集団的自衛権とか、存立危機事態とか

先回、接ぎ木で考えた「敵国条項」という記事を書いたのだけれど、そういえばその前提となる「集団的自衛権とか存立危機事態を、キミ説明できるの?」と言われたらちょっと怪しい・・・ってことで少しまとめておこうかと。

「集団的自衛権」について。

自衛権には2種類あります。「個別的自衛権」と「集団的自衛権」です。個別自衛権は、簡単に言えば「自国が他国に攻められたら自国を守る戦いをしてOK」ってこと。相手国と自国の二国だけの関係で、攻められたので武器を取りました という関係。

集団的自衛権ってのは、自国は攻撃されていないけど、仲間の国が他国から攻撃されたら、自国が攻撃されたと同じと見なし、仲間の国と一緒に相手国と戦う権利のこと。 相手国、自国と仲間の国の三者がいて、自国は攻撃されていないが、仲間の国が攻撃されたんで戦う という話。

典型例は主にヨーロッパ諸国が加盟する(アメリカも入ってる)軍事同盟、NATOでしょう。NATOに加盟している国がNATO以外の国から攻撃された場合、NATO全加盟国は、攻撃された国を助けるため一緒に戦うことになっています。これは国際条約で定めた義務事項なので、加盟各国に「参戦するかしないか」という選択肢はありません。いわば自動参戦です。

NATO以外の国から攻撃された場合ってのはロシアからの攻撃ってことです。だから戦争しているウクライナはNATOに入りたがっていたし、ロシアはそれを絶対認めません。 

じゃあ、日本の場合はどうなんでしょう。例えば、アメリカ軍が、誰かに攻撃された場合、一緒に戦うんでしょうか。

答えは、極めて限定的な条件下で武力行使は可能。その条件というのが「存立危機事態」です。

「存立危機事態」とは、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態。

令和5年版防衛白書

アメリカとは軍事同盟を結んでいるので、「わが国と密接な関係にある他国」でしょう。ただし、参戦するかどうかはそのあとの「これによりわが国の存立が脅かされ、国民の・・・権利が根底から覆される明白な危険があるか」を判断する必要があります。その結果、参戦することもあるし、しないこともあるでしょう。ここはNATOの「自動参戦」とは明確に違います。

では次に、台湾が誰かに攻められた場合、日本は一緒に戦うんでしょうか。うん、これは戦えません。日本は台湾を「国」として認めてないから、「わが国と密接な関係にある他国」に当たりません。

1972年9月29日、日中共同声明により、中華人民共和国政府を「中国唯一の合法政府」と承認して国交を樹立したことに伴い、中華民国政府との国交を断絶した。これによって双方の大使館等が閉鎖された。また、国交断絶時に民間の実務関係を維持するために、日台相互に非政府組織としての連絡機関(日本側は日本台湾交流協会、台湾側は台湾日本関係協会)を設置し、現在に至っている。

wiki

当の台湾政府も、それは望み薄っす って言ってます。

台湾の外務省にあたる外交部は台湾海峡で中国との衝突が起きた場合、日本が協力して台湾を防衛するかどうかは分からないとする分析内容を議会に報告しました。
外交部は高市早苗総理大臣の台湾を巡る国会答弁の影響などについて、議会から分析を求められていました。・・・そして、高市総理の答弁内容から直接、「日本が台湾を防衛する」と解釈するのは難しいという判断を示したということです。

台湾「日本が防衛との解釈は困難」 高市総理の答弁受けて台湾外交部が議会に分析 

というところまで整理してたところで、11月7日の予算委員会で高市首相が岡田氏の質問に対して、次のように答えていたら、ここまでの整理と趣旨は同じになるかと。

「中国における台湾の海上封鎖が発生し、例えば海上封鎖を解くために米軍が来援をする、それを防ぐために中国が戦艦を使って、武力の行使もともなうものであれば、存立危機事態になり得るケースであると考える(そのため状況次第で日本は米軍を支援する可能性もある)」

けど、実際の委員会での質疑やり取りを書き起こした文書を読んでみると、多分に誤読できそう文言になっていることが問題点だったんじゃないかと。

伊賀治 デマ撲滅ファクトチェック集 【資料】高市台湾有事発言(書き起こし)

ここ↑に書き起こしがあるので、読んだうえで高市氏の発言が上のようになっているかチェックしてみてください。 

要約すると高市氏はそのように言いたかったんだと推察しますが(僕は彼女に好意的な立場です)、正直に文章を読む限り、補足しないと切り取られ、正確に伝えられず誤解される文章だと思います。要するに悪文。

事実、誤解されてます。

 「2ちゃんねる」開設者で元管理人の「ひろゆき」こと西村博之氏が21日、X(旧ツイッター)を更新。台湾有事をめぐる高市早苗首相の発言が、海外の一部メディアで違う意味で伝えられていることに、警鐘を鳴らした。
 ひろゆき氏は、自身が住むフランスのメディアをとりあげ「仏ルモンド紙で『台湾が海上封鎖されたら日本は軍隊を派遣』と高市首相が言ったと報道」と書き出した。そして「“同盟軍の米国が攻撃されたら集団的自衛権として自衛隊派遣“とは、違う意図が世界で広まってます。官邸のサイトに英文で発表するなり誤解を解く行動をすべき。高市政権が動かないのは怠慢以外に理由があるの?」と述べた。
 ひろゆき氏は20日夜の更新でも、一部海外メディアの英文記事の画像を添付し「『台湾有事に戦艦と武力行使があれば存立危機』と高市首相が主張、と英語で報道されてます。外交は英語で判断されます。高市政権は『同盟国の米国に被害が出たら』という留保が抜けてる翻訳の訂正を主張すべき。英語圏に向けてやってないのは自殺点。日本国内の解釈論は外国に伝わらないので無意味」と記していた。

ひろゆき氏「高市政権が動かないのは怠慢以外に理由があるの?」仏紙の高市氏発言“誤解”報道に

まあ、日本語ネイティブでこの問題にいささか興味がある僕が読んでも非常にわかりにくいし「NATOの集団的自衛権」が常識のヨーロッパの主要紙が、こういう風に理解してしまうのはやむを得ないところがあります。けれど。だからこそひろゆき氏が言われるように、日本国政府は一刻も早く誤解を解く行動が必要だと思うな。

でないと、中国は各国がこのように理解した ことを利用し、「日本が軍事国家に向け傾斜し始めている」と自国に都合の良いプロパガンダ外交をしていくでしょう。

もし誤解を事実だと信じるなら、確かに日本はこれまでのポジションからかなり踏み込んだ右傾的発言をした ことになります。実際ははるかに抑制的なんで、正しい事実をを知ってもらわないと、不利になりかねません。もう事態は動きつつあるのです。

中国の傅聡国連大使が1日、高市早苗首相の「台湾有事は存立危機事態になり得る」との国会答弁の撤回を求める書簡を、グテレス事務総長に提出しました。
・・・
Q 書簡には、何が書いてあったの?
A 「中日間の深刻な対立の直接的な原因は、高市氏の挑発的な発言にある」と指摘しています。また、「戦後の国際秩序に公然と挑戦するもので、国連憲章の目的と原則に違反する」と述べ、日本が専守防衛の範囲を超え、再軍備を進めているとして、警戒を呼びかけています。
・・・
Q 日本はどう対応しているの?
A 日本の山崎和之国連大使は「中国の主張は『事実に反し、根拠に欠ける』」と反論する書簡をグテレス氏に送付しました。

<1分で解説>中国側が国連事務総長へ日本批判の書簡 その主張は?

投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

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