連憲章から「敵国」への言及を削除するとの全加盟国首脳の決意を規定した国連総会決議が採択されたが[5]、2025年時点で国連憲章改正には至っていない[6][7]。

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そしたらここに来て、「残しておいた台芽、このまま生かすべきじゃね?」という声が出てきた。

ここで、なぜ中国はなぜこんな悪手を言い出したのだろう? という二つ目の話が出てきます。

悪手1.穂木たる中国は、台芽摘み取りたる敵国条項削除に賛成していた。なのに今突然「台芽を生かすべきだ」と主張するのはどういうこと?あんた他国には「穂木を重視せよ」と言うてるですけど・・・

外務省、中国の旧敵国条項発信に反論 「既に死文化」

【ニューヨーク時事】中国の李強首相は26日、国連総会で一般討論演説を行った。国連批判を強めるトランプ米大統領に対抗し、李氏は国連の重要性と中国による国際貢献を強調。「単独主義や冷戦思考によって国際秩序が深刻な打撃を受けている」と述べ、名指しを避けつつ米国を批判した。

国連重視を強調、米批判も 単独主義「国際秩序に打撃」―中国首相

悪手2.「穂木たる中国」と「台木たる中国」実は別物。台芽たる敵国条項に言及できるのは誰?

接ぎ木理論、実は中国の説明にも使えるかなーと。 

現代、中国とは中華人民共和国のことですね。 でもこの中華人民共和国、実は穂木なんです。 台木を中華民国って言います。 第二次大戦で勝利した連合国たる中国は、この中華民国でした。

 その後、中国大陸で内戦がおき、中華民国(蒋介石総統)は台湾に逃げ、中国大陸は中華人民共和国(毛沢東主席)の支配するところになります。

そこで先ほどの「台芽たる敵国条項に言及できるのは誰?」という質問の答えですが、国連的には答えが出ています。中華人民共和国です。ただし、それは「アルバニア決議」という接ぎ木術が施されてのこと。実はこれも国連憲章では文言が直されてない( ´∀` )。

アルバニア決議(アルバニアけつぎ)は、1971年10月25日に採択された第26回国際連合総会2758号決議を指す。・・・これにより、中華民国(台湾)は国連安保理常任理事国の座を失い、中華人民共和国が国連安保理常任理事国と見なされた。

ただし、国連憲章の記載は未だに、中華民国が国連安保理常任理事国であるため、同じく記載されているソビエト連邦の地位を継承したロシア連邦(旧構成国のうちのロシア・ソビエト連邦社会主義共和国)の例と同様に中華民国がもつ安保理常任理事国の権限を中華人民共和国が継承したと解釈されている。「蔣介石の代表を国連から追放する」と掲げた本決議に抗議する形で、中華民国は国際連合を脱退した。

wikiアルバニア決議 

もし中華人民共和国が「敵国条項削除の決議は無効、憲章にあるとおり敵国条項は生きている」というなら、同様の理屈で「アルバニア決議は無効、憲章にあるとおり中国とは中華民国のこと」になります。 これだと敵国条項に関する発言権は中華民国が有することに。

ま、現実社会の情勢を鑑みるに、これは言葉の遊びですが・・・それでも理屈上はソビエト連邦ーロシア連邦の事例とは違って「中華民国」っていう国が存在してますから。

で、その国のポジションはと言えば・・・はい日本頑張れです。てか自分が標的にされてますんでね。そりゃそうでしょう

【台北時事】台湾の頼清徳総統は20日、「きょうの昼食はおすしとみそ汁です」とX(旧ツイッター)に日本語で書き込み、刺し身やすしの写真と共に北海道産ホタテや鹿児島県産ブリという説明を添えた。日本産水産物の輸入を事実上停止した中国とは対照的に、日本の海産物を積極的に受け入れる頼政権の姿勢をアピールした。

台湾の頼総統がすしランチ 日本旅行、産品購入呼び掛けも―中国との違いアピール

というわけで、中国が日本に文句を言いたいなら、もう少し理の立ちそうな理屈があると思うんだけど、なぜこの手を使ったのかな~ って思った次第。 ま、日本語に「無理を通せば道理が引っ込む」ってことわざがあるように、人間界にはよくあることか。それが放言できる「大国」って、ほんと羨ましいね。

追記

そこからさらに発展して考えてみたんだけど、台湾にある現在の中華民国ってのは、接ぎ木議論では穂木たる中華人民共和国から見て。何に当たるんだろう って。

蒋介石からの継承を重視するなら台木だと見えるし、中国大陸を主鉢と考えると台芽なのかもしれない。

台芽と考えているなら、穂木の生育の邪魔にならない限りそのまま捨て置けばいい気がする(客観的に見れば邪魔にはなってないと思う)。でも現状を鑑みると捨て置く選択肢はなさそう。

だとすると台木か。でも現状、穂木と台木はもはや全く違う木になっているので、穂木は台木を切り倒し、台地に自らの根を張り、接ぎ木から真の独立木へと昇華したいと考えてるのかなって。

あ、それを「易姓革命」って言うんだよな。って妄想連装ゲームをしてしまいました。

周の武王が殷の紂王を滅ぼした頃から唱えられ、天は己に成り代わって王朝に地上を治めさせるが、徳を失った現在の王朝に天が見切りをつけたとき、「革命(天命を革める)」が起きるとされた。それを悟って、君主(天子、即ち天の子)が自ら位を譲るのを「禅譲」、武力によって追放されることを「放伐」といった。

後漢から禅譲を受けた魏の曹丕は「堯舜の行ったことがわかった(堯舜の禅譲もまたこの様なものであったのであろう)」と言っている。後漢(劉氏)から魏(曹氏)のように、前王朝(とその王族)が徳を失い、新たな徳を備えた一族が新王朝を立てた(姓が易わる)というのが基本的な考え方であり、血統の断絶ではなく、徳の断絶が易姓革命の根拠としている。儒家孟子は易姓革命において禅譲と武力による王位簒奪の放伐も認めた[1]。

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投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

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