最初にお断りしておきますが、僕自身(元公務員)にはこの才はありません。
たぶんつつがなく公務員をやっていくなら、このような文章に過敏に反応してたらダメ(慣れなさい)で、さらに出世するなら無意識にそのような文書(名文)がかけるようにならないとダメなんじゃ?とは思いました。
でも僕は、もっと感情的な文章しか書けないし、そもそも慣れることもできなかったから、中途退場したわけなんだけど・・・
そんなことを思い出した記事(導入部分)がこちら。
任期が1年の非正規地方公務員(会計年度任用職員)が66万人にのぼり、その約4分の3は女性であることが政府の調査でわかりました。専門的な業務に就いていても、1年ごとの任用のため、賃金が低く抑えられ、男女の賃金格差にもつながると指摘されています。また任期1年の非正規公務員の教員・講師は3万2000人にのぼり、平均時給は1697円にとどまる実態も初めて明らかになりました。
地方公務員と呼ばれる人たちのうち、「公務員は安定してていいわね」と言われる対象である「正規職員」は、総数のうちまあ8割程度。残り2割の職員は、ここで言う非正規地方公務員(会計年度任用職員)です。
総務省の調査によると、非正規公務員の人数は2022年4月1日時点で約74万3000人。正規の地方公務員の職員数は約280万人で、公務に就く職員の2割が非正規という計算だ。非正規の9割以上が、2020年に制度が開始された「会計年度任用職員」の立場で働いている。
これはいろいろ問題のある制度で、一説に「官製ワーキングプア」とも言われます。
収入や待遇などの面で不遇な状況にある、国や地方自治体等の公的機関で働く非正規雇用の労働者のこと。非正規公務員と、民間委託先の被雇用者に大きく分けられる。低い給料や雇い止めに甘んじざるを得ず、正規雇用とほぼ同等の労働であるにも関わらず賃金に格差があるなど、民間企業の非正規雇用に似た問題を抱えている。また、労働契約法やパート労働法が適用されないことから、法の規制から抜け落ちた存在であることが問題視されている。
と、長々引用してきてあれですが、「その制度は本来どうあるべきか」 ということにはここでは触れません。今回触れたいのは、それらの指摘に対して政府が地方自治体に出した要請文書についてです。なかなか名文で感心したもので。
政府は、地方自治体に対し、「会計年度任用職員の給与水準については、似たような職務に従事する常勤職員の月給を基礎としつつ、知識、職務経験等を考慮し、地域の実情などを踏まえ、適切に決定すること」などを要請しています。
この文書どう思います?
いろいろ列挙してあるから、なにか指摘されても「ご指摘の点はちゃんと触れてます」と言え(確かに触れてはある)、そのうえで「地方自治体が責任もって適切に設定せよ」と言い切る、非の打ち所がない素晴らしい責任逃れ文ですよね。
で、こんな「よきに計らえ」文が出ることで、実際何かが改善されるのでしょうか? 何も改善されませんよね。この文書、それ以外のこと何も言ってないし、地方も(総合的に見て)これが最適だと思い設定しているものが現状。なので、変える理由がありません。
まあ役所としては「やることはやって(文書発出)、一つ仕事が片付いた」という認識。役所の中は、そのような文書であふれかえっています。受ける人もいちいち反応してたら身が持ちません。文書には受領印が押され、保存文書庫にゴミがたまっていく・・・
仕事が仕事を作るってーか、こういうのを「ブルシット・ジョブ」というのだらう。
でもこういう文書を考えたり、書いたりするのが旨い人が出世するのが官僚社会って奴じゃないのかな とも思うのです。さらにそれを流ちょうに話せるといいですね。
以下は典型的な官僚組織である軍隊(日本海軍)での事例です。
海軍には、「Z旗を掲げる」 という特別な行為がありました。
日露戦争時の1905年5月27日-28日にかけて行われた日本海海戦の際、連合艦隊司令長官の東郷平八郎は、トラファルガー海戦の信号文「英国は各員がその義務を尽くすことを期待する」に倣い、「皇國ノ興廢此ノ一戰ニ在リ、各員一層奮勵努力セヨ」という意味を持たせたZ旗を旗艦「三笠」のマストに掲揚した
以来、日本海軍ではZ旗に特別な意味を持たせました。太平洋戦争でも「いざ決戦」の時に掲げました。(真珠湾攻撃、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦)「いざ決戦」が3度もあった というのがそもそもおかしな話ではあるけれど・・・
んで、真珠湾攻撃の時のはなし
その文意は、日本海海戦のときと少し異なっていた。日露戦争の時と同じ文面にするのは策がないと思ったのか、当時の宇垣連合艦隊参謀長が自ら起案した「皇国の興廃繋りてこの征戦にあり。粉骨砕身各員その任を完うせよ」となっていた。
しかし宇垣参謀長が「練に練った簡単にして要を尽くし、しかも力強く且つ文として適切ならざるべからず・・・全太平洋に展開せる我連合艦隊の将兵もって如何とす」として、胸を張った文意は、将兵にはなじまなかった。そして、いつしか、Z旗の文意は往年のものに戻った。その意味では、原文のほうがはるかに優れていたといえる。
美辞麗句が多くなった作戦命令 千早正隆「日本海軍の戦略発想」より
真珠湾攻撃を控え激務の連合艦隊参謀長が、どうでもいい文の書き換えを「練に練って」、時間と労力を費やして、この人バカなの?って思いますよね。 そもそも文書が全然改善されてない というのが自分で分かんないから救いようがない。(間違いなく、海軍のエリートさんです)
一言で言うと、「ちゃんと仕事しろよ!」としか。そう思うけれど、大切な時間を文書の推敲に費やすことで、ここまでの要職にも付けた とも言えるわけで・・・
以下筆者(千早氏)の弁が続きます。
命令、指令、指示の文章にこりすぎると、どうしても勇ましい美文調の語句が多くなる弊をともないがちであった・・・戦局が不利になると、その傾向は一層増幅した。その結果・・・往々にして作戦目的、攻撃目標が明示されていないことも少なくなかった。
作戦目的や目標明示のない命令、指令、指示。そりゃ勝てませんわ。 それはそうと、さっきの政府要請文、まさにこの分析の通りだと思わない?

元河川技術者、現在は里山保全の仕事をしているおっさんです。西尾市在住の本好き歴史オタク。