趣味の時間です(笑)。 第二次世界大戦における、日本とアメリカの防空駆逐艦はどう違うんだろ?と思いついて、ちょっとプラモデル作って比較してみました。
アメリカに「防空駆逐艦」という艦種はないんですけど、 日本の「秋月級」と排水量や兵装装備が似てる船を勝手に選んで、比較対象としました。 戦争末期ギリギリに竣工した「ギアリング級」です。 モデル写真と、諸元(船体のみ。兵装編はこちら)をどうぞ。
日本の「秋月級」駆逐艦は、2700tと当時としては破格の大きさだったので、それに匹敵する駆逐艦って無いんですよね。最大のギアリング級でも2450t。当然長さは秋月のほうが長いのだけれど、最大幅がギアリングのほうが広いので、秋月が「ほっそり」しているのに対して、ギアリングは「ずんぐりむっくり」 です。秋月のほうが艦の前後に余裕スペースがあることもあり、模型としては秋月のほうがスマートに見えます。比較して気がついたことなど。
①乗員数と甲板室の存在 ユーザーフレンドリー思想?
乗員は、秋月273名に対し、ギアリング336名。兵装も違うので一概には言えませんが、小さい船であるギアリング級のほうが、20%以上乗員が多いです。両者の定員と部署配置の名簿があると、両海軍が何を重視していたか等、いろいろ検証できそうなんですが、そういう視点で両軍を分析した書籍はありませんかねぇ?探しているんだけど。
ともかく、乗員数の違いが、甲板の上に設けられた甲板室に反映しているんじゃないかと。ギアリングは、甲板上に長〜く甲板室を設け、その上に煙突や魚雷発射管、機銃などを配置しています。 対して、秋月は、煙突や魚雷発射管は甲板の上に直接設置し、その合間に少し甲板室があるだけ。というか主砲台座程度です。
ギアリングの設計だと、広く居住空間や執務室が取れる(当然、甲板下より居住性もいい)かわりに、船の重心がどうしても高くなっちゃいます。
対して、日本海軍はこういう長大な甲板室を持つ小型艦は作りませんでした。唯一の例外は海防艦「占守級」だけかな。この船は文字通り北の海を守るために作られたので、冬季に凍った船外に出ずに室内から前後移動ができるようにしたという特殊事情からです。
ちなみに、秋月は甲板上に魚雷発射管が設置されており、荒天時の魚雷発射に備え、発射管基部にはそれを包む「波よけ」が取り付けられいます。それでも、操作する人間は大変だったでしょうね。一方、ギアリングの魚雷発射管は甲板室の上ですから、荒天時の操作時でも、波の影響は小さかったと考えられます。低い重心を取るか、操作性を取るか・・・
もう一つ。ギアリングを始めアメリカの軍艦には、すぐ海面に投げられる位置に救命いかだが設置されています。 日本の軍艦にはもちろんついてません。沈没時の熟練乗務員の生存率向上は、貴重な人的戦力の温存に繋がると思うんだけど。
②爆雷の配置
両艦とも、潜水艦を攻撃するための「爆雷」と、それを投下するための「投下軌条2条」と「投射機」を片舷2基または3基積んでいました。 だいたい同数です。ただし、その配置が違います。
秋月は投下軌条と投射機を艦尾にまとめて配置していました。しかも投射機は、片舷だけでも、両舷同時発射でも可能なものを艦中央配置(形からY砲と呼ぶ)。
対して、ギアリングは軌条と投射機を離し、しかも投射機は甲板室脇に、片舷発射用(形からK砲と呼ぶ)をそれぞれ設置しています。結果として連携して動くべき軌条、左舷投射機、右舷投射機間が、相手が見えなかったり、距離を離して配置されていることになります(投射機は当然発射音も出たでしょう)。 秋月型と比べると、どうやって統合指揮してたの?とかそれぞれ班編成が必要だから、人員が多くいるよ と思うのですが(そういうのが積もり積もって乗員数が多くなっているはず)、 それらが対潜能力にはどう効いていたか知りたいところです。
まあ、肝心の潜水艦を見つけるソナーの能力はアメリカが勝ってたので、人員配置による能力比較は難しいと思うけど。
③煙突
秋月は1本の太い煙突、ギアリングは2本の細い煙突です。その違いは
両艦とも、重油を燃料とする蒸気タービン方式なので、スクリュー1軸に対してボイラーとタービンが1つ必要になります。2軸推進だから、それぞれ2つ。ボイラーは缶室に、タービンは機械室に置かれます。
秋月は、2つのボイラーとタービンを、「缶室1=缶室2=機械室1=機械室2 」という配置にしました。だから、2つの缶室のボイラーから出てくる排気を集合煙突として1本の太い煙突にまとめています。日本はこの形の煙突が多いですね。
対して、ギアリングは、 「缶室1=機械室1=増設燃料タンク=缶室2=機械室2」 という配置でした。煙突はそれぞれの缶室に対して必要になるので、離れて二本。
秋月配置のメリットは、煙突を一本にまとめられるので、武装などの配置自由度が上がることです。それと、おそらくギアリングとくらべると機関担当乗員が少なくて済むでしょう※。 ギアリングみたいに両軸の推進システムが独立していないから。
デメリットとして、攻撃を受けた際の生存力が低下します!缶ー缶 や 機=機のところに一発攻撃を受けると、運が悪いと一発で完全に推進能力を奪われてしまうためです。動けないと攻撃回避できないから、これは生存を考えると致命的な欠点でした。
※それでも秋月級は、それまでの日本の駆逐艦より生存性は改善されているのです。秋月以前の駆逐艦では、1つの機械室に2つのタービンをおいていたのです(「缶室1=缶室2=機械室」)。これだと機械室がやられたら即動力を失っちゃう・・・。この形だと、さらに機関担当乗員は減らせるだろうけど。
アメリカ型の交互機関配置だと、2つの独立した推進軸系統があるので、一撃で推進力を失うことは避けられます。それから、ギアリング以前のアメリカ駆逐艦は燃料搭載量が少なすぎたそうで、ギアリングでは交互機関の間に燃料タンクを増設しました。場所は戦訓も参考にしたでしょうから、これも生存性を高めることに繋がったと思います。
ちなみに、日本も秋月型のあとに作られた松型駆逐艦では交互機関配置に改め、生存性の高さを評価されています。
それにしても、秋月はこの船体の大きさと馬力で、最高速度33ノット、航続距離8000カイリと立派。しかし、2700トンの船に、燃料が1000トンも詰めるのはオーバスペックじゃないかなあ。せっかくアメリカさんより重心が低そうな船体設計をしているのに、燃料タンクが過大だと、燃料の残量が少なくなるにつれ、重心が上がってくる問題が看過できなくなるのではないかと思うのだけれど・・・
ちなみに
長い航続距離を求められたのは、秋月が大型艦である空母を主体とした機動艦隊に随伴する任務を念頭に作られたからです。 ギアリングもそうでしょうけど、アメリカの場合は、「足りなきゃ随伴のタンカーから給油すればいいや」 と思っていたのかもしれません。他方、日本は戦争中盤以降、十分なタンカーが残っていませんでした。艦隊随伴なんて、アンタそんなの無理だよう。
例えば、長い距離を航行して殴り込みをかけたことで知られるレイテ沖海戦では、その帰途、日本艦はほとんど燃料が尽きかけていて、足の短い駆逐艦は、戦艦から給油してもらったと読んだ記憶があります。そんな状況だから、個艦にも燃料いっぱい詰めるように とせざるを得なかったのかもしれないですが。
④マスト
ギアリングは1本のマスト、秋月は2本のマストを立てています。
両艦とも、前部のマストには上部にレーダーを設置しているのですが、ギアリングのほうが大きなレーダー装置であるのにも関わらず、ギアリングは1本柱で、秋月は3本柱の組み合わせで支えています。しかもギアリングのほうが高い位置にレーダーを設置しているという・・・
日本の軍艦で、前部マストが一本柱というのは見たこと無いのですが、この辺の強度はどのくらい差があったんでしょう? 3本だと1本失っても大丈夫とか、いろんな考え方があるのかな?
それと、日本の軍艦の場合、前部マストと後部マストの間に通信線を張って通信するので、両者の距離をできるだけ離して立てるのが望ましい と思っているのですが、ギアリングにはそもそも後部マストがありません。
攻撃にせよ防御にせよ、邪魔なマストは、無ければ無いほうがいいでしょうね。しかし、通信はどうしてたんだろ? (写真を見ると、前部マストと後部煙突の間に張線があるので、これが通信線なのかな?)