異常洪水時防災操作② ダム操作どうすればよかった?

「① ダム操作考える必要があるのかな?」の続編です。

先のエントリーで僕は、やむを得ないとはいえ「異常洪水時防災操作」を行うと、「川の水位が最も高いタイミングで、いきなり放流量が増える」ので、操作方法を考えたほうが良いのではないか と書きました。

具体的には、それぞれのダムで定められた「洪水時に流入する水量」を、大規模洪水に備えるため、中小洪水時に多少の被害を覚悟の上引き上げる必要があるんじゃないか と。

じゃあ、具体的に検討してみましょう。 検討するのは、西日本豪雨(7/7)で、「異常洪水時防災操作」を行った、愛媛県にある野村ダムです。

まず「国土交通省 水文水質データベース」を見ると、当日のダムでどのような操作を行ったかが公表されています。↑で「任意期間ダム諸量検索」 「2018年7月7日〜2018年7月7日」で「検索」すると、次のようなデータが現れます。

図の中のフロッピーのマークを押すと、カンマ区切りのtextデータが取得できるし、横のグラフマークを押すと、このデータをグラフ化してくれます。textデータをエクセルで処理してグラフを書くと以下のようになります。

青色の線は、ダムへ入ってくる水の流入量を示します。赤色の線は、ダムから下流に流した放流量(左目盛り)です。この差がダムに貯められますので、(流入量-放流量)がプラスなら、ダムの貯水率が上がることになります。黄色の点線が貯水率(右目盛り)です。

野村ダムの「洪水時に流入する水量」=下流へ流しても安全な水量 は300m3/sなので、流入量が300m3/sに達した2:00から300m3/sの放流を開始しました。それで6:00まで頑張ったんだけど、もうダムが満杯になりそうだ(ダム貯水率は2:00の75%から6:00にほぼ100%) ってことで、7:00に放流量が1400m3/sに急増してます。

ダムが一杯になっちゃったとは言え、6:00の放流量が300m3/sが、7:00の放流量1400m3/sって、あまりにひどくね? と言うのが地元の意見です。 うん確かに。

じゃあ、最初から倍の600m3/s放流してたらどうなったんだべ? (下流に600m3/s放流したらどうなるかは、とりあえず考えない。1400m3/s流すよりいいだろ という試行です。)

上記で得られたのは数値データだけなので、いろいろ試すには簡単なダム貯水率計算式が必要です。

初期条件は1:00の貯水量7204,流入量306.34,放流量297.71,貯水率72.4です。で、2:00の流入量298.68,放流量298.00から貯水量7225,貯水率72.6を算出する式を造ればよろしい。

計算式は 2:00の貯水量=1:00の貯水量+{(1:00と2:00の流入量の平均値)-(1:00と2:00の放流量の平均値)}×1時間 とします。満水貯水量が正確には分からないのですが(11423〜13259まで貯水率100%になっているので)9950にしました。計算結果は、2:00の貯水量7221,貯水率72.6ということで、おおむね再現できました。

んじゃ、このダムモデルで少し遊んでみます。

Q1.このまま300m3/s放流したらどうなった?

A1.6:30以降ダムがヤバくなってくるでしょう

6:30の時点で、ダムの貯水率が130%を超えました。水文水質データベース上は「貯水率100%でセーフでした」と表示されていますが、多分ダムの堤体余裕高をみこんでいるんでしょう。でも、さすがにそれを超えるとヤバかったんじゃないかな。

Q2.600m3/sまで放流許したる。

A2.ありがとうごぜえます。流入量が600m3/sを超えた4:00から放流量を600m3/sにしました。んでも、8:00くらいにはやばくなったんちゃう?

7:30くらいに、ダムの貯水率が130%を超えちゃいました。この時間以降は流入量=放流量で流す操作をしないと、ダムがやばいっす。

Q3.ええい、ではどうすればよかったのか、今回の流入量が既知として、理想の操作はどんなものだったのか?(実際には流入量は未知ですけど・・)

A3.今回の台風の場合、流入量=放流量で放流して、流入量が1000m3/sを超えたら放流量1000m3/sで一定にしていれば、貯水率110%内で流入量最大の時にもそれなりに洪水調整できたと思うよ。あまり余裕はないし、これ以上の洪水だとお手上げだが。

ただこの場合でも、徐々に増加させるとはいえ、下流では最大1000m3/sの放流量を4時間流すことになってしまう。

「流入量=放流量で放流して、流入量が1000m3/sを超えたら放流量1000m3/sで一定」というダム操作をルールにすると、今回の規模の洪水のピーク時には有効ですけど、これより小さい洪水の場合、余計に放流して下流の被害が拡大しそうです。今回の洪水より大規模な洪水では、やっぱり流入量ピークの時にダムが一杯になってしまうかもしれません。(前提条件:ダムへの流入量が確実には予測できない 予測できれば適宜操作を変えればいいんだけど、確実な予測は現代の技術では困難だと思います※2)

大規模洪水にも中小洪水にも等しく効くというダム操作は困難そうなので、じゃあ、どこで折り合いをつけるのかという話です。いずれにせよ想定外の洪水が来る可能性は排除できないので、「異常洪水時防災操作(流入量=放流量)」というダムの安全弁は設けておく必要もあるでしょうね。

 

Q4.ちょっと待て、最初のスタート時点で貯水率70%っておかしくないか? 洪水が来るんだから、もっと下げておけば良かったのでは。

A4.その通り・・・なんですが、野村ダムの場合、70%より下は、利水(水道とか農業とか)に使う量なんですよね。水道事業者や水利組合はこの容量を持つためにダム建設や管理に予算を出している権利者です。おいそれと財産を流されるのは・・・※1

それでも「農業に使うので、〇月〇日までに70%に戻ることを確約してくれるなら、今回は放流してもいいですよ」という交渉はできたかもしれない。

にしても、この先の雨の降り方(正確にはそれがどの程度河川へ流入量として出てくるか)が正確に予測できない以上※2、この賭けにはとても乗りづらいのは確か。

ちなみに、1:00の時点でこの決断をして、早くも2:00から700m3/s放流をしていたら、貯水率130%とギリギリで、操作できたかもしれない。 あくまで流入量既知の場合だけど。

エクセルファイル野村ダムシミュレーションをここに置きますので、興味ある人は遊んでみてください。

 

※1ちなみに、このような治水(洪水時に水を貯めるため、貯水率を下げておきたい)と利水(普段水を利用するため、降雨期に貯水率をあげておきたい)の相矛盾するような要求を兼ね備えるダムを「多目的ダム」と言う。治水機能を持つダムで治水専用のダムは珍しく、ほとんど多目的ダムとして建設されている。

多目的ダムはダムの費用対効果は上がるし、複数の団体が建設費用を分担するなどメリットも大きい。けどデメリットとして、発生確率は小さいけど、この規模の大洪水が来た場合の運用に苦慮することになる。 この洪水規模に備える治水ダムは、費用対効果を考えると、建設は難しいだろう。だから、この規模のダムをどう運用すれば、一番最適な運用になるのか はよく考える必要があるだろう。

そういうもろもろの状態を考えつつ、予めダムには「操作規則」が決められていて、今回もそれに従ってダムの操作は行われているようです。「異常洪水時防災操作」もその一環でしょう。

 

※2 地表に降った雨は、そのまま地表を走って川に流れ込むものもあるだろうし、地下に吸い込まれるものも、地下の水が飽和して河川に出てくるものもあるだろう。それは土壌の含水率によって変わってくる。それが時々刻々変わること、そもそも土壌の質が場所によりバラバラであること、雨の降り方も場所によりまちまちであること などから、降水量が分かっても、ダム地点の流入量がどれだけになるか を正確に予測するのは、現状では困難だと思います。

異常洪水時防災操作① ダム操作考える必要があるのかな?

6府県の8ダム、満杯で緊急放流…西日本豪雨

西日本豪雨で、愛媛県・肱(ひじ)川の野村ダムなど6府県の8ダムの水量が当時、満杯に近づき、流入量と同規模の量を緊急的に放流する「異常洪水時防災操作」が行われていたことが、国土交通省への取材でわかった。一部の下流域では浸水被害も起き、ダムの許容量を超える深刻な豪雨だったことが改めて裏付けられた。・・・異常洪水時防災操作で大量の放流が実施された。7日朝から昼過ぎまで異常洪水時防災操作が行われた野村ダムの下流域の愛媛県西予(せいよ)市では、氾濫による浸水被害で5人が死亡。鹿野川ダムや、野呂川ダムの下流域でも浸水被害が出た。

「ダム」は洪水時に水を貯めて、下流に流れる水量を減じ、洪水を防ぐことが期待されています。

洪水が来ると、ダム湖に水を貯めることで、下流にはダムに入って来るより少ない水量を流します。 その分、ダム湖の水位は上がります。

通常の洪水なら、洪水の終わりまでこの状態を続け、ダムは立派に災害を防止する役割を果たします。洪水が終わったら、ダム湖に貯めた水を少しづつ(下流に影響を及ぼさない範囲で)放流し、次の洪水に備えダム湖の水位を下げていきます。

が、洪水が想定以上に長引くと、川の水量が下がる前に、貯めた水でダム湖が満杯になってしまうことがあります。そうするともう貯められないので、ダム湖に流入する水量を、そのまま下流に流すことがあります。これが「異常洪水時防災操作」です。専門家の間では「ただし書き操作」と呼ぶこともあります。

まあ説明すると難しそうですけど、要は家庭の洗面台にある穴と同じです。

最近の洗面台にはついてないんですね・・・。この穴がないと、何かの拍子に栓をしたまま水道の蛇口を開けっ放しにしてしまうと、床が水浸しになってしまいます。風呂の浴槽で実践してしまった人もあることでしょう。

洗面台の場合は、入ってくる水の量が一定(水道の蛇口)ですから、写真のような穴でいいのですが、ダムの場合はどれだけの水が上流から入ってくるか分かりませんので、その量に追従できるよう、「非常用洪水吐」というゲートを操作することで、入っている水の量と同量の水を下流へ放流するような「操作」が必要になります。だから「異常洪水時防災操作」と言うんですね。

満水を超えダムが貯水を続けてしまうと、ダム湖からあふれ出し、仮にどこかが切れて水が一気に流れ出すと大惨事が起こってしまいます(※)。

とはいえ、下流から見れば、「川の水位が最も高いタイミングで、いきなり放流量が増える」わけだから、ダムの操作のために浸水被害が増大した という見方も当然出るでしょう。

なんでダムの管理者は、一番水位の高い状態の時に、ダム湖が満水になるようなダム運用をしたんだ!もっと適切に運用しろ!   って。

ダムの操作は「操作規則」というマニュアルに定められており、既往の洪水を参考に、それぞれのダムには「洪水時に流入する水量」が決められています(計画洪水量)。その水量を超えるとダム湖に水を貯留し、下流には貯留した分を減じた水量を放流します。この時点から洪水対策を始めるわけです。そして想定した洪水の規模(時間)であれば、十分に貯留できる容量を持つよう設計されています。

問題は想定を超えたときです。結果として現状では中小洪水では威力を発揮するダムの防災機能が、一番頑張ってほしい大・巨大洪水時にギブアップする可能性があることになっちゃいますから。

じゃあ、どうすればよいのか。

常識的に考えると、想定を超える洪水の時は、ダムに水を貯め始めるタイミングを遅くすればいいんですね。 つまり想定される洪水規模に応じ、柔軟にダム操作を変えるわけです。そうすれば、一番の非常時にダムに活躍してもらえます。そのためには、これから降る雨が「想定を超える洪水か否か」「どの時点でピークを迎えるか」をかなりの精度で予測できないといけません。

そんなことはダム管理者(河川管理者)もよくわかっていて、各ダムや河川ではかなりの予算を投じて降雨予測システムの更新、精度向上に努めています。どんな要素を入れたら予測精度が上がるか とか、AI的学習機能を入れたらいいんじゃないか とか。

が、これがまあ、うまく行ってません。

この予測の難しさには、2つの要素があります。

一つ目は、どれだけ雨が降るかという降雨予測です。ダムはその立地上、山岳地帯にあることが多く、考えてみれば、都市(平地)の予測をする気象庁の予測より困難な予測を強いられるわけです。気象庁はスーパーコンピュータで予測するんでしょうが、ダムの管理所には当然そんなものありません。さらに山岳地帯では、一つ山を越えたら、あるいは斜面の向きによっても降雨量が変わってきます。予測範囲を細かく分割することで、その精度は挙がるかもしれませんが、予算的、時間的になかなかそれも難しい。そおそも気象庁の予測だって、最近の予測を見ていると、まだまだ十分に精度が高いとは言えませんね。

二つ目に、ダム操作に本当に必要なデータは、「降雨予測」ではなく、ダム湖にどれだけの水が流れ込んでくるかという、「流入量予測」だということです。山や流域に降った雨は、そのまま川に流れ込むものもありますが、山の斜面に沁み込み、遅れを伴って流出してくるのです。ここのモデル化は、現状ではほぼブラックボックス状態で、よく分からないのです。

例えば、ずーっと晴れの日が続いたら、山はかなりの水を吸収してしまい、川にはあんまり水を出さないでしょう。出て来るにしてもかなりの時間がかかるでしょう。一方、雨などの影響で山の土壌がかなりの水分を含んでいたら、降った雨の多くはすぐさま流出してくるでしょう。

さらに、山には木が生えています。そして木の枝や倒木が地面に蓄積し、スポンジのようになっている場合、上記の機能はさらに増幅されます。(これが「緑のダム機能」と表現されるものです。)

問題は、この機能の定量化(ある前提条件の場合に、ある降雨があったら、Xという量の水が河川に流入するという関係)が非常に難しいということ。多分現在の科学技術水準では困難です。 むろん、よく似た洪水の時の降雨で、どれだけの水が河川に流れ込んだか というデータを参考に、関係式を造って使ってはいるのですが。

てなことで「予測システムの更新、精度向上を図ることで、ダム操作をより適切なものにする」という方向性は正しいし、それにむけ努力はするべきなんですけど、「予測した降雨」を元にさらに「流入予測」を行うという二重予測であること、さらに後者の予測は、たぶん前者より困難と考えられることから、「かなり無理ゲーじゃね?」 ってのが僕の印象です。

青字部分、後日(2019.10.15)追記。

それでもこの規模の洪水が頻発し、そのタイミングでダムにも活躍してもらわなければいけないとなると、もう少し根本から考え直さないと・・・

僕が思いますに「既往洪水を参考に、それぞれのダムには「洪水時に流入する水量」が想定され、その水量を超えると洪水対策を始める」 という部分を見直す必要があるんではないかと。

ダムは「洪水時に流入する水量」が設定されていますが、この数値を思い切ってあげてみたらいいんじゃないかと。

つまり、より大洪水に対応できるよう、洪水対策を始めるタイミングをいまより遅らせ、ダムの貯水量をできるだけ温存しておくのです。

「洪水時に流入する水量」って、大抵ダムが建設された(計画された)時点で決められるんですが、それ以降の下流の堤防整備状況や気象条件の変化(長時間豪雨が多発するようになった)を踏まえ、見直しすることはそれほどおかしくはないと思います。

半面、これは「中小洪水ではそんなに被害が発生しない(だろう)から、少し基準を緩めさせてね。もしかすると多少浸かるのかもしれないけど・・・でも大洪水の時はより安全になるんで」と言うことです。結果として空振り(もっと中小洪水でダムを活躍させられただろうに)が増えることになってしまいます。

ある流域に絞って考えると、今回の規模のような大規模洪水はそうそう発生するものではありません。一方、中小洪水は数年に一度は来ます。そのときに、「この規模であればダムは対応しません」 と言われると、そこにダムがあるのに・・・これまでは対応してくれていたのに・・・と実感として受け入れがたいところもあるでしょう。この提案を受け入れるためには「大災害を想定する想像力」が必要になります。

今回のような大規模災害に、より有効にダムを生かすためには、それしか方法がないのかな とも思いますけど。

7月13日 共同通信のニュース。 ダム操作について、徹底的に検証し、改善点があれば速やかに改善していくそうです。

首相、ダム放流「徹底的に検証」 豪雨犠牲で表明

安倍晋三首相は13日、西日本豪雨の際に愛媛県の肱川上流にある野村ダムの放水量を増やした操作について「国土交通省で徹底的に検証し、改善点があれば速やかに改善していく」と表明した。視察先の同県宇和島市で記者団に語った。肱川は氾濫し、流域の西予市で5人が犠牲になった。

首相は「ルールに沿って適切に対応したと報告を受けているが、さまざまな声があることも承知している」とも語った。

放流を巡り、石井啓一国交相は10日の記者会見で「洪水前から西予市に情報提供し、住民への周知も行っていた」として、適切に対応したとの認識を示していた。

※続編があります。 ダム操作どうすればよかった?

エクセルを使って計算してみました。けど、なかなかうまい回答は出てこないっすね・・・

※さらに続々編。操作規則が中小規模洪水向けに変更されてた?

操作規則が大規模洪水対応から、中小規模洪水に有効なように改定されていたらしいです。なんでそんなヤバい方向に舵が切られたんだろう?

(※)「満水を超えダムが貯水を続けてしまうと、ダム湖からあふれ出し、仮にどこかが切れて水が一気に流れ出すと大惨事が起こってしまいます」との説明に、いや、溢れさせる方法もある という河川工学者もいます。

河川工学者の今本博健・京都大学名誉教授(淀川水系流域委員会元委員長)
豪雨でダムが放流・決壊したら全国で大被害に。大阪京都で死者数十万人との予想も

「多くのダムは200年に1回の洪水を想定して設計されていますが、それ以下の“想定内”の雨量でも、満杯になりそうな場合、緊急放流をするルールになっています。しかし、越水(ダム湖の水を溢れさせる)で対応をすれば、緊急放流をするとしても、放流量は現在の緊急放流よりゆるやかになります」

しかし今回、国交省は「越水でダム決壊の恐れがあったため緊急放流した」と説明している。

「そんな危険なダムは現時点で撤去すべきです。想定外の豪雨では、緊急放流しても越水に至る場合はありますから。その一方、越水に耐えうるダムは緊急放流しないというルールに変えることで、今回のような被害を避けられます」

盲点(そこまで深く考えていなかった)けど、この考え方も一理あるかもしれないな。重力式ダムであれば、かなりの安全度を見込んで建築されているわけだから、越水させるのもありなのかも・・・