阿賀野型巡洋艦の改造・・・

マニアックな趣味の話ですので、興味のある方だけどーぞ。

第二次大戦中、日本海軍の軽巡洋艦「阿賀野型」の話です。

日本海軍が最後に造った軽巡洋艦がこの「阿賀野型」です。阿賀野型は全部で4隻造られ、写真はその中で最も有名な3番艦「矢矧」です。なかなか近代的で、かっこいい船ですよね。「矢作川」から命名されたこともあり、僕が一番好きな軍艦です。矢矧は1945年(昭和20年、終戦の年)に戦艦大和の沖縄特攻に随伴し沈没しました。。矢矧が完成したのは1943年だから、文字通り「新鋭艦」だったのです。が・・・

阿賀野型は戦前に設計され要求された能力は「水雷戦隊の旗艦」。要するに魚雷戦に特化した軍艦だったのです。でも竣工したときには魚雷戦なんて無く、敵は航空機や潜水艦ばかり。高性能な艦ながら対空、対潜戦闘には十分対応しきれなくなっていました。新造配備時の連合艦隊参謀長のコメント「果たして現下の要求に答えられるのか」。・・・このヒト本シリーズの設計承認にも関わってたんだけど・・・新車で出たら時流に合わず、すぐ新古車になっちゃった、かわいそうな艦です。

阿賀野型の主兵装は、対水上戦闘を考慮した15cm連装砲3基6門と魚雷戦用の61cm四連装魚雷発射管を2基8門(船体中央部に前後に2基配置し、左舷右舷どちらの魚雷戦に対しても8門の魚雷を同時発射可能。さらに予備魚雷8本と装填装置を搭載しており、すぐに再装填して2回目の魚雷攻撃が可能。)

対水上に重点が置かれ、対空兵器(主に高角砲)は8cm連装高角砲2基4門と少ないです。あとは水上機2機とカタパルト1基。
まあ、船が小さいんで、対水上兵器とと対空兵器の両方を十分に積むのは無理。

対空能力が低い・・・ことはわかっていたんですが、実戦での同型の課題として「艦橋の防空指揮所※が狭く、後方警戒に死角がある」「8cm高角砲を10cm連装高角砲片舷2基計4基に換装するよう要望」「後方の対空兵装が少ない」とさんざんでした。 

※対空戦闘時に艦長が艦の回避運動を指揮し、砲術長が対空射撃を指揮し、またその情報となる見張りを行う露天指揮所。

矢矧の防空指揮所  指揮所後ろに構造物乱立で、確かに後方視野ゼロ。敵機が見えないよ〜。
①方位盤照準装置(主砲用)②21号電探(レーダー)③測距儀基部④電探室⑤方位測定器

じゃあ、反省事項を踏まえて4番艦である「酒匂」を対潜能力を備えた防空巡洋艦に改造したらどうなるかやってみました!これなら活躍してくれたんじゃないかと妄想するのも楽しいんでね。まあ実際には、1945年の日本海軍には軍艦に給油できる油がほぼなかったから、活躍は無理なんだが(笑)。

主な改善点は3点
・「艦橋の防空指揮所が狭く、後方警戒に死角がある」→船が小さいんで、狭いのは仕方ない。後方の視界を確保しましょう。
・「8cm高角砲を10cm連装高角砲片舷2基計4基に換装する」→船の大きさから舷側にある高角砲の拡大換装は無理。代わりに対水上戦用の15㎝主砲6門(前部4門、後部2門)を10cm高角砲8門(前部4門、後部4門)に換装し対空能力(特に後方)を強化してあげます。主砲は下ろしちゃったので、敵水上部隊が来たら、魚雷を放って逃げる!
・もともと「船体中央部に前後に魚雷発射管2基を配置し、その上に飛行甲板とカタパルトを設置」してるんだけど、どう見ても重心が高すぎ(top-heavy)。重心はダメージを受けたときの復元性や、回避運動で急旋回するときに効いてくるので、低いに越したことないですから。

→8門全部をぶっ放す魚雷戦は無いのだから、魚雷発射管の配置を工夫して、飛行甲板とカタパルトをできるだけ1階に配置し艦の重心を下げます。予備魚雷と装填装置は遁走用の速度稼ぎのため、重量軽減すべく撤去!

で、こうなった↓ 

防空指揮所 後ろの構造物は、高射装置(高角砲の照準装置)と方位測定器だけになり、後方視界は確保できるはず。21号電探は精度が低いようなので、高性能の13号電探を後部マストに追加し、電探室も移設。測距儀と方位盤照準装置は撤去。砲撃戦はしないから!
主砲の変化
飛行甲板は1階に。魚雷発射管はカタパルトを挟む形にして片舷4門(重巡古鷹に類似した配置)
艦尾に爆雷投射器を追加。この時、水上から潜水艦を攻撃するのは「爆雷」しかないのです。ちなみに、投下軌条はもともとついていました。

てなことでご満悦していたわけですが、改造してみて分かったこと。と言うか、パーツ取りに利用してて薄々分かっていましたが・・・

軽巡洋艦をわざわざ防空巡洋艦に改造するより、秋月型駆逐艦を新造したほうが良策ってことに。

秋月型防空駆逐艦(実在)

6700tの阿賀型巡洋艦か、2700tの秋月型駆逐艦の選択です。そりゃ巡洋艦のほうが機銃とか一杯積んでるし、飛行機と8cm高角砲もあるけれど・・・海軍としては小さな駆逐艦を1隻でも多く造ったほうがいいですわ。燃費だって違うしね。  ってことで、この改造の実現性は極めて低かったものと思われます。模型としては悪くないと思うんだけど(笑)。

   ※記述は、ほぼすべてwikiを参考にしました。

追記。日本海軍では、昭和17年度の艦船補充計画(⑤計画)で、4隻の小型巡洋艦(815号型軽巡洋艦と呼ばれる)を建造する計画がありました。wikiによれば、防空巡洋艦で要目は以下の通りだそうです。

基準排水量:5,800t
兵装:65口径10cm連装高角砲4基8門(いわゆる長10cm高角砲)
航空機:2機
これ以上の詳細は伝わっていない。

815号型軽巡洋艦

排水量が大きすぎるけど、改造艦は偶然主兵装と航空機数が一致してます。日本海軍なら、たぶん魚雷装置は載せたでしょうし、案外こんな感じの船だったのかもしれません。作った感想としてはスペースの関係上、航空機2機と10cm連装高角砲4基を載せて排水量6000t以下に抑えるのは、難しいような気がするなあ・・・

追記 もし日本海軍がアメリカの『アトランタ級防空巡洋艦』を建造したら という題で、再度阿賀野型巡洋艦の改造を扱いましたので、よかったらこちらもどうぞ。

投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

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