JR西日本の「WEST EXPRESS(ウエストエクスプレス)銀河」や、世界初の内航電気推進タンカー「あさひ」の内外装のデザインを担当した、川西康之さんってご存知でしょうか? その手のデザインに興味がある人なら、知っているかもしれません。
6月5日日曜日の朝、町や近鉄が共同で進める結崎駅駅周辺の整備事業の一環として駅舎のリニューアル工事が行われ、ようやく新駅舎が誕生。その完成を祝うイベントがこの日、開催されるのだ。
売れっ子デザイナー、人気の鍵は「聞き上手」川西康之さん、駅・船の次も鉄道分野で注文殺到
会場の片隅でこの様子を柔和な表情で見つめている男性がいた。新たな駅舎や駅前広場のデザインを担当した川西康之さん。JR西日本の「WEST EXPRESS(ウエストエクスプレス)銀河」、えちごトキめき鉄道の「雪月花」といった観光列車のデザインを手がけた、いま最も勢いのある鉄道デザイナーだ。鉄道ファンなら知らぬ者はいない。
もっとも、川西さんの本業は建築家。駅舎のデザインはお手のものだ。付け加えれば、川西町は川西さんの生まれ故郷でもある。その玄関口となる駅をデザインしたのだから感慨もひとしおだ。
僕もその手のデザインに興味があり、特に「あさひ」の記事部分を興味深く読んでたのですが・・・、
それはさておき、最後の一文に目が釘付けになりました。
川西さんは現在いくつもの案件を抱えて、日本全国を新幹線で駆け回る日々だ。すでに発表されたものでは、JR東海道線の三ヶ根駅の改修計画や近鉄が2024年秋に投入する新型一般車両のデザインがある。
同上
その川西デザイナーが、JR東海道線の三ヶ根駅の改修計画に携わっている! 実は、我が家から最も近いJR駅の一つが、隣町にある三ヶ根駅なのです。(バイクで20分くらい。西尾市にはJRが通ってないから・・・)
関心のあるデザイナーが、こんな身近で活動してたなんで、全く知らなかったよ。↓ですね。
三ヶ根駅ではエレベーターを設置する工事が計画されています。
幸田町 企業立地課 三ヶ根駅未来会議
この機会を単なるバリアフリー工事だけでなく、駅周辺地域の活性化のため、三ヶ根駅の利便性や魅力をアップできるチャンスと捉え、「三ヶ根駅未来会議」と称し、地域住民や駅利用者のニーズと課題点を把握するための会議を行っています。
この会議の運慶と取りまとめを、川西さんの事務所「イチバンセン」が受託したのですね。もっとも令和2年2月に「未来会議」は終わっており、現在は設計にかかっている段階と思われます。
将来的に、どんな感じの駅舎ができるのか楽しみです。完成したら、ぜひ見に行きたいと思います。
参考記事を検索していて、興味深い良い記事(主に川西設計論について)がありましたので、合わせて紹介します。これは既存の駅舎改修の事例です。
地方の駅舎の場合、依頼内容のほとんどは「駅に賑わいを取り戻したい」というものだそうだ。「ところが、地方の駅は驚くほど利用客が減り、乗客の多くが高校生です。しかし、少子化で生徒の数は僕らの頃の4分の1ほど。それに、生徒の定期券は半額ですから、鉄道会社はあまり儲かりません」と地方の公共交通の厳しい現状を話す川西さん。「『駅に賑わいを』という声は、かつて鉄道が地域の繁栄の象徴だった頃のノスタルジーから発せられるものだと思います。はっきり言って、人口減少が加速する今、賑わいづくりは難しい。それでも、往時の駅の輝きは取り戻せないかもしれませんが、地域住民の”心の拠り所“となる駅舎はデザインできると我々は考えています」。
川西康之さんと『イチバンセン』が運んでいくもの。
これ、地方のインフラ整備に携わっていた身として、すごくよくわかります。客先の要求する当初目標「駅に賑わいを取り戻したい」って、それ設計やデザインに求めるのが無理です。 そんなことで解決できるなら、とっくにやってるって。
だから設計者としては「それはできないから、心の拠り所となる駅舎をつくる」とか、次元を落した目標に変更し、それを客先に納得させる過程(気持ちよく茹でられているカエルに、「あんたこのままだと茹で上がって死ぬ。だから湯から出て外に逃げろ」と説得する行為)がないと、多分そのプロジェクトは成功しません。
でも、そこまでやる設計者ってほとんどいないし(とてもメンドクサイから)、自治体自体が設計者だと、そのような変更が組織的に許されず、形だけ当初目標を追い求め、立派な箱ができ、事業は失敗することになりかねません。
駅に張り込んで利用状況を調べていた川西さんは、「そのデータを知り、観光客をターゲットにするのはやめました。『あらゆる世代に喜んでもらえる駅に』とも言われましたが、それも無理。メインターゲットは高校生に定めました」。発着数は1時間に1、2本。次の列車が来るまで構内はがらんとしたままだ。ただ、発車10分前になると、当時の駅前にあったコンビニエンスストアから高校生がぱらぱらと駅のほうへ歩いてくる。試験前には、高校生が待合室の床にノートを広げて勉強する姿も目にした。
そこで川西さんは、高校生が自習できる場としての駅を設計することに決めた。高校生が列車を待つ間、心置きなく勉強できるようにと、地元の四万十檜を多用した温もりのある空間に、長い勉強机と椅子を用意した。
「駅で自習した多くの高校生は、進学や就職で四万十市を離れていくでしょう。運転免許を取れば列車にも乗らなくなるかもしれません。そんな駅ですが、『乗降客数約370万人の新宿駅より好き』と中村駅を思い出し、帰ってきてほしいです」と川西さんは微笑む。「それができるのが、デザインの力なのかもしれません」。
『あらゆる世代に喜んでもらえる駅に』とも言われましたが、それも無理。メインターゲットは高校生に定めました」「駅で自習した多くの高校生は、進学や就職で四万十市を離れていくでしょう。そんな駅ですが、『新宿駅より好き』と中村駅を思い出し、帰ってきてほしいです」「それができるのが、デザインの力なのかもしれません」。
「微笑みながら」とあるけれど、これは「諦観の笑い」というのが、あるいは正解なんじゃないかな。本当はもっと上を目指したい。けどそれは無理だから・・・ここまではできる、ここまではやってやる っていうような・・・。 設計あるいはデザインというのは、諦めというか、割り切りってのが重要 って分かるような話だよね。
本当は、狭義の「設計」や「デザイン」(デスクワーク)にかかる前に、ここまでの諦めや割り切りができる環境、つまり 「いろんな意味での削ぎ落としに対する客先の理解」を得ておくことが重要なわけ。それがないと、成功する設計にはならない。
本当のニーズを汲み取ろうと、「結崎駅8800人フューチャーセッション」と銘打った話し合いを毎月、全17回開催した。「最初は好き放題おっしゃいます。特に年配の男性が。『大手コーヒーチェーン店を誘致しろ』とか、『コンビニエンスストアを入れろ』とか」と苦笑いする川西さん。
出た〜。地元で会議をやって設計者や発注者を悩ませるのが、この「好き放題おっしゃるおっさん問題」。常識的に考えて、そりゃ普通に考えて無理だろ という要求がポロポロ出てくる(笑)。
☆「好き放題おっしゃるおばさん」は少ない。これは多分、そんなおばさんに対しては、同類のおっさん(正式名称・森喜朗)が反論して黙らせるからだな。
(常識ある)普通の設計者や自治体担当者だと、「それは無理です」と答えます。あるいは、同席してもらったその地域の顔役に「そりゃ○○さん、アンタの気持ちはよく分かるけど、経済的に考えて厳しいわなあ」という仲裁役を期待します。というか、田舎の会議ってそういうものなのです。 言う方も△△さんが言うなら仕方ないか と諦めます。決して納得したわけじゃないとしても、会議は無事終わる。
川西さんがえらいのは(というか、彼に限らず「本当に優秀な設計者」は)ここから。
そこで、コーヒー店の本社を訪ねると「1日500杯売らないと」と言われたことを次のセッションで町民に伝えた。コンビニの本社も訪ね、「1日50万円を売り上げて」と言われたと伝え、「到底、無理ですよね?」と。そんなふうに客観的なデータを示し、半年間ほど話し合ううちに、「『もしかしてワシら、無責任なこと言うとった?』と年配の方々の態度が突然、変わったのです。駅づくりが『自分ごと』になった瞬間でした」。
はい。普通の設計者は、採算分岐点を尋ねるためだけにコーヒー店やコンビニの本社を訪れません(断言)。他の業務もあるから、それだけかける時間も出張旅費もでない(笑)。
でも、そこまでして客観的なデータを手に入れる示すからこそ、「好き放題いうおっさん(客先)」の態度が変わるのです。 権威に言われて黙るのではく、自らの要望(思いつき)が真剣に受け止められ、そしてきちんとした回答を返された。だから自らも考えざるを得ず、そして得心したと。まあ、それを待つ「半年」が捻出できないプロジェクトも多いんだけどね。 権威主義だと話は早くまとまる(笑)。
この、「自分ごと化」がローカルデザインの成功には欠かせないと川西さんは言う。「『自分ごと化』は対話によって生まれます。対話は公共空間をデザインするときの手がかりになります。対話をして、意見がまとまらないのもニーズです。対話もなく、『皆さんの意見がまとまったらご連絡ください』と事務所に戻る設計者がいますが、設計者が意見をまとめないと」と川西さんは強い口調でそう言った。
「設計者が意見をまとめないと」か。これまで客観的にコメント書いて来ましたが、公共事業実施の端くれにいたものとして、誠に耳が痛い。
自分のことは棚上げしますが、これこそ「言うは易し行うは難し」 この積み重ねが、凡庸な設計者になるか、優秀な設計者になれるかの境目 なのかもしれません。