再び建設に向け前進する熊本県の川辺川へのダム計画。蒲島郁夫知事は国に、洪水時だけ貯水する「流水型ダム」(穴あきダム)への転換を求め、計画見直しなどを含めて完成までには10年以上かかる見通しだ。ダムや遊水地などを組み合わせた流域治水は、住民の合意形成が不可欠。乗り越えるべき課題は少なくない。
「流水型ダム」完成まで10年超 環境保護、住民合意…課題山積
川辺川ダムの従来の形態は、平時から水をためる「貯留型」。放流量を調節できるが、上下流を遮断し、生態系などへの影響が指摘されている。これに対し、流水型はダム下部の穴から常に水が流れ、土砂は堆積しにくく、上下流を魚類が移動しやすいという。
川辺川ではあれだけの災害が起こってしまったから、早急に何らかの対策を決めることが必要だったのでしょう。他の流域治水手法を取るには、予算も時間も合意も取れない ということ、清流川辺川を守りたい ということから、政治的な落としどころとして、この案にになったのかなぁと思います。
平時から水を貯める「貯留型」は、治水だけでなく貯めた水を利用できるメリット(利水)があるのでたくさん造られてきたのですが、治水専用の方が運用に融通が利くし、その中でも「流水型」であればその仕組み上、生態系への影響は、貯留型と比較すれば抑えられるのではないか と思われます。
が、この方式が「土砂は堆積しにくく」とまで言うのはややミスリードではないかと。そりゃ原理上、「貯留型」より土砂堆積量は小さくなる可能性はあるだろうけど、川全体で見ると、砂が溜まりやすい箇所になるのは間違いないかと。
「流水型ダム」って、縦横を変換して考えると、「水位をあげても大丈夫な箇所に、人工的に「狭窄部(=川幅が狭くなる箇所)」を造る」ってことですから。狭窄部の上流って、土砂が溜まりやすくなるのです。
土砂堆積は弯曲部の内岸・外岸,河幅. の拡幅部・狭窄部やその上流域などの河道平面形状の影響を受ける断面で顕著にみられた
自然河道における出水中の土砂堆積特性について
僕の見聞きした事例でも、某河川の狭窄部上流の現象を観測すると、ある程度の洪水規模を超えると、洪水後期に土砂が溜まるのです。たまった土砂は中小洪水時に少しづつは流れていくでしょうが、全体的には堆積傾向。んで次の大洪水が来て・・・ って感じでした。
そもそも、洪水時のダムへの土砂流入量と、ダムから下流へ水と一緒に流れ出る土砂流出量の比較を考えると、中小洪水の場合、それほどオーダーが変わらないのかもしれません。が、大規模洪水では前者が圧倒的に大きいので、長期的に見ればダム上流には確実に土砂が堆積していくでしょう。
その上で、流水型ダムの場合「常時水が流れていること」が重要なんで、貯水型ダムより頻繁に土砂を撤去する必要性が高いんじゃないかと思います。とくに清流であれば、常時土砂を大量に含んだ水が流れるのは避けたいでしょうし。
ってことで、このダムを造ると、かなり頻繁にダム湖に堆積した土砂を撤去する維持作業が発生すると思います。
流水型ダムでは、土砂の掘削は比較的容易でしょうが、問題なのはその土砂の行き先です。 僕が某ダムの管理をしていた時も、土砂の行き先に泣かされました。山間部にある貯留型のダムで、毎年数万m3の土砂が発生するのです。 正確には水混じりの泥を含む土砂です・・・
机上で計画する人にとって、ダム湖から掘削する土砂は「有用な資源」なんでしょうけど(再利用できるので、処分する費用は見込まない)、実際掘ってみると資源と言うより「厄介者(廃棄物)」に近いモノもあります。
関係者が奔走し、なんとか大規模な受け入れ先を見つけ、十数キロ運搬。その運搬費たるや・・・
そんな状態なので、「ダム湖を掘削してきれいにしたいけど、処分場と処分費がないので諦めました」 って全国のダムでよくある、そして切実な悩みだと思うわ。
なので、川辺川だけじゃなく、これから作られるであろう「治水目的を含むダム」においては、「長期間使える掘削土砂置き場(捨て場)を確保」したうえで、工事に掛かっていただきたい と切に願うところです。 原発じゃないけど、「トイレの無いマンション」方式で造って、維持で泣かないように・・・