コロナ敗戦(2)

12月初旬の、医師会会長の記者会見です。

日本医師会の中川会長は12月9日午後、記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり「地域医療が瀬戸際に追い込まれる状況にある。医療従事者の心身の疲労もピークに達しており、大変困難な状況が生まれている」と危機感をあらわにしました。

そのうえで「いま何よりいちばんの支援は、感染者を極力増やさないことで、最強の感染拡大防止策は、一人ひとりの日常の、慎重で愚直な所作と行動だ」と呼びかけました。

日本医師会 中川会長 コロナ「誰もが感染している可能性ある」

この流れを受けて、21日にも、医療関係9団体が医療緊急事態宣言を出しています。

「このままでは全国で必要なすべての医療提供が立ち行かなくなる」とする医療緊急事態宣言を出した。
 宣言は「国民が一致団結し、新型コロナ感染症を打破する意を決するときは今しかない」と明記し、徹底した感染防止対策を求めた。地域の医療、介護体制を守り抜く決意も示した。

日本医師会や日本看護協会など9団体が「医療緊急事態宣言」

いわゆる「医療崩壊」を避けるため、徹底した感染防止をしてくれ という趣旨ですね。政府や行政もここに来て「やたら動くな」「時短営業(罰則も検討する)」と同様のことを言ってます。

徹底した感染防止対策を行う というのはもちろん大事なこと。なんだけど、専門家が言わなくても素人でも分かるよね。専門家集団である医師会はもっと他にやるべきことがあるんじゃないか と、下の記事を見て思った次第。

大阪で23日に開かれた、とある会議です。

医療体制がひっ迫する中、大阪府の対策協議会が23日、開かれました。議題に上がったのは、今後の軽症・中等症の病床確保についてです。大阪府では、運用している軽症・中等症病床約1200床のうち76%ほどが埋まっています。(12月23日現在)
 公立病院では9割が患者を受け入れていますが、民間病院では1割に留まっています。
 このため、会議では2次救急の医療機関のうち内科・呼吸器内科があり、新型コロナの患者を受け入れてない112の病院に、軽症・中等症の病床確保を要請することが決まりました。さらに、軽症の高齢患者を専門的に受け入れる医療機関を確保することも話し合われ…
【対策協議会・朝野和典会長】
「(軽症でも)高齢だからホテルじゃ心配だという方をみていただける病院を作っていただければ…」
【私立病院協会・生野弘道会長】
「絶対反対。そういう患者を受け入れる訓練はできてないし体制はないです。コロナは急変することもあります。(急変した患者を)診てくれと言っても診てくれないのが現状で困る」
会議では、反対意見も出ましたが、吉村知事は…
【大阪府・吉村知事】
「やらないという判断ではなく、やるという判断をお願いしたい。病床も非常にひっ迫している。(2次救急では)一部の70の病院がやっているんですが、この輪を広げていく、大阪の医療資源全体でコロナを退治していく」
民間病院の関係者からは「受け入れの設備もなくスキルも必要なので、いきなりは厳しい」との声も出ていて、実際に何床確保できるかは不透明な状況です。

「絶対反対」との意見も ”病床確保”…吉村知事が訴えるも『医療機関から厳しい声』

”絶対反対。拒否理由として・患者を受け入れる訓練はできてない・そんな体制はない・受け入れて急変した患者を診てくれないのが困る”って、この状況下でオマエ3歳の駄々っ子か。

軽症者を受け入れている宿泊施設付の医療関係者、調整を行う保健所、受け入れで疲労困憊している(主に)公立病院のお仲間が聞いたら激怒しそうです。

まあ、彼らはこのニュースを見る時間も、意見を投稿する時間もないが(泣)。代理で知事が「やらないという判断ではなく、やるという判断をお願いしたい。」と言うのも当たり前でしょう。

もちろん、何もなしで受け入れるのは厳しい と言うことはわかります。だから事情に精通した専門家の総締めである医師会がやるべきだったことは、効果が見込めない国民への呼びかけ※に手間を使わず(そんなことは政府にやらせとけ)、「民間病院が患者や高齢者を受け入れられる条件整備や支援政策として最低何が必要なのか」 を、私立病院協会と調整・とりまとめ・根回しを行い、必要となる政策や支援を政府や国民に訴えることだったでしょう。

崩壊することは9日の段階で医師会には見えていたわけですから、その時点から対応を開始し、およそ2週間後の21日宣言時に打ち出すべきでした。そうすれば状況は大きく変わることもあったでしょう。「決意」とか抽象的な言葉は政治家で沢山。実務家の代表は、ちゃんと仕事してほしいよね。これじゃ「学者と学術会議」の関係と変わらないじゃないか・・・

※政府や医師会からの度重なる記者会見により、多くの人は飛沫・接触感染に注意して行動しています(だから、今年はインフルエンザや肺炎の感染者数が激減していますね)。それでも罹ることもある。残りの少数の人たちは、政治家が手本を示しましたが、注意しても聞いてない人たちなんで、いくら言っても無駄です。

25日追記 「危機管理」の視点から、この問題を扱っている良い記事がありましたので、参考までに要点を抜粋します。 

危機管理の視点から医療崩壊を数値的に検証し、対策を提言する — 多田 芳昭

諸外国に比べて圧倒的に少ない感染者数、重症者数にも関わらず、医療崩壊の瀬戸際に立たされる日本。
 日本の病床数は、概ね100万床と言われているが、新型コロナに備えて準備可能とされたのが、その3%にあたる3万床である。3万床で不足する事態が発生する場合、残りの97%から適宜資源の再配分を行うのである。 幾多の危機管理体制に対応した経験から言うと、資源の再配分は権限さえ備わればそれ程難しくないし、通常業務に影響を及ぼさずに対応可能なのである。しかし、厄介なのが、権限が付与されていないことを想定する場合なのだ。


資源を再配分しようと、全体最適を考えて采配を振るおうとしても、既存組織は既存のミッションを保有し、自組織防衛の為の防御反応が出るので、権限が無ければ、部分最適に引っ張られ、全体最適が犠牲になってしまうのである。

今の医療界が発信している、既存の医療に影響が出ると言う言い方は、この部分最適の防御反応の象徴なのである。構造的に、医療業界全体を統制管理し全体最適を指揮できる権限機能が存在しないことが、危機管理体制として脆弱である所以なのだ。

アゴラ

なるほど、この問題の本質は危機管理(の失敗)と捉えることにで、事象をうまく説明できますね。その結論として「全体を統制管理し全体最適を指揮できる権限機能が存在しないことが問題」という分析も納得です。

今の日本で、この「全体を統制管理し全体最適を指揮できる権限機能」を実装化することができれば、「禍を転じて福と為す」ことも可能だと思うのですが、それを求めるのはまず無理でしょう。

記事の著者も「何故、分科会や専門家会議に経済の専門家が入っていながら、この種の提言が出ないのか不思議でならない。」と書いていますが、素人でも思いつくことなので、この不思議の答えは簡単です。

政府や既存組織が求めているのは「大きな体制変更なしに「我々も精一杯対策をやっている」というポーズが取れる安易なPR手段の提言」なので、「全体を指揮できる権限機能の創設を!」なんて大それたことを発言しちゃう「危なっかしい人達」は、分科会や専門家会議に呼ばれないからでしょう。

参考記事です。

医療崩壊は医師の怠慢なのか?取り残される現場
現場医師からたびたび聞こえてくるのは、「医師会の発信は医師の総意ではない」という反論です。実際に医師会の加入率は6割程度で、医療最前線を担当している若手医師の加入率はさらに低くなっています。
医師会の、ひいては医療行政の決定権を握る病院経営者や開業医たちが、感染医療の現場を押し付けたまま抜本的な解決策を打ち出さず、いざ第三波がくるや医療緊急事態宣言と騒ぎたてる。これを勤務医たちは冷めた目で見ています。

アゴラ

保健所が厚労省に「2類指定を外して」 体制の見直しで医療逼迫は一気に解消へ
どこも報じないが、12月8日、全国保健所長会が厚労大臣宛てに「緊急提言」を送っていた。そこには、〈感染拡大の状況は地域により異なるので、現行の指定感染症(2類相当以上)の運用を、全ての感染者に対応することが困難である地域においては、感染症法上の運用をより柔軟に対応すること等を、以下に提案する〉
 として、2類相当の扱いを緩めることで、保健所の逼迫状況を解消してほしい旨が綴られている。
 テレビも保健所の逼迫を報じているが、常に「だから感染拡大を防げ」「外出するな」という結論に導かれている。新型コロナの感染者に、致死率5割を超えるエボラ出血熱並みの対応を求められている保健所の悲鳴は無視され、世論を煽る材料に使われているのだ。

Yahooニュース

投稿者:

モト

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。

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