鳥の糞と農業との関係

興味深い記事を読んだので紹介します。近代化される以前の農業を支える重要な施設だったといわれる「ハトの塔」 について書かれた記事です。

人類はおよそ1万~2万年前に農作を始めたといわれていて、一説によると現在のイスラエルからイランにかけた中東がその起源地とされています。そんなイランにいくつも存在していて、近代化される以前の農業を支える重要な施設だったといわれる「ハトの塔」を、海外メディアのNo Tech Magazineが紹介しています。

化学肥料が当たり前になる以前は主に有機質肥料が用いられていました。とりわけリン酸を含む有機質肥料には、人や牛、鶏の糞(ふん)が利用されます。イランやエジプトに見られるハトの塔は、肥料を作るためにハトの糞を効率よく集めるための設備でした。

ハトの塔は高さ10~15メートルほど。基本設計はシンプルで、泥レンガで作られた柱で囲まれた中空の円筒の形状をとっています。柱には無数の巣穴が設けられていて、塔によっては最大1万羽まで収容することが可能です。


イランの農家にとって、ハトの塔は栄養価の高い肥料を安定して供給するために必要な施設であり、ハトの塔の所有者には特別に税金が課せられるほど重要な財産とされました。

1万羽もハトが住み着く巨大な「ハトの塔」は人類の農業を何千年も支えていた

要は、野生のハトのためにアパートを造って住んでもらう代わりに、その糞を農業肥料として効率よく集めよう! ってことね。 わざわざ野鳥のために住処を用意しその糞を集めて肥料にするなんて、ずいぶんと悠長な話だなあ と思いましたか?(似たようなアリがいたねえ) まあ、現在は売ってる化学肥料を入れれば早いですよね。でも、つい最近まで、「鳥の糞」って主要な肥料の供給源だったんですよ。

はい。ここで化学の時間(笑)。

農業で必要な三大肥料は、窒素、リン酸、カリウムです。現在これらの肥料は

  • 窒素・・・水素と窒素からアンモニアを合成し(ハーバー・ボッシュ法)、アンモニアから窒素を生成。 
  • リン酸・・・リン鉱石に依存。
  • カリウム・・・カリ鉱石に依存

と、化学の力や鉱石に依存してるんですね。 この中でリンについてはモロッコ1国が世界に輸出されるリン鉱石の40%を占めているんですけど、リン鉱石がメジャーにがなるまでは、海鳥の糞が堆積・固化した「グアノ」がリン酸肥料の主要原料だったのです。

でもグアノが存在するのは南米の一部の国や南洋の島に限られているため、40年ほどで資源が枯渇しちゃいました。それでリン鉱石に移ってきたんです。

※以上の記述は農林中金中央研究所「化学肥料原料の資源問題と食料安全保障」を参照しました。

じゃあ、リン鉱石やグアノが発見されるまで、特に鎖国時代の日本の農業でリンはどうやって供給されていたんだろう?

答え:メインは下肥(しもごえ・人糞)ですな。それから干鰯(ほしか・干したイワシ)とか「魚油の搾りかす」で、リンを補給していました。

あとは鳥の糞ね。地域にもよるんだろうけど、例えば愛知県の知多半島にある鵜の山では、野生のハトならぬ、野生のカワウの糞を使っていました。

江戸時代末の天保(1830年)年間、当時の大日山(現在の鵜の山)にすむウのふんを、地元民が大変良質なリン肥料として利用し始めたことから、鵜の山の新たな歴史がスタートします。
 地元民は明治時代、ウからふんを集める権利を入札制にし、得られた収益を蓄えて濃尾地震の災害復興費や、困窮者への救済金として活用しました。また、大正時代の初めには、収益で小学校が建てられました。そのためウは、当然昼夜を問わず手厚く保護され、法律で狩猟者からも守られました。昭和9年には「鵜の山」は国から天然記念物に指定され、ウと人間との共存共栄が続きます。知多半島の鵜の山では、アカマツやコナラの2次林の上部に営巣し、毎朝そこから飛びたち、伊勢湾奥部の木曽・長良・揖斐三河川・下流域や三河湾の河口域に行って捕食する。近くの溜め池は休息場所としても利用される。』(加藤陸奥雄他監修(1995年)「日本の天然記念物」講談社.原文のまま抜粋)

美浜町・鵜の山鵜繁殖地

鵜を天然記念物に指定するほど大事にして、その糞を有効に利用していました。これはもう、最初に紹介したイランの 「ハトの塔」 にも匹敵する事象と言えそうです。なにか人工物が建ってるわけじゃないけど。

将来、仮に「リン鉱石輸出ストップ」ショック など起きようものなら・・・モロッコからの輸出が止まれば簡単に現実化しますねぇ・・・日本各地で鳥の糞を肥料に活用する取り組みが、復活することもあるのかもな? もう日本近海で、肥料にするほどの魚は取れなそうだし。

まあ体験者から言わせていただくと、魚を主食にする鵜の糞は、すごく臭いんで、できれば近づきたくないすけど。(だからこそ、リン成分が多い優秀な肥料なわけですが)