凝りもせず、また「日の丸半導体」連合

スーパーコンピューターや人工知能(AI)などに使う次世代半導体の国内生産に向け、トヨタ自動車やソニーグループ、NTTなど8社が新会社を設立したことが10日、分かった。次世代半導体は経済安全保障に密接に関わる重要物資とされ、技術開発を進めて量産を目指す。政府は700億円を補助する方針で、西村康稔経済産業相が11日発表する。

 新会社の名称は「Rapidus(ラピダス)」。トヨタなど3社に加え、ソフトバンク、NEC、デンソー、三菱UFJ銀行、キオクシアが出資する。新会社は回路線幅が2ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の次世代半導体の研究などを手がける。

次世代半導体、国内量産へ トヨタやソニーが新会社

経済安全保障の観点とか、最先端の技術を日本で握りたい とか気持ちはわかります。

でも、これではプロジェクトXの見過ぎで、現実と物語の区別がつかなくなったドン・キホーテです。国税700億円を投じるのだから、せめて純文学ではなく、もう少し実現可能性のありそうな物語にしてほしいものです・・・

『ドン・キホーテ』(Don Quijote、Don Quixote)は、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスの小説。 騎士道物語の読み過ぎで現実と物語の区別がつかなくなった郷士(アロンソ・キハーノ)が、自らを遍歴の騎士と任じ、「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」と名乗って冒険の旅に出かける物語である。


ドン・キホーテと(従者)サンチョは3〜40基の風車に出くわした。ドン・キホーテはそれを巨人だと思いこみ、全速力で突撃し、衝突時の衝撃で跳ね返されて野原を転がった。サンチョの現実的な指摘に対し、ドン・キホーテは自分を妬む魔法使いが、巨人退治の手柄を奪うため巨人を風車に変えてしまったのだと言い張り、なおも旅を続けるのだった…

wiki

新会社は、回路線幅が2ナノメートル以下の「次世代半導体」の製造基盤を確立させることを目指すようなのですが、まずこの分野で、「日本は先端から20年近く遅れている」のが現実。当の新会社社長がそう言ってます。

東京都内で記者会見した小池淳義社長は「日本の半導体は20年近く遅れている。これが最後のチャンスだ」と設立の経緯を語った。

ラピダス、次世代半導体の製造基盤確立へ 競争優位目指す

そのうえで、どのような勝算があるのかといえば・・・アメリカとの共同開発、8社から73億円の出資、政府から700億円の補助。そして「作る技術があると確信する大和魂」です。出たー。

新会社「Rapidus」は、自動運転やAIなどの最先端分野で必要とされる次世代半導体をアメリカのIBMなどと共同で開発を進め2027年までに量産化を目指します。
新会社は、政府からの補助金700億円に加え、トヨタやソニーなど国内企業8社が73億円の出資をしています。
Rapidus・小池淳義社長「日本には半導体をちゃんと作れる技術があると確信しているんですね。ただ自国だけですべて解決できるということは出来ないと痛いほどわかりました。われわれに課せられた最後のチャンスだと考えている」

小池社長「最後のチャンス」 次世代半導体の量産化へ…トヨタなど出資の新会社設立

新会社は、トヨタやNTT、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、NECがそれぞれ10億円、三菱UFJ銀行が3億円を出資と、銀行以外は均等割りです。典型的な「船頭多くして船山に上る」状態。

指図する人が多すぎると混乱して物事がうまく進まず、とんでもない結果になりかねないことのたとえ。
[使用例] 皆さんどなたが頭株というわけではないので統一がとれません。つまり船頭多くして船山にのぼるの譬たとえで、何か一つ問題がおきますと、すぐに議論倒れで中々果てしがつきません[夏目鏡子*漱石の思ひ出|1928]

コトバンク

結局、一番金を出す経産省が口を出すんでしょうけど、この方式、野心的な技術開発には致命的に不利だろうと予言しておきます。

他方、新会社より「20年進んでいる」と言われる他国企業の事例を見てみましょう。

サムスングループは2022年5月24日、今後5年間で半導体やバイオ、AI(人工知能)と次世代通信に450兆ウォン(約46兆円)を投資すると発表した。

450兆ウォンのうち、300兆ウォン(約31兆円)を半導体分野に充てる。世界トップのメモリー半導体の強みを維持しながら、システム半導体とファウンドリーで台湾TSMC(台湾積体電路製造)を追い越し、2030年にメモリー以外も含めた半導体市場で世界トップを目指す。・・・ファウンドリー分野では3nm世代以下の早期量産に力を入れる。・・・


サムスングループは米国との協力関係も強化する。2022年5月20日、韓国を訪問したバイデン米大統領は、到着後最初の訪問先として平沢市にあるSamsung Electronics(サムスン電子)の半導体工場を選んだ。バイデン氏は、米国を中心とした半導体供給網の構築に、サムスン電子をはじめ韓国側の協力を求めたとみられる。

韓国政府は2022年6月にも、「半導体超強大国」をキャッチフレーズに大々的な半導体産業の支援策を発表すると予告している。韓国メディアは、サムスングループの投資計画は、企業がこれくらい投資するからには、政府も何かしら支援しなくてはならない、という世論づくりが狙いとみている。

サムスンなど韓国財閥110兆円投資の中身、新政権へ「ご祝儀」の本気度

技術的アドバンテージが20年はあるうえに、ひも付きでない数十兆円規模の投資額を自社で用意。使うのは日本のような異業種対等出資の寄せ集め会社(同床異夢になりやすい)ではなく、一つの財閥系企業グループ企業。当然、それとは別枠で国から補助もあるし、アメリカとの協力も、日本より強力(現状で最先端の技術持ってるから、相手国の大統領が頼みに来る程度)。

日本の新会社は、3~40基の風車に突っ込む、騎士ドン・キホーテのようです。せめて、多数風車に突っ込むなら、700億円とは二けたくらい桁を増やした超大型補助金を出して賭けるしかなかったようですけれど。それもできず。

まあ「戦力の逐次投入と敗退」は十八番国策なんで(笑)。

国が支援するとしたら2000億円規模では話にならない。国が年間5000億円を10年間出すと言えば、どこかが名乗りを上げるかもしれない。ただ、経済産業省が資金を出すと言っても、実際は大企業に「裏書きしろ」と言ってくる。それでは無理だ。5000億円を10年間、5兆円をドブに捨てる覚悟で誰かに賭けるしかない。
――資金力はともかく先端半導体を製造する技術を持つ企業は日本に残っていますか。
残っていない。個別で人材を集めるしかない。日本人だけではなくグローバルにだ。アメリカはサムスンやTSMCに工場を造らせようとしている。アメリカには先端半導体のマーケットがあるが、日本にはない。同じものを大量に作るという顧客がいない。スマホもない。だから誰も工場を造らない。

「日の丸半導体」復活には5兆円投じる覚悟必要

今更日の丸連合をゼロから再度立ち上げるなら、あの時、なんでエルピーダメモリを救済しなかったんでしょうねえ?先の見えない経産省さん?

日本には致命的な欠点があります。
 科学研究や技術開発への投資が、ほとんど増えていないのです。’00年と’19年の研究開発費(名目額)を比較すると、日本は1.2倍とほぼ横ばいになっています。一方、米国は2.4倍、韓国は6.4倍、中国にいたっては24.7倍に急増している。
 かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています。自律型ドローン、人工知能(AI)、さらには量子コンピュータなど、「破壊的なテクノロジー」は次々に生み出されています。
研究開発の努力を怠れば、日本は「Gゼロ」の世界を荒らしまわる強国に飲み込まれてしまうでしょう。

「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が、日本の命とりとなる」

とか言いつつ、動き出してしまったのだから、将来の日本の食い扶持になっていけるような、良い方向に進んでくれるとよいのですけど。

参考記事。

ラピダスの最大の問題点は、なぜ国策企業を設立するのかという基本戦略が曖昧なことである。
一連のプロジェクトには、中国の台湾侵攻など、地政学的リスクに対処するという意味合いもある。もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い。
・・・
中国の脅威は現実問題であり、台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう。

岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ
加谷 珪一

まったくの正論というか、非常に常識的で良識的な意見だと思います。 日本が「失われた三十年」で負け続けたのは、こういう常識的(ゆえに面白くはない)なコツコツ正論が取り上げられて実行されることなく、むしろ一発逆転の奇策(派手で目立つ)ばかり採用し続けたから ではないでしょうか?  ローマは一日にしてならず なのですが。

現状では、「霞堤を使った治水」の未来は暗いだろうね・・・・

近年、豪雨による浸水被害が多発しています。そのため、治水を担う国や地方自治体は、「堤防やダム整備により、洪水を河道内に抑え込む」治水方針を転換し、国や流域の自治体が協力して水を計画的にあふれさせる「流域治水」の方向に持っていこうとしています。

参考記事    治水の“パラダイムシフト” ~温暖化時代の流域治水~  NHK

これ自体は、「想定外」に備える手法として、理論的には正しい方向だと思います。が、言うは易く行うは難し。

治水関係者の立場としては、霞堤とその(計画)氾濫域をバッファとして残したい。そうすれば、大規模出水の被害を確実に低減できます。一方で、都市計画や土地利用の立場(例えば農家)からすれば、氾濫域にはしっかりとした堤防をつくってもらい、非氾濫域として安全に土地利用したい。これはどちらの意見も正当なものです、だからこそ調整を行い、落とし所をうまく探る必要があります。

でも現状はお寒い限り・・・↓

今年8月上旬に降った大雨の影響で滋賀県長浜市を流れる高時川が氾濫しましたが、「霞堤」という伝統的な治水方法で被害の軽減に成功していました。しかし、この治水方法によって、農地に水が誘導されて畑が浸水して農作物に甚大な被害をあたえました。この件に関して一切の補償をしてくれないという行政の対応に農家は困惑しています。

『途切れた堤防』で川の氾濫被害を軽減成功!その陰で…水の流し先となった農家は『被害700万円で補償ゼロ』で苦悩「収入なくなれば生きていくのも大変」

根本的に、なんで自分のところが、よその被害軽減のため犠牲にならなきゃいけないのか?という平等感覚に反するうえに、犠牲になっても補償がないのであれば、誰が協力できましょうか。

・参考記事  「なぜ自分たちが犠牲に?」霞堤と集団移転、治水対策に揺れる集落

てなことで、このあたりでは愛知県東部を流れる豊川に4箇所の霞堤が残っているのだけれど、これら4箇所は霞堤を廃止したり、あるいは小堤を築き、冠水頻度を減らす方向で整備されようとしています。要は霞堤の機能を縮小の方向というのが現実。

豊川における治水事業は、江戸時代に吉田の城下町を洪水から守るため、中下流部に設けられた霞堤に始まるといれています。これにより吉田の城下町は洪水から守られた反面、霞堤地区では洪水の度に浸水に悩まされ、その被害は甚大でした。

霞堤は昭和 30 年代には 9 箇所ありましたが、昭和 40年に完成した豊川放水路により、沿川の洪水被害は格段に緩和されるようになりました。現在は、左岸側の牛川・下条・賀茂・金沢の4霞が残っています。

今後の霞堤対策については、 下条、賀茂及び金沢の各霞堤では、小堤の設置により浸水する頻度を低減させ・・・牛川霞堤については・・・築堤により無堤部を解消する。と位置づけています。

豊川の霞堤

これらを眺める限り、「あふれさせる治水」へのパラダイムシフトは、残念ながら困難です。そりゃ溢れた場合の補償すら実現できていない現状では、当たり前の帰結です。残念ですけど。

治水の親玉たる国交省は何年も前から、”河川管理者が主体となって行う治水対策に加え、氾濫域も含めて一つの流域として捉え、その河川流域全体のあらゆる関係者が協働し、流域全体で水害を軽減させる治水対策「流域治水」への転換を進めることが必要”とかっこいいこと言ってるのですが。理念から先にはなかなか進めませんねえ。

以前、水害の被害拡大は都市計画と治水計画の狭間で起こるというエントリーで、河川(治水)管理者と都市計画決定者の調整が取れておらず、水害の被害拡大が起こり得るということを書きましたが、今回の霞堤の被害補償の問題も、構図はこれとよく似ています。  進歩ないっす・・・

と、悲観していても仕方ないので、このような氾濫域の農地で、農家だけに負担を押し付けず、しかも氾濫域として使えるような手段がないものか、ちょっと考えてみました。

イギリスのナショナル・トラストのような制度を創設し、氾濫原農地の所有を任せるような仕組みができないものでしょうか?

ナショナル・トラスト(国民環境基金)活動とは、ひろく国民(地域住民)から寄付金、会費などを集めて土地や建物を買い取ったり、寄贈を受けたりして、貴重な自然や歴史的に価値のある建物などを守っていこうとする活動をいいます。


 1907年に、ナショナル・トラスト法が制定され、それまでの会社法に基づくものから、新たに法律の保証のある「信託」によるナショナル・トラストになったのです。この法律で保存の対象となる資産を「譲渡不能」と宣言する権利が与えられました。
 この権利は、ナショナル・トラストだけに与えられた権利で、宣言された資産は、売ったり、譲渡したりすることができません。また、抵当に入れたりすることもできないばかりか、国会での特別の合意がされない限り、公共事業のためだからといって強制収用されることもなくなりました。


 イギリスの美しい領主館の多くが、重い相続税のために売りに出され、土地がばらばらに売られたり、建物が壊されるなどの状態が次つぎに起こりました。このため、ナショナル・トラストは領主館を後世に残すため「領主館保存計画」を立てたのですが、、運動の強い働きかけによって、領主館やその土地がナショナル・トラストに寄附されたときは、非課税扱いになりました。1931年のことです。
 建築的、美術的に重要な建物などの保護を明確にすると同時に、建物の中の家具や絵の保存と公開も法律の中で決められました。さらに、これらの物を維持するのに必要な、管理費を生み出すための資産を取得する権利も、ナショナル・トラストに認められました。


 このような、法律に基づいた「領主館保存計画」では、その所有者が、保存費用を生み出すための基本財産をつけて領主館を寄附したときは、相続税が非課税になるほか寄附した人やその子孫は、そのまま住んでよいことになりました。そのかわり、これらの物が本来の状態で保たれるように、一定の監督を受けます。さらに家屋を一般に公開することが義務付けられています。これは、関係者が住み続けることで、建物がもつ雰囲気が、損なわれないようにするためです。

イギリスのナショナルトラストの歴史  さいたま緑のトラスト協会

長い引用になりました。 これを応用すれば、農地を耕作しながら、氾濫域として使い、両者にメリットのある手法が考えられるのではないかと。

霞堤氾濫域の水田というのは、生物多様性の観点から見て、貴重な湿地帯という枠に入るのではないでしょうが。そこで行われる水田耕作は、「里山」の維持保全に当たります。  これらの土地や行為を保全することは、地域の貴重な自然を守っていくことです。(すなわち、ナショナル・トラストの保全対象!)

この土地をナショナル・トラストに組み込むことで、開発(公共事業でさえ)から守られ、永続的に氾濫域とすることが可能になります。土地開発の経済的圧力から守られる上に、所有者は土地をトラストに寄付することで、相続税や固定資産税が免除されます。

元所有者やその子孫は、現状環境保全の監督付きですが、引き続き水田耕作を続けることが可能です(里山保全行為だから)。監督付ってウルサイかもしれませんが、逆に言えば、ナショナル・トラストお墨付きの環境保全米を作っているとも言えます。米に付加価値を付けて売れるでしょう。しかもこの名目なら、農水省だけでなく、環境省からも補助金をぶんどることも可能(という構造にしなされ)。

氾濫で水に浸かり収穫が減った場合は、災害ですから河川管理者に補償を求めましょう。それは耕作者個人ではなく、土地所有者であるナショナルトラストが手続きをすればいいですね。  

んで、これらを維持するのに必要な管理費(氾濫で溜まった土砂や流木の撤去はこれに含まれる)は、トラストが負担します。トラストには、そのための資産を渡す必要がありますが。

これなら、治水管理者にも、土地所有者(農家)にも、悪い話ではないと思います。川沿いに、環境的に貴重な土地が永久保全されるのであれば、利用次第では都市計画的にも悪いことばかりではないでしょう。

日本では寄付だけに頼るのは厳しいでしょうから、国や地方自治体がある程度負担して、第三者的な公的機関(ナショナルトラスト)を造ることになるでしょう。

あとは・・・日本でこんな「美しい」組織がまともに運営されるかは心配ですね。  イギリスでは、どのように実運営されているのかなあ

(行政は財政負担していないようです)。 参考