「米中半導体戦争」が本格化、日本が急速な構造変化を生き残る道 という興味深い記事が目についたので紹介します。 記事を書かれたのが経済系の先生なので、技術的な話ではありません。 僕が興味をひかれたところだけ引用します。
今、世界の半導体産業が、急速な構造変化の局面を迎えているのである。
「米中半導体戦争」が本格化、日本が急速な構造変化を生き残る道
構造変化の大きな特徴の一つが、半導体の「設計・開発」と「生産」を分離する傾向が鮮明化していることだ。
例えば、米国の大手半導体企業は「設計・開発」を担い、実際の「生産」をファウンドリー(受託製造)である台湾のTSMCなどに委託するケースが多くなっている。・・・かつて、米インテルが果たしていたマーケットリーダーの役割を、今やTSMCが担っているともいえるだろう。
こうした変化は、米中対立にも非常に重要な影響を与えているのである。
中国は「中国製造2025」によって、先端の半導体産業でさらに優位性を高めたいと考えている。一方、世界の基軸国家である米国は、何とかしてそれを阻止すべく手を打っている。具体的には、米国は中国の通信機器大手であるファーウェイに続いて、大手ファウンドリーであるSMIC(中芯国際集成電路製造)を事実上の禁輸対象に指定した。
現時点で、製造技術で米国に一日の長があることは確かだ。しかし、中国経済のダイナミズムを支える「アニマルスピリッツ」や、テクノクラート(技術官僚)の政策運営力を基に考えると、米国が半導体分野における中国の技術革新を食い止めることは容易ではない。短期的に厳しい状況に直面したとしても、中長期的には、世界経済における中国の半導体産業の重要性は高まる可能性がある。
・・・ なお、韓国のサムスン電子は、どちらかといえば「設計・開発」から受託事業を含む「生産」までの統合を重視しているようだ。
米中半導体戦争といっても、米国代表は、台湾のTSMCという会社なんだけど(笑)。まあ台湾は米国陣営だから ってことですね。
記事では、現状米国陣営(TSMC)の技術力は、中国陣営(SMIC)に技術力で勝っているけど、中国のアニマルスピリッツや政府の支援政策を考えると、中長期的に中国が追い上げて来るんじゃないか と結論づけています。
興味深い記事ではあるんだけど、せっかくなら米系TSMCと中国SMIC対立の形で止めるのではなく、韓国サムスンも入れて(サムスンは形態が少し違うからと言うことで話には入ってません)、米中韓の三国志状態で話を進めると、もっと面白かったのに と思いました。僕のイメージだと、米が「魏」で中国が「蜀」です。韓国はその時の状況に応じてどちらとも和し敵する「呉」のイメージです※。国力(技術力)規模からいっても妥当じゃないかと。
第5世代通信(5G)や人工知能(AI)などに使う先端半導体はその象徴だ。従来の半導体は“産業のコメ”と呼ばれてきたが、今や軍事を含む国家の競争力を左右する“国家のコメ”にまで重要性は増す。「世界中で先端半導体を製造できるのは現状、TSMC(台湾積体電路製造)と韓国・サムスン電子だけだ」(業界筋)と国家がメーカーを取り合う構図となっている。中国と近い韓国政府と距離のある米国が頼るのも、半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手のTSMCだ。トランプ米政権の強い要請を受けて、TSMCは20年に米国アリゾナ州での先端半導体工場計画を発表した。
先端半導体製造の頂点、台湾・TSMCと韓国・サムスン。国家がメーカーを取り合う時代の日本の戦略は?
それはそれとして。記事の筆者は中長期で見て中国の追い上げを予想しているんですが、僕はそうは思いません。アメリカ系の圧勝ではないかと・・・中国はこんな国だしねえ。
中国の電子商取引大手、アリババ・グループの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏は昨年10月下旬に上海で開かれたフォーラムに参加して以来、公の場に姿を現していない。同フォーラムで行った講演では中国の規制制度を批判し、当局の反感を招いたとされる。その後、傘下の金融会社アント・グループは総額370億ドル規模の新規株式公開(IPO)の延期を余儀なくされた。
中国アリババ、創業者の行方巡り憶測広がる 2カ月間姿現さず
馬氏による昨年10月の講演以降、中国当局は独占的行為の疑いでアリババへの調査を開始したほか、アントに対し融資や消費者金融事業の改革を要請するなど、馬氏の事業への圧力を強めている。
最近、中国政府は国内において、かなり強力な行政指導あるいは規制をかけているように見えます。もともと共産中国では普通の手法かもしれませんが、リーマンショックからの回復で効果を発揮し、当局が自信をつけてしまった という見方もあるようです。
“今回の世界経済危機においては、中国は共産党の指導により経済対策を迅速に決定・実行し、地方政府・企業・銀行・国民を大動員することによっていち早く危機を抜け出した。しかしそのことにより、中国は計画経済時代の行政指導を多用する手法に回帰しているようにも見える。事実、指導部は一党独裁の政治体制の優位性を強調するようになってきている。” 国分良成編「中国は、いま」2011
中国はこの手法をコロナウイルスの封じ込めにも使って、それは実際有効な手法だったんだけど、ビジネスに適用しちゃう(マー氏の事例)とどうなるか・・・
中国におけるITは、中国の若者がアメリカの大学院で勉強し、それを中国に持ち帰ったことによって発展したものだ。
巨大IT産業時代の終焉なのか―中国で重大な地殻変動が起きつつある
アメリカにとどまった人たちも最初は多かったのだが、中国での経済発展が進展するに従って、中国に戻る若者が増えたのだ。彼らは「ウミガメ族」と呼ばれる。こうした人々が中国の著しい発展を支えたのは、間違いない事実だ。それは中国国内において活躍の機会があるという期待に基づいたものであった。
そして実際、中国国内では、アリババやアントだけでなく、多数のユニコーン企業が現れた。その状況は、アメリカのそれに似たものになった。中国でも活躍の機会があるという期待が、これまでは満たされてきた。
ところが今回の事件で、「先端IT企業といえども、共産党のさじ加減次第でどうにでもなる」ということがわかった。自由な活動が制約なしにできるわけではなく、共産党の鼻息を伺いながらでしか活動ができない。
そうなれば、優秀な人間は、アメリカでの勉学を終えた後、中国に戻るのでなく、アメリカにとどまることを選ぶだろう。それは、アメリカの技術力を高めることになる。そして、中国の発展にとってはマイナスに働く。中国の経済発展は大きな打撃を受けることになるだろう。
野口 悠紀雄先生の記事です。いつもながらさすがです。元記事を読むことをおススメします。
さて、「海亀族」に頼っているのは、ITだけでなく半導体産業に関しても同様ではないでしょうか?
あるいは、IT産業と半導体産業の形態が異なり、半導体産業の技術を持った若者が中国国内で活躍の機会を得られるとしても、先の記事における「テクノクラート(技術官僚)の政策運営力を基に考えると、米国が半導体分野における中国の技術革新を食い止めることは容易ではない。」って言葉に信憑性があるかなぁ と思うのです。
この筋書きは、テクノクラート→通産官僚、中国→日本と読み替えれば、かつて社会主義国日本がたどった(そして失敗した)道に他ならないと思うのです。いくら優秀でもビジネスを知らない官僚(しかも共産主義や社会主義を原則とする国の)によるビジネスの道筋づくりや産業育成、重点施策が旨くいくとは思えないから。やはり市場のことは極力市場に任せる、アメリカ方式が強いんじゃないか と思うところです。
“「ビジネス」の側面からみて、民主制が他の統治形態よりも優れている点があるとしたら、それが「統治」の「市場」への過度の干渉に対して縛りをかけることを可能とする、現時点では唯一の政治体制である、というところに求められるだろう。ここに、ビジネス面で絶好調であるかにみえる現代中国における問題が改めてクローズアップされることの一つの根拠がある、といえるのではないだろうか。”梶谷懐「壁と卵の現代中国論」2011
てなことで、米中半導体戦争で、米中どちらに賭けるか(投資するか)と言えば、僕はアメリカ一択です。
※ちなみにこの「三国志」において日本は・・・もちろん「魏」に貢物を送って「親魏倭王」の称号を得た邪馬台国に当たります。今の言葉で言えば「親米日本」ですね。台湾もそれを見越してリスク分散をはかっています。もちろん日系サプライヤーの存在も大きいのだろうけど。
半導体受託製造(ファンドリー)最大手の台湾TSMCが日本国内に工場を建設するというニュースが、台湾現地メディアを通じて業界を駆け巡った。組立やテストなど後工程分野の開発拠点を国内に設ける見通しで、将来的には量産工場の建設も視野に入れる。・・・こうした先端領域で用いられる装置・材料の多くは、日系サプライヤーが担っており、日本国内への進出によって、装置・材料メーカーとの協業をより一層深めていきたい考え。
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