中国による水産物輸入禁止措置もあり、日本の水産物需要を支えてきた北海道の漁業・水産業が大きな転換期を迎えようとしている。中国問題では危機を乗り越えるべく応援キャンペーンが繰り広げられているが、抜本的な解決にはつながっていない。
水産業者、値崩れ恐れ在庫積み上がる苦しい実態中国が水産物禁輸でも、国内向け販売は様子見
・・・道内の漁業、水産業者の表情は冴えない。40代の漁業関係者がこうこぼした。
「中国に輸出できないから、ホタテなんかそれこそ在庫がどんどん積み上がっているわけ。国内向けに販売すればいいというけど、値崩れが怖いからみんな様子見。我慢比べをしている。どこまで我慢しきれるかなぁ」
輸出できないホタテは大型冷凍庫に保管されているが、その保管料がかさむばかりだ。
・・・ネット上には「これまで中国にばかり輸出して、国内の仕入れ業者を相手にしてこなかったのに、今度は助けを求めるなんて虫が良すぎる」「庶民からすればまだ高値」といった声が上がっている。しかも、輸出を促進してきたのは国や道である。問題の根は深い。
ネット上に上がる批判の声の上書きで恐縮ですが・・・
今まで、大口かつ高値で買ってくれた中国が、急に買ってくれなくなった。他国への振り替え輸出は困難。かといって安く買われてしまう国内へ卸すのは嫌。
うん、だけど冷凍保存して在庫が積みあがったところで、理想解(問題解決)はしないよね。時間とともに商品が古くなり、保管料が余計にかかるだけです。ここは値崩れしてでも国内で早く処理するのがビジネスというものではないかと。 在庫山済みで困っているのはあなたがただけじゃありません。甘えるなよ って思うんだ。
実はちょうど今、「値崩れが怖いから様子見していたけど、ついにチキンレースが始まってやばい状態」になっている業界があります。ネット証券業界です。来年度から始まる新NISAの顧客(口座)争奪をめぐり、手数料無料化抗争が勃発。将来的に何社か消えるかもしれない、深刻な戦いが起きつつあります。
ネット証券最大手のSBI証券が9月30日から国内株式取引の手数料を完全無料化すると発表した。すると、これを受けて、楽天証券も10月1日から手数料無料化を追随することになった。
楽天・三木谷会長に激震!?ホリエモン「これだけで100億円以上の利益が吹っ飛んでしまう」
「楽天のなかで重要な稼ぎ頭である金融事業、楽天証券に大激震が走りました。何が起きたかというと、業界最大手のSBI証券が証券取引の手数料をゼロ円にすると発表しました。これだけで100億円以上の利益が吹っ飛んでしまう決断です」
そう切り出した堀江氏は「これはいわばチキンレース」だと説明する。
SBI証券としては、他の投機性の強い取引で稼ぎ、現物取引の手数料は「ゼロ円」にして顧客を一気に引き寄せるという戦略だ。そして多くのライバル会社が「お手上げ」というなか、業界2位の楽天証券も「手数料ゼロ」化を発表。それは「着いてこざるを得なかった」と言える状況だと解説し、両者が火花を散らしてやり合う構図となった。
ただし、楽天証券は上場準備の真っただ中である。そのため多額の利益が「吹っ飛ぶ」ため、堀江氏は「上場承認の取り消しだってあり得ます」とも懸念していた。
SBI証券と楽天証券が無料化を発表した8月31日、マネックスグループは追随しないと表明した。「米国の証券会社は手数料をゼロにしても別に収入源があるが、日本はそれがない。どう考えても赤字になる」。マネックスグループの松本大会長はこう指摘する。
SBI、楽天…ネット証券2社は手数料無料化で「先駆者の利益」享受なるか
北尾SBIHD会長兼社長に手数料無料化の狙いや展望を聞いた。Q.証券業界に与える影響をどうみますか。
A.「(手数料無料で先行した)米国の状況をみるとロビンフッドが無料化した後に各社が追随し、ついていけない会社は廃業した。結果、会社数が40%弱減った。当然ながら日本もかなり数が減るだろう。つぶれる会社には気の毒だが、我々はこのアクションが投資家のためになるという1点だけを見ている」
不毛・・・かもしれませんが、これがビジネスです。この業界ではもう愚痴を言って思考停止している暇はありません。水産業界は「様子見」とか、まだまだ余裕も暇もあるようで。国の保護が手厚い業界だからかもしれません。
そもそも、水産会社だって、中国が「そういう危険性のある相手」だってことは、わかった上で売ってたわけですよね。
対する日本だって中国相手に半導体製造装置の輸出規制をおこなっており、例えば東京エレクトロンとかは商売に大きな影響を受けたわけですが、「禁輸で苦しむ水産業界」のような同情的な記事は出ないし、会社も弱音などはかず、大人のコメントを出すだけ。
経済産業省が先端半導体の製造装置など23品目を輸出管理の対象に追加すると発表した。日本の半導体製造装置業界では世界シェアの高いメーカーも多く、今回の措置で中国戦略の大幅な練り直しを迫られそうだ。
東京エレクトロンは洗浄や成膜、エッチング工程に使われる装置での世界シェアがいずれも高く、中国売上比率は20-25%程度を占める。ブルームバーグインテリジェンスの若杉政寛アナリストはこれが5-10%低下する可能性があるが、「その分、他の市場への販売で数年後には回復する可能性がある」と指摘する。・・・東エレクの広報担当は、地政学的な事案や規制に関してのコメントは控えるとした上で、正式に発表された規制内容を確認し、適切に対応していくと回答した。ニコンの広報担当は、業績に与える影響は精査中だが、決められたルールを遵守し、その中で最大限の成果が上げられるよう努力するとした。
半導体装置で高シェアの日本企業、中国戦略練り直しも-輸出規制
水産業界も、中国輸出一本足打法ではなく輸出先を分散させておくのが望ましかったでしょう。安易に「政治的理由による輸入禁止」をしないような欧米とか。
が、日本からは簡単に欧米に加工食品を輸出できないのです。 欧米の先進国は国際的な食品衛生管理基準「HACCP」の認証がないと輸入を認めないのですが、日本では2021年に「HACCP」の考え方を食品衛生法に取り入れたばかり。したがって国内流通の加工食品は、大半が「なんちゃってHACCP」レベルなのです。
秋田県名物の「いぶりがっこ」に廃業ショックが走った。2021年夏に同県が行った調査で生産農家の35%が事業継続の意思がないと答えたのだ。これは同年6月に施行された改正食品衛生法で漬物などに食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」に適合した衛生管理が義務づけられたため。
漬物クライシスに自治体動く 改正食品衛生法の猶予期限
食品加工には国内でもローカルな消費財であるいぶりがっこ製造から、海外へ輸出が考えられるホタテ加工まで、いろんなレベルがあります。日本で食品加工の衛生を守るのは食品衛生法ですが、改正時に包括的かつ段階的にHACCP制度の考え方を盛り込んだため、日本の大半の加工業者は「なんちゃってHACCPレベル」で運用しています。
国内では適法なのですが・・・欧米輸出には不適(違法)となり、適法とするには高レベルの「HACCP」認証が必須となります。そしてそのレベルの水産加工場は、国内には多くはありません。 中国は、「なんちゃってレベル」でもOKな上客だったので、一本足打法は設備投資の必要もない、儲かる良い商売ではあったのです。政治的リスクを抜きにすれば。
食品の輸出に求められる HACCPの概要 – 農林水産省 より抜粋
儲かっていたんだから、経営者のリスク管理としては、こうなる前に欧米への輸出が可能なHACCP認証すべきだったんじゃないかと思うんですが。
そこにはいろいろ課題もあるようだし、実は水産業の中で、ホタテ加工は例外的にEU対応(HACCP認証)が進んでいるんだそうです。ニュースでホタテ大量在庫が象徴として取り上げられていたけれど、実は意外な結論のようでした。
日本では、EUへ輸出できる「施設認可」(EU HACCP)を取得している水産加工場は、まだあまり多くありません。一方で、日本に水産物を輸出している中国、タイなどの水産加工場は、EU向けの施設認可を持っているか取得できる工場ばかりです。・・・
なぜ中国や東南アジアの水産加工場にはできて、日本の多くの工場はできないのでしょうか? それには大きく分けて2つの理由があります。
1つ目は、日本の場合は、設備が非常に古いことにあります。EU向けの認可を取るためには、建物ごと造りかえるような改築が要求されることがあります。一方で、中国や東南アジアの加工場は日本より新しく、初めからEU向けに輸出もできる前提で建設されているという違いがあるのです。それでも国としても水産物の輸出を強く促進している環境で、かつ中国や香港への輸出が暗礁に乗り上げても、市場が大きいEU向けを進めるのは容易ではありません。「中国がダメなら他国に売る」が難しい納得理由EU向けの基準に合わせた工場の設備投資が困難
その大きな理由は将来性にあると考えられます。国内の水産加工業者のもともとの強みは豊富な国内水産物の水揚げでした。しかしながら、その肝心の水揚げが減り続けています。このような環境下で、大きな設備投資を伴うEU向けの輸出は容易には進みません。例外的にEU向けの輸出が進んでいる代表格は北海道のホタテ加工です。ホタテは資源管理がうまくいっていることにより、水産業では例外的に収益力があるので、早くからEU向けに舵が切れているのです。
2つ目の理由、それは水産物に対するサステナビリティについてです・・・。
この記事、とても読ませます。結論は以下の通り。
輸出が止まってしまうリスク回避のためには、欧米をはじめ販売先が偏らないように分散することが重要です。ただし、欧米市場では水産資源の持続性が問われる市場なので、科学的根拠に基づく資源管理がされていることが条件となります。
資源管理ができて初めて、同じ土俵で自国水産物が安定して輸出できるようになります。また資源の持続性が確保できれば、必要な設備投資を進められるバックグラウンドができることになります。そして好循環が生まれ、かつてのように水産業が成長産業化していくことになるのです。
日本の水産業、マグロにしてもサンマにしても、まともな資源管理なんて全然できてないから、将来性は暗いと言わざるを得ません。消費者としても残念至極。まあ、このあたりを詳しく知りたい方は、 この記事の著者 片野さんとか勝川さんの記事や本を読んでみてください。お勧めです。