〈「国際物流停止による世界の餓死者が日本に集中する」という衝撃的な研究成果を朝日新聞が報じた。米国ラトガース大学の研究者らが、局地的な核戦争が勃発した場合、直接的な被爆による死者は二七〇〇万人だが、「核の冬」による食料生産の減少と物流停止による二年後の餓死者は、食料自給率の低い日本に集中し、世界全体で二・五五億人の餓死者のうち、約三割の七二〇〇万人が日本の餓死者(日本の人口の六割)と推定した。
実際、三七パーセントという自給率に種と肥料の海外依存度を考慮したら日本の自給率は今でも一〇パーセントに届かないくらいなのである。だから、核被爆でなく、物流停止が日本を直撃し、餓死者が世界の三割にも及ぶという推定は大袈裟ではない。〉(『世界で最初に飢えるのは日本』3ページ)
世界で最初に飢えるのは日本…東大教授が衝撃の事実を明かす「食の安全保障」の闇
日本のカロリーベースの食料自給率は・・・平成に入って以降は3~4割台と低迷。牛肉や豚肉など輸入品の消費が拡大した結果、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも最低水準にある。・・・台湾有事が発生すれば、多くの船舶が行き交う台湾海峡の航行が困難となり、食品やエネルギーの海外からの輸入が滞る可能性が高い。その場合、日本人の生活は危機的な状況に陥る。しかし、日本国内では、食料安保に対する危機意識が依然として乏しい。
台湾侵攻で岸田政権が気づかない「食糧危機」のリスク…自給率4割足らずで大丈夫か?
ロシアのウクライナ進攻や、中国による台湾有事の可能性増大を受け、有事の際の日本の食料危機をあおるような記事が目立ち始めました。(食料安保問題) 議論のベースになっているのは、「日本のカロリーベースの食料自給率が37%しかない」です。
んー。でもさあ、スーパーへ買い物に行っていると、日本の食料自給率がそんなに低いとは思えないのだけれど。
毎日食べるコメは国産でしょ。野菜も多くは国産。魚は輸入(冷凍)も多いけれど、養殖を含め国産だってまだ頑張っています。肉は輸入も多いけれど、国産だってそれなりに出てます。感覚的には食料自給率って50%以上はありそうなんだけど、なんでこんな低いのかな?
ってことで、農水省の資料で、カロリーベースの品目別自給率を確認してみると・・・(この資料での自給率は39%でしたが、まあ大勢には影響しません)
米や野菜の自給率が高いのに対して、肉類や小麦の自給率はやたら低いです。まあ小麦は仕方ないな、輸入が多いし、そもそも日本の自然環境は小麦生産に向いてない。
でも畜産って日本でもかなり盛んだよね。なんで8%とかこんな自給率低いの?頑張ってる畜産農家は激おこぷんぷん丸でしょうに。
答え。「肉類は餌となる飼料の自給率を考慮したから」だそうです。でも、肉類だけそんな考慮するなんておかしくない? 今の米作りはトラクターやコンバインなどの機械がないとやっていけないけれど、機械を作る原材料も機械を動かす燃料も海外頼み。ドローンは中国製だし、充電する電気を作る燃料は・・・野菜だって、大規模産地の機械化は進んでいるし、種は海外に頼っています。
日本では野菜の種の九割を輸入に頼っている。野菜自体の自給率は八〇パーセントあるが、種を計算に入れると、真の自給率は八パーセントしかない。種は日本の種会社が売っているものの、約九割は海外の企業に生産委託しているのが現状だ。
世界で最初に飢えるのは日本…東大教授が衝撃の事実を明かす「食の安全保障」の闇
つまり、コメだって野菜だって、上記引用記事のように肉類と同じような計算法をとるか、 肉も野菜もコメも「国産」は自給扱いで計算しないと、整合しないんじゃないです?
前者の計算法なら、記事の通り、80%近い野菜の自給率ですら、たったの9%になります。後者の計算法は「生産額ベースの食料自給率」に近い考え方ですから、この場合日本の食料自給率は65%です。 後者なら僕の感覚的な自給率に近いこともあり、「まあまあ、それほど心配することないんじゃない?」って思いますねえ。
前者の考え方を取るなら・・・そもそも、エネルギー供給源を海外に頼り切っている日本が、食料自給率の向上だけ考えるなんてナンセンス って思いません?
海外から食料供給が滞るような事態で、エネルギーだけ潤沢に入ってくるなんて非現実的。その時は、国内で食料を生産できません! ま、家庭菜園で野菜くらい作れるかもだけど。
食料自給を考えるなら、少なくともエネルギー自給も考えなきゃ。って、日本はエネルギー小国ですけど、それでも本当の意味で自給を考えるなら、・・・江戸時代の鎖国していた日本が参考になるでしょう。
当時はエネルギーも食料も、食料生産に使う肥料も全部自国で賄っていました。この時の総人口はおよそ三千万人。そして人口の9割が農民で日本全国に分散して住んでいました。首都である江戸の住人(純消費者)がおよそ百万人。
エネルギーは「薪」が主力。木材消費は盛んで、あちこちにはげ山が生じていましたから、リサイクルが盛んだった江戸時代とはいえ、三千万人は環境収容力ぎりぎりだったかと。
江戸の人口百万人という数値もおそらく大事。なぜなら、食料生産地(農村)から大消費地(人口密集地)に、「風力による帆船輸送」だけで食料(主食である米)を安定供給できるレベルがその程度だっただろうからです。
現在、日本の人口は当時のおよそ4倍の十二千万人。この時点で、現代日本は「貿易」に頼らざるを得ない国で、エネルギーにせよ、食料にせよ「自給率」を上げるにはかなり無理があることがわかるかと。
しかも、総人口の四分の一以上が東京圏に集中して住んでおり、ほとんどは農家ではありません。今の日本では仮に国内で食料が自給できたとしても、海外からのエネルギー供給が潤沢になければ、大消費地に食料供給が満足にできず、彼らは飢えますね。
結局、「自給率を上げる」とか無理筋の目標を立てるより、「貿易する中で、できるだけ供給地の分散化をしリスク低減を図る」 あたりが現実解じゃないですかね。
てか、下手に自給率上げると、付き合いとして「アンタの国、海外に車・機械やら電化製品やら、半導体やら売りつけて大儲けしてる(してた)やろ。だったらせめて食料ぐらい外国から買わんかい。それがフェアな取引ってもんやろ」って国際社会からいわれますよねえ。それで摩擦が起こるほうが、食料危機より可能性ありそうな気もします。貿易立国日本として、大人な判断のしどころではないかと。
ところで、先ほどの農水省資料は、食料自給率目標を考える一つの事例として、「英国の食料自給率(カロリーベース)の推移」を示しています。英国は食料安保の観点からしばしば取り上げられる国らしいです(詳しくは下の引用記事)。
近年英国のカロリーベース自給率は低下傾向だそうですが、それでも70%程度とご立派。 これを一つのお手本にしたいのかな・・・(この資料も興味深く、触れてみたいけど、長くなるのでその2に回します )
その英国について、面白いレポートを見つけました。
英国は、かつては現在の日本と同様、あるいはそれ以上に食料の多くを輸入していたにもかかわらず、その後に食料自給率を向上させた例として、食料安全保障上の観点からしばしば挙げられる。しかし当の英国では、食料安全保障上の理由で自給率を重視することに対し異論もある。また最近10年ほどの間、英国の自給率は低下傾向にある。
・・・むしろ現在の食料安全保障政策の力点は、国内外からの幅広い調達と、流通を含む食品産業のサプライチェーンの信頼性とその円滑な機能の維持にある。
英国の食料安全保障政策と日本 農中総研 調査と情報 2008.7(第7号)
当の英国政府は、食料自給率のみを重視することには批判的な感じ。「国内外からの幅広い調達」に力点と、至って現実的な気がします。
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