西尾市の東側の丘陵である東部丘陵※にある「西尾いきものふれあいの里」に行ってきました。まずは標高地形図で場所を見てください。
右端の黒丸で示した部分です。中央にハート型の溜池があるので、航空写真からでもすぐ発見できます。
地形としては丘陵地に切れ込んだ谷状の地形をしています。これは、典型的な「谷戸(やと)」あるいは「谷津(やつ) 」と呼ばれる地形です。
谷戸という言葉には、そのような地形を利用した農業とそれに付随する生態系を指すこともあるそうですが、ここはまさにそれが見られる絶好の観察場所なのです。
今の目で見ると、水田は平地にあるものなんですけど、平地に水田を構えるには、利水・治水のしっかりとした施設造りが必須になります(そこでの稲作は高リスク・高投資・高リターン戦略)。
谷戸地形はその源頭部に丘陵からの湧き水や雨水がたまり容易に水が利用でき、洪水による被害は受けにくいです。一方、通年湿地のため稲の収益は多くを望めません。(低リスク・低投資・低リターン戦略)
谷戸は日当たりを確保するため近接する丘陵地(里山)で下草刈りを行い、あるいは肥料につかいます。生活に必要な薪や材も調達でき、化石燃料を多用する前の暮らしを送るのに欠かせない土地でした。
結果として、人の手が入り管理される「里山的」景観が維持されてきたのです。いわゆる「原風景」ってやつね。
しかし高度成長期になると農機の利用や化学肥料の導入、薪から化石燃料へのエネルギー転換により、狭かったり、日照時間が短かったり、湿地状である谷戸地形の欠点が目立つようになり、谷戸田は衰退することになります。耕作放棄地になったり、利用には不便だから埋め立てられたりして、急速にその景観は失われてきました。
現在では、他の場所がどんどん開発されるなかで、かろうじて残るこういう場所に、絶滅を免れた生物が残っていたり特徴ある自然が残ることが多く、特に生物多様性の観点からその価値が見直されているところです。(以上、wiki「谷戸」を参照)
まあ、そんな経緯も踏まえ、こういう施設ができたんでしょう。耕作放棄地も利用し谷戸が保全・維持されているのです。
と、手軽に散策するには良いところです。時期は冬~早春がいいと思います。なぜって、トンボがいて、カエルがいて、いきものふれあいの里ってことは・・・そうHeavy君が住んでいるのです。何せ看板で「マムシに注意!」ってあちこちに立ってますから。
蛇足ですが、丘陵地の谷戸地形をうまく利用して寺院を造ると、山岳寺院ほど高低差はないけど、奥行きがあり風情のある寺院を建てることができます。典型例は「鎌倉の寺院群」ですね。下の写真を見てください。北鎌倉駅あたり、特に円覚寺や建長寺なんか典型例です。
中世鎌倉時代には、防御の観点から武士の館もこういう場所に建てられました。関東管領として有名な「上杉家」は、居所の地名を取って「扇ガ谷(オウギガヤツ上杉家)」「山内(ヤマノウチ上杉家)」と呼ばれたくらいですから。
※慣例でこう呼んでいますが、周辺三町と合併してからは「東部」という名称はたぶん適切ではないだろうなあ