まさか、世界を股にかけた大規模な貿易や情報ネットワークが全世界に広がる21世紀に、ガチな「20世紀型戦争」が始まるとは、思いもよりませんでした。
そして「核を持っている国」の傍若無人や蛮行に対し、巻き込まれることを恐れる諸外国(世界)は正直何もできないのだ ということも思い知らされました。
政権を維持しようとする独裁者が、核を持ちたがることの意味が良くわかりましたね。(もう北朝鮮とか制御不能じゃん)もちろん「道徳的にどうよ」という葛藤はあるし、核兵器廃絶の理想は崇高ではあるけれど、 圧倒的な現実の前には霞んでしまいます・・・。
それにしても、ロシアがここまで執拗に、ウクライナを狙う背景はなんでしょう。
その理由が知りたくて、自宅の本棚にあった下記の本で、該当する地域の部分を読んでいて驚愕しました。 1997年に書かれた本ですが、そこで述べられている「悪い方の記述」が、まんま現状だったからです。 以下引用です。
・ロシアにとって地政戦略上、唯一のまともな方針、すなわち、ロシアが現実的な国際的役割を確保でき、自国を改革し、社会の近代化を進める機会を最大限に確保できる方針は、ヨーロッパである。ロシアはこのヨーロッパと結びつかなければならない。
・アメリカと同盟したヨーロッパとの密接な関係を深めていく事が最善の選択だと、ロシアが納得できるような状況をアメリカが作っていかなければ、ロシアの問題が大きくなる可能性が高い。
・ロシアと中国、ロシアとイランが長期にわたる戦略的な同盟関係に入るとは考えにくいが、アメリカはロシアがこの選択を取らざるを得ないような政策を避けることが極めて重要。(意味取りにくかったので意訳してます) P194
・ロシアはNATO拡大に反対する姿勢をとっているが、1999年の中欧数カ国への拡大は黙認するだろう。・・・これに対して、ウクライナのNATO加盟を黙認することは、はるかに難しいだろう。これを認めれば、ウクライナがロシアとの運命共同体から完全に脱したことを認める結果になるからだ。
しかし、ウクライナが独立国家として生き残るためには、ユーラシアの一部ではなく、中欧の一部にならなければならない。そして中欧の一部になるには、NATO、EUと中欧諸国との結びつきに完全に参加しなければならない。
・この結びつきをロシアが認めれば、ロシア自体もヨーロッパの一部としての道を選択することになるだろう。ロシアがこれを拒否すれば、ロシア自体もヨーロッパの一部としての道を拒否し、「ユーラシア」国家として孤立し「近隣諸国」との泥沼の紛争に苦しむ道しかなくなる。 P200
詳しい解説や背景は本書を読んでもらうしかないけもれど(絶版で、中古もすごい値段になってる!)、見事な解説と予測です。文字通り「ロシアは孤立し、近隣諸国との泥沼の紛争に苦しむ国」になりつつあります。ブレジンスキーは1928年にポーランドで生まれ、アメリカに帰化した政治学者なので、この地域の力学には特に腕を振るったものかもしれません。
この本は、「ユーラシアをチェス盤に例え、チェスゲームの複数の参加者(国)がそれぞれの立場で動きを見せる中で、アメリカが、どのような地政戦略を実行していけば世界の平和が保てるか」(訳者あとがき)をテーマとしている以上、現在の状況を招いたのは 「ロシアが納得できる状況を作れなかったアメリカの政策が悪かった!」ということでしょう。 けど、過去を悔いても仕方ありませぬ。
今はユーラシア国家となったロシアがこの先どうなっていくのか、我々(というかアメリカ)はどうすべきなのかをブレジンスキーに聞きたいところ。ですが、彼は2017年に亡くなっていて、聞くことはできません。 教えてよドラえもん!
(ちなみに本書によれば、日本はチェスゲームにおける「参加者」ではないから、できることは何もありません。ただ、波及するであろう「アジアでのチェスゲーム」では、参加者になる場面もあるでしょうから、打てる手を今考えておくべきでしょうね。)
いずれにせよ、ここまで来てしまった以上、ロシアが今更「ヨーロッパの一部となる」政策転換を行うことは期待できないでしょう。一方で、アメリカは、「世界の辺境でアメリカの若者が血を流す」状態にうんざりし、大統領が明言したように、絶対介入はないでしょう。(モンロー主義への回帰?)。
とすれば、ずるずる現在のような不安定な状態が続くんじゃないでしょうか・・・。誤って(狂って)誰かが、変なボタン押さなきゃいいな って思うし、「あいつができたなら俺も」と続く方がいないことを、切に願うばかりです。
3月11日追記。「NATOの東方拡大が、ロシア暴発につながる可能性」というのは、その分野筋では、警鐘済みの話だ という扱いなのかもしれません。それを肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかとう違いはあるにしても。
ロシアは、なぜウクライナに侵攻したのか。「北大西洋条約機構(NATO)が東に拡大して、ロシアを脅かしたからだ」と答えれば、多くの人が「それは、ロシアの言い分」と思うだろう。その通りなのだが、実は、米国有数の識者たちが長年、唱えてきた分析でもあった。
その代表的論者は、かつての米ソ冷戦で「ソ連封じ込め政策」を立案した米国の伝説的な外交官、故・ジョージ・ケナンである。今日のロシアとの対立の原点とも言える、米国の対ソ戦略をデザインした当の本人が「NATOは東に拡大すべきではない」と主張していたのだ。
〈NATO拡大は冷戦終結後の米政策で、もっとも致命的な誤りだ。この決定はロシア世論にナショナリスティックで、反西側の軍事的風潮を燃え上がらせ、ロシアの民主主義発展には逆効果になる。東西冷戦の空気を呼び戻し、ロシアの外交政策を、我々が望まぬ方向に追いやる結果になる〉
ケナンだけではない。ケナンが2005年に101歳で亡くなった後、その主張を受け継いだのは、シカゴ大学の現実主義政治学者であるジョン・ミアシャイマー教授である。
〈ウクライナの広大な平原は、ナポレオンやドイツ帝国、ナチスの時代から、ロシア侵攻の舞台になってきた。ロシアにとって、ウクライナは戦略的に非常に重要な緩衝国だった。(そんなウクライナが)つい最近までロシアの敵だった国と軍事同盟を結ぶのは、どんなロシアの指導者も認めないだろう。そればかりか、西側が自分たちとの統合を目指す政府の樹立を画策しているとき、ぼんやり何もせず、見ているはずがない〉
〈冷戦時代に、キューバはソ連と軍事同盟を結ぶ権利があったか。米国は明らかに、そうは考えなかった。ロシアもウクライナの西側参加には、同じように考えている。
プーチンのウクライナ侵攻、実は25年前から「予言」されていた…!
もう一つ。こちらの記事には思わず笑ってしまいました。これだけユーモアが出せれば、ウクライナはまだ余裕があるのかも、あるいは虚勢なんだろうか?(前者だと思いたいけど) しかし、「国家汚職防止庁」!世の中にはいろんな役所があるもんだ(笑)
戦闘状態が続く中で、ウクライナの国家汚職防止庁は「鹵獲したロシアの戦車やその他の装備について、収入として申告する必要はありません」と発表しました。国家汚職防止庁は発表の中で、「ロシアの戦車や装甲兵員輸送車を鹵獲し、それを収入として申告する方法について心配していますか?落ち着いて、祖国を守り続けましょう!鹵獲したロシアの戦車やその他の装備について申告する必要はありません」と述べています。
「ロシア軍から奪った戦車や装備を収入として申告する必要はない」とウクライナ当局が発表