遺跡調査と言えば、発掘=土中に埋まっているものを掘りおこすこと されるものですよね。あるいは出土=古い時代の遺物が土中から出て来ること されるとも言います。例えば最近の例で言うと・・・
戦国武将の明智光秀が琵琶湖畔に築いた大津市の坂本城跡(16世紀後半)で、長さ約30メートルの石垣や堀が見つかった。…
明智光秀の「幻の城」坂本城で石垣と堀が出土 専門家は「奇跡」
宅地造成のため、昨年10月から市が約900平方メートルを調査。高さ約1メートルの石垣が、長さ約30メートル分出土した。
遺跡が土に埋まっているのは、まあ常識なんですけど、その土ってどこから来たか知ってます?
普通に考えると、水害時に川から流れ出た土砂が平野部にたまるんじゃないか って答えになると思います。僕もあまり深くは考えず、漠然とそう思ってきました。歴史的に、平野部の川の流れなんてしょっちゅう流路を変えてましたし。
では問題です。 丘の頂上に造られた古墳の上にたまっている土は、どこから来たのでしょう?造成当時の大規模古墳は表面が石で覆われています。でも今は土に埋もれていますよね。 うーん。これは川の影響では説明できないな~。
と、思ってもみなかった視点で突かれたのが次のブログ記事です。
そーか。風成層=風に運ばれた土が堆積すること については軽視というか、そもそも意識されてない気がします。でも、洪水の心配のないところでも、遺跡は土に埋もれてますもんね。両方の視点を持たないとだめですね。
大きな古墳は造成時期も分かりますから、上に堆積した土の深さを測れば、その堆積速度も算出できてしまうと。おもしれ~。
ブログで紹介されている通り、早川先生の算出した堆積速度は1000年で10cm~100cmくらいだそうです。(早川論文へ)
続編で、自然要因だけでなく、人為的要因も考えてみました。よろしければご覧ください。
ブログの続きも技術的に面白いです。
風成層をつくる塵は、古墳の上にだけ降るわけではなく、日本中、世界中に降ります。日本中の表層土砂は風成層と言っても過言ではありません。・・・山の土が同じような風成層だとしたら、当然強度も似通ったものになります。・・・実際、土層強度検査棒ベーン強度試験でc・φを計測してみると、結構似た値が出てきます。
基盤岩が違っても、表層土砂層の強度はあまり変わらないんだなぁと思っていましたが、実はそうではなく、同じ風成層を計測していたからのようでした。コロンブスの卵ですね。
そ、そうなのか。僕は土質力学の単位を2回落としたまま卒業しちゃったから知らんのかもだけど、こんなこと習った覚えは、無いなあ。・・・これ確かにコロンブスの卵かも。
と、紹介されていた『土 地球最後のナゾ~100億人を養う土壌を求めて~ 』(藤井一至著)は蔵書にあったので、再読してみました。 内容はあんまり覚えてなかったのですが、再読してみたら非常に面白い、 ただ、構成がよくないのか、話題が飛んだり、重複してたり、言葉の使い方が不明確だったり、読みづらい部分があると感じたのも事実ですが。
風成層や黒ぼく土について、へえーと思ったところを抜粋します。純粋な理系的書物ですけど、この辺りは遺跡発掘や景観、生態、特産物などとに密接にかかわっていおり、歴史とかに興味ある純文系人も、読んだら非常に刺激的だと思います。
- 急な斜面の上では私だけでなく、土も踏ん張れずに風雨に削られる。これを土壌侵食という。雨に土が流される侵食(水食)もあれば、風に土が飛ばされる侵食(風食)もある。
- 流出した土砂は山を下り、平野部に堆積している。遺跡の多くが大量の土砂に埋もれているのがその証拠だ。(P58)
- 日本でよく見かける黒い土(黒ぼく土)・・・土が黒いことは、腐植の多い肥沃な土のあかし(P127-128)
- 古墳や平安時代の遺跡の上に土壌が堆積していれば、平安時代以降に蓄積した腐植だと判断できる。
- 調べてみると、日本の黒ぼく土の発達は異常に速いことが分かった。平均すると1万年の間に1メートル、100年に1センチメートルの厚さの土ができる(P131)
- 黒ぼく土には、きわめて反応性の高いアロフェンと呼ばれる粘土が多い。この粘土が腐植と強く結合するために、蒸し暑い日本でも腐植は数千年も保存される。・・・同時に、リン酸イオンも強く吸着する。作物生育に必須な栄養分であるリン酸イオンが作物に行き届かなくなってしまう。これでは肥沃とはいえない。(P134ー135)
- 腐植を多く含み肥沃に見える魔性の土は、実際のところ肥沃ではなかった。(P191)・・・リン酸イオンを吸着するアロフェンのため、日本の黒ぼく土は不良土壌とみなされてきた。救世主となってきたのがソバだ。ソバは・・・リン酸を吸収することができ・・・黒ぼく土地帯の特産物となった(P193)
- 水を張ることで(水田)土が中性になり、リンの問題も解決する。ほかにも連作障害がないなどいいこと尽くめ(P197)
- 食料不足だった日本が第二次世界大戦で満州や台湾に活路を見いだした一方で、水田にできない黒ぼく土の多くはススキ原野のままだった。戦後満州から帰国した人々は、満州のチェルノーゼムとは「似て非なる」黒ぼく土の開墾に苦しむことになる。・・・それまで農地として利用されていなかったのにはワケがあったのだ。転機となったのは日本の経済成長だ。日本円の力で改良したのが今日の黒ぼく土の姿である。畑にまいたのは札束ではなく、リン酸と石灰の肥料だ。(P191)
- 日本の土もすごい 日本の土壌には、潜在的に水とリンがそろっている。世界人口が100億人へと突入し、水やリン酸資源の供給が不安定化する時代がやって来る。リン酸肥料が高くなれば、大量のリンの眠る黒ぼく土はもうかる土になる可能性もある。水の豊かさは土を酸性にしてしまう問題をはらんでいるが、それは石灰肥料をまけば改良できる。鉱物資源の乏しい日本にあって石灰石だけは自給可能だ。水もリンも石灰もある黒ぼく土の未来は、見た目ほど暗くない(P206)