だから日本の景気は回復しない

物価が上がっていても、それ以上に給与が上がれば生活は豊かになっていくし、安心して消費できるから、それが回りまわって景気というのはよくなっていくもののようです。

最近の日本でも大手の会社では、労働者側の賃上げ要求に会社が満額回答するなど、順調に賃上げされているようです。が、働き手の約7割が勤める中小企業に賃上げの流れが広がるかは、なかなか見通し厳しいですね。 

働き手の約7割が勤める中小企業に賃上げの流れが広がるかどうかだ。ただ、中小ではコスト上昇分の価格転嫁が十分に進まず、人件費を上げづらい状況が続く。・・・この要因について、多くのエコノミストは「人件費の一部である労務費や原材料費の上昇分を商品やサービスの価格転嫁できていない」と指摘する。また、「中小に仕事を発注する大手企業側が優越的地位を利用し、中小の価格転嫁を拒んでいる環境」も問題視する。

賃上げ、難しい中小への波及 大企業との格差拡大 地震や景気減速リスクに慎重姿勢も

トヨタ自動車やホンダ、日産自動車など、満額回答が相次いだ自動車業界。大手メーカーや部品企業などの労働組合が加盟する自動車総連の金子晃浩会長は、同日夕方に開いた記者会見で、「半導体不足による減産や、資材の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻などさまざまな懸念がある中、労使が深く議論をした結果が出た」と話した。今後は中小単組の交渉が山場を迎えることを踏まえ、「大手と中小の格差を是正し、全体を底上げしていくための正念場となる」と力を込めた。

春季交渉、日立・日産が満額回答 集中回答ドキュメント

さて、中小企業が賃上げをしにくい理由の一つに、「中小に仕事を発注する大手企業側が優越的地位を利用し、中小の価格転嫁を拒んでいる環境」があるのだそう。まあそこまでは、働いている人なら誰でも知っていること。

が、実体は「価格転嫁を拒む」程度の生易しいレベルじゃありませんでした。

下請け企業36社への支払代金約30億2300万円を不当に減額したとして、公正取引委員会は7日、日産自動車に下請法違反で再発防止を勧告した。・・・公取委の片桐一幸取引部長は7日の記者会見で「中小企業の賃上げ実現のために価格転嫁が強く求められる中で、サプライチェーンの頂点に立つ企業によって違反が行われてきたことは非常に遺憾だ」と述べた。

日産自動車に下請法違反で勧告、30億円不当減額 公取委

日産自動車って賃上げで満額回答できるほど儲かってねえだろ?と思ってたんだけど、違法行為で下請けを搾取し、自社社員の給与を上げてたってからくりね。でもこれ普通に言えば犯罪ですよ。山賊の所業と変わりませんわ。

ただ、僕が憤慨したのは、日産に対してではありません。日本ではそういう行為は日産だけではなく、程度の差こそあれあちこちで見られる現象だと思うのです。悲しいことですが現実問題として。(みんなうすうす知ってるでしょ?)

ただ、規制する側の政府はそれを発見したら厳罰に処すべきです。明確な法律違反だし、「中小企業の賃上げ実現のために価格転嫁を強く求め」なおかつ「全力で取り組む」立場なのですから。

政府と経済界、労働界の3者による「政労使会議」が開かれ、岸田総理大臣は去年を上回る賃上げの実現に向けて協力を要請しました。また中小企業の賃上げも不可欠だとして、人件費の価格転嫁対策に全力で取り組む考えを強調しました。

政労使会議 岸田首相 去年上回る賃上げ実現に向け協力を要請

でも、この事案に対する政府(公正取引委員会)の行動は「再発防止を勧告」なんだそうです。なんでそんな軽い形式罰(実質罰になっていない)で済むの?ブラックジョーク?

ペナルティ?もなかなか笑えます。

日産は既に減額した代金を下請け企業側に返金した。

同記事より引用

「大手企業が優越的地位を利用し、中小への支払代金約30億2300万円を略奪」した罪は「略奪したものを返せば」チャラだそう。これなら大手企業側はまたやるでしょう。だってばれなきゃ丸得。ばれてもなんの経済的デメリットもないんだもの。

政府がこんな体たらく(賃上げを要請、再発防止を勧告、法律をまともに守らせようとする意志なし)では、日本の中小企業(この場合下請けですが)の価格転嫁や賃上げなんて永久に実現できるはずがありません。

アメリカなら・・・アメリカ政府が大企業に厳しいのか、日本よりうまく規制しているかは知りませんけど、少なくとも悪事がばれたときの懲罰はでかいです。「懲罰的損害賠償」

「他人の権利を侵害し損害を与えた者は、その損害を賠償する責任を負う」というのは、洋の東西を問わず一般原則となっており、わが国の民法も 第709条に次のように定めています。「故意または過失に因りて他人の権利を侵害したる者はこれに因りて生じたる損害を賠償する責めに任ず」 
これを「不法行為責任」と言いますが、この条文から分かるように、不法行為を犯した者が負うのは、「これに因りて生じた損害」を金銭で賠償する責任(原状回復)であって、犯罪のように刑罰を科せられる訳ではありません。 
これに対して、英米法世界では、不法行為が非常に悪質な形で行われたとか、反社会性が強いといった場合に、被害者が現実に蒙った損害をはるか に超える「制裁的・懲罰的意味の損害賠償」が加算されることがあるのです。これが懲罰的損害賠償(Punitive Damages)です。

中央大学

今回の事象は、「不法行為が非常に悪質な形で行われ、反社会性が強い」ですから、この措置に十分値するでしょう。マクドナルド・コーヒー事件まで行くと行き過ぎですが、懲罰的損害賠償制度があれば、再発防止には有効なはず。

まあ、日米の法体系が違うとか言う以前に、規制する側の公正取引委員会の見解がこれですから、救いがないのだけれど。

規模の大きい一次サプライヤーとの取引が中心の完成車メーカーは「下請法に対する知識が十分でない」(公取委幹部)との見方もある。勧告には経営責任者を中心に社内のコンプライアンス体制を整えることも盛り込まれた。

同記事より引用

「知らなくても仕方なかったよ」って。規制側がそんなこと言ってたら、規制なんてできません(てか、する気なんてない)。 そもそもスタッフ19名を誇る法務室を持つ大企業が、「知らなかった」なんて言い訳、できないでしょ。

世界を見据えたビジネスをグローバルマインドをもって法的側面からアクティブにサポート

あと、これもより問題を見えにくくする政治的な動きとして看破できないニュースです。

岸田首相は5日の参院予算委員会で、「下請法」に基づく「下請け」という言葉について、名称変更の要否を含め検討する考えを示した。

岸田首相「下請け」の名称変更を検討 上下関係や差別意識生むとの指摘「下請法」改正の提案受け言及

下請法が厳密に適用され、下請けの利益率が大手と同じだけあれば、「下請け」だって何ら恥じる名称ではありません。本質を改善せず「言葉遊び」に興じるのが政治家というものか。余裕があって羨ましいですね。ちゃんと仕事しろ!

そういう観点で書かれた記事もありました(2023/10)。これを踏まえると日産の案件は起こるべくして起こった事象にすぎませんし、氷山の一角に過ぎないでしょう。

欧米各国における中小企業の営業利益率は6~9%程度と大企業と大差ない水準となっているが、日本は2%程度と著しく低い。日本の中小企業が独自で顧客を開拓できておらず、大企業から買い叩かれている状況が推察できる数字だ。


 大企業が中小企業に対して過度に買い叩きを行うといった行為は法律で禁止されており、本来であれば、中小企業も一定水準以上の利益を確保できる。ところが日本の場合、一連の行為に対しては、企業活動優先の観点から、ある種のお目こぼしが行われており、十分に法が執行されてこなかった。


 昭和の高度成長期ならいざ知らず、現代においても中小零細企業への過度な買い叩き行為はあちこちで散見される。こうした状況から中小企業を守るために下請け法、独占禁止法といった法律が存在していることを考えれば、政府は既存の法体系に基づき、適正に法を執行したり、行政指導を行う義務がある。

国が動けば「給与」は簡単に上がるワケ、労働者を苦しめるだけの“政府の怠慢”とは

まったくのド正論。が、日本は「適切な処方箋あれど処方されず・できず」の状態がずっと続いており、現在も継続中。結果死病は時間とともに悪化する一方です。

若い人がこういう選択をするのも当然 という感じがします。

新NISAと若い世代の外貨建て選好、円売り増大要因に

『安いニッポンからワーホリ!』オーストラリアに出稼ぎにいく理由(前編)

18~25歳の45%が「将来、子供ほしくない」 仕事は充実、結婚も急がない

そういや、僕はけっして「若い世代」じゃないのだけれど、価値観や行動はすべて当てはまるな(仕事は×)。20年くらい早く生まれすぎたわ(笑)。

以下、追加情報です。

週プレNEWS

ネットでは総叩きみたい。まあそうだろうなぁ・・・

「業界の問題だと思う。今回日産の件が明るみに出ているが、日産だけが悪いのかというとそうではなく、右へならえで同じことをやっている。本当に長時間労働を強いられて作ったものを今度は買いたたかれて、二重三重の苦難に立ち向かわなければいけないというのが中小企業の実態」(部品メーカーの社長)
部品メーカーの社長は今回声を上げた理由について、次のように話しました。
「中小企業でもしっかりと稼げる。少しずつだけど給料も上がる。そういう構図を作らなければ未来はないと感じるので、声が少しでも届くならとちょっと勇気を出して話をしている」(部品メーカーの社長)

<独自>日産“下請けいじめ”の実態 部品メーカー「減額断れば切られる」【WBS】

この記事を読んでて、本当に心が痛みました。この問題、たぶん今回もなんら変わることなく時間とともに忘れ去られることでしょう。(記事で書いたけど、犯人側にペナルティが与えられないから。)そして再発。本当に暗澹たる思いです。