異常洪水時防災操作③ 操作規則が中小規模洪水向けに変更されてた?

異常洪水時防災操作① ダム操作考える必要があるのかな?

異常洪水時防災操作② ダム操作どうすればよかった?

の続編です。

①でダムの操作規則を、中小規模洪水に対応したものから、大規模洪水に対応した操作規則に変更すべきではないか。

②で、その効果はどの程度出るか検証してみました。

ところが、ですね。愛媛新聞社が8月22日に出した記事が正確なら「国交省は95年の洪水を機に、大規模洪水に対応した操作規則から、中小規模洪水に有効な操作規則に変更」していた ようです。

ダム大量放流 旧規則なら「被害違う」 国交省が操作見解 大洲市議会

西日本豪雨などによる7月7日の肱川水系の氾濫を巡り、国土交通省は21日の大洲市議会議員全員協議会で、鹿野川、野村両ダムの大量放流について説明した。山鳥坂ダム工事事務所の小長井彰祐所長が、大規模洪水に対応した1996年6月までのダム操作規則であれば、「(大洲市内の)浸水の面積や深さは小さかった」との見解を示す一方で「6日時点で(菅田地区などで)浸水が発生していた」と、操作規則に一長一短がある面を指摘した。

「もし操作規則が違っていればと考えることはあるか」との大野立志氏(肱風会)の質問に答えた。国交省は95年の洪水を機に、大規模洪水に対応した操作規則から、中小規模洪水に有効な操作規則に変更。多くの犠牲者が出た今回の豪雨時の操作に住民から疑問の声が出ている。

常識的に考えて、ダムは中小規模洪水に有効であるべきか、大規模洪水に有効であるべきか を考えると、間違いなく大規模洪水に有効であるべき です。治水の専門家であればなおさらそう考えると思います。専門家集団である国交省が逆行するような変更を本当にしたんか・・・したんだろうねえ。詳細な事情は分かりませんけど、ちょっと信じられないなあ。 しかし一長一短があることわかってて、操作規則変更したんでしょ。だったら変更した理由を述べないと。説明になってないすね、これ。

記事はさらに続きます。また一部抜粋します。

市によると、国交省による説明は議会の声を受け市が要請し実現した。議員10人が「3742トンも放流する必要があったのか」「想定外の雨量には想定外の行動を」などと放流や操作、ホットラインなど情報提供について質問。「もっと早い段階で放流量を上げることが被害の低減につながるのではないか」との声もあった。

こういう議論をすること自体は有益だと思うのですが、大洲市議会議員さんの質問は、前提条件が分かっておらず的外れている気がします。

3742トンも放流する必要があったのか」

まず「異常洪水時防災操作」は想定外の雨量によりダムへの流入量が増大した際に、ダムがどう行動するかの「想定外時の行動マニュアル」としてあらかじめ決めたものです。

その行動は当然下流の大洲市にも多大な影響を与えますから、国交省はマニュアル策定時に大洲市にその説明を行い、了承を得ているはずなんです。

さらに「国交省は95年の洪水を機に、大規模洪水に対応した操作規則から、中小規模洪水に有効な操作規則に変更」したのが事実であれば、下流の大洲市内に不利な操作規則に変更したわけですから、その時点で再度、大洲市にも説明し了承を得ているはずなのです。

つまり大洲市はそのマニュアルを了承してたはずなので、マニュアルに従った結果が「3742トン放流」であるので、この質問は意味ないですよ。

むしろ市議さんとしては市に「大洲市は、操作規則の改定時に国交省から説明を受けたのか、市内に不利な方向の改定だが、市はどのように考え了承したのか、あるいは了承せず強行されたのか、あるいは意見を付けたのか、経緯はどうか?」と質問しないと。

一義的には国交省の責任だけど、市だって関わっているんだし、そもそも市町村は災害対応では責任ある司令塔なんです。

(市町村の水防責任)
第3条 市町村は、その区域における水防を十分に果すべき責任を有する。(以下略)  水防法

(市町村長の避難の指示等)第六十条第一項 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる。   災害対策基本法

「想定外の雨量には想定外の行動を」

「想定外の行動マニュアル」に従って行動しました。もしさらに逸脱をって言うなら、それって危険じゃねーすか?いきなり「想定外の行動」して成功するとは限りませんし、慌てているなかで関係機関への連絡が抜け落ちたり、うっかりミスをしてしまう危険性の方が高くないすか?(映画ならヒーローがやったことはすべて成功するけどね。我々は凡人だから・・・)

なので確実性を重んじる立法や行政の立場としては、想定外を想定してマニュアルを造っておく ということは、絶対必要だと思います。

「もっと早い段階で放流量を上げることが被害の低減につながるのではないか」

これはまさに、「中小規模洪水に対応した操作規則から、大規模洪水に有効な操作規則に変更」ってことですよね。これは考えたほうが良いと思います。

「(大洲市内の)浸水の面積や深さは小さかった」との見解を示す一方で「6日時点で(菅田地区などで)浸水が発生していた」と、操作規則に一長一短がある面を指摘した。

ココです。この一長一短があるにも関わらず、操作規則が現在のものに改定された経緯はなんだったのか?

過去の大洲市と国交省とのやりとり、変更した経緯について、市民の安全を守る市と、治水の専門家集団である国交省が、なぜそのような一見常識に反するような改定を行ったのか、そして改良すべき点があるのか について、きちんとした検証が必要ではないかと思います。

 

異常洪水時防災操作② ダム操作どうすればよかった?

「① ダム操作考える必要があるのかな?」の続編です。

先のエントリーで僕は、やむを得ないとはいえ「異常洪水時防災操作」を行うと、「川の水位が最も高いタイミングで、いきなり放流量が増える」ので、操作方法を考えたほうが良いのではないか と書きました。

具体的には、それぞれのダムで定められた「洪水時に流入する水量」を、大規模洪水に備えるため、中小洪水時に多少の被害を覚悟の上引き上げる必要があるんじゃないか と。

じゃあ、具体的に検討してみましょう。 検討するのは、西日本豪雨(7/7)で、「異常洪水時防災操作」を行った、愛媛県にある野村ダムです。

まず「国土交通省 水文水質データベース」を見ると、当日のダムでどのような操作を行ったかが公表されています。↑で「任意期間ダム諸量検索」 「2018年7月7日〜2018年7月7日」で「検索」すると、次のようなデータが現れます。

図の中のフロッピーのマークを押すと、カンマ区切りのtextデータが取得できるし、横のグラフマークを押すと、このデータをグラフ化してくれます。textデータをエクセルで処理してグラフを書くと以下のようになります。

青色の線は、ダムへ入ってくる水の流入量を示します。赤色の線は、ダムから下流に流した放流量(左目盛り)です。この差がダムに貯められますので、(流入量-放流量)がプラスなら、ダムの貯水率が上がることになります。黄色の点線が貯水率(右目盛り)です。

野村ダムの「洪水時に流入する水量」=下流へ流しても安全な水量 は300m3/sなので、流入量が300m3/sに達した2:00から300m3/sの放流を開始しました。それで6:00まで頑張ったんだけど、もうダムが満杯になりそうだ(ダム貯水率は2:00の75%から6:00にほぼ100%) ってことで、7:00に放流量が1400m3/sに急増してます。

ダムが一杯になっちゃったとは言え、6:00の放流量が300m3/sが、7:00の放流量1400m3/sって、あまりにひどくね? と言うのが地元の意見です。 うん確かに。

じゃあ、最初から倍の600m3/s放流してたらどうなったんだべ? (下流に600m3/s放流したらどうなるかは、とりあえず考えない。1400m3/s流すよりいいだろ という試行です。)

上記で得られたのは数値データだけなので、いろいろ試すには簡単なダム貯水率計算式が必要です。

初期条件は1:00の貯水量7204,流入量306.34,放流量297.71,貯水率72.4です。で、2:00の流入量298.68,放流量298.00から貯水量7225,貯水率72.6を算出する式を造ればよろしい。

計算式は 2:00の貯水量=1:00の貯水量+{(1:00と2:00の流入量の平均値)-(1:00と2:00の放流量の平均値)}×1時間 とします。満水貯水量が正確には分からないのですが(11423〜13259まで貯水率100%になっているので)9950にしました。計算結果は、2:00の貯水量7221,貯水率72.6ということで、おおむね再現できました。

んじゃ、このダムモデルで少し遊んでみます。

Q1.このまま300m3/s放流したらどうなった?

A1.6:30以降ダムがヤバくなってくるでしょう

6:30の時点で、ダムの貯水率が130%を超えました。水文水質データベース上は「貯水率100%でセーフでした」と表示されていますが、多分ダムの堤体余裕高をみこんでいるんでしょう。でも、さすがにそれを超えるとヤバかったんじゃないかな。

Q2.600m3/sまで放流許したる。

A2.ありがとうごぜえます。流入量が600m3/sを超えた4:00から放流量を600m3/sにしました。んでも、8:00くらいにはやばくなったんちゃう?

7:30くらいに、ダムの貯水率が130%を超えちゃいました。この時間以降は流入量=放流量で流す操作をしないと、ダムがやばいっす。

Q3.ええい、ではどうすればよかったのか、今回の流入量が既知として、理想の操作はどんなものだったのか?(実際には流入量は未知ですけど・・)

A3.今回の台風の場合、流入量=放流量で放流して、流入量が1000m3/sを超えたら放流量1000m3/sで一定にしていれば、貯水率110%内で流入量最大の時にもそれなりに洪水調整できたと思うよ。あまり余裕はないし、これ以上の洪水だとお手上げだが。

ただこの場合でも、徐々に増加させるとはいえ、下流では最大1000m3/sの放流量を4時間流すことになってしまう。

「流入量=放流量で放流して、流入量が1000m3/sを超えたら放流量1000m3/sで一定」というダム操作をルールにすると、今回の規模の洪水のピーク時には有効ですけど、これより小さい洪水の場合、余計に放流して下流の被害が拡大しそうです。今回の洪水より大規模な洪水では、やっぱり流入量ピークの時にダムが一杯になってしまうかもしれません。(前提条件:ダムへの流入量が確実には予測できない 予測できれば適宜操作を変えればいいんだけど、確実な予測は現代の技術では困難だと思います※2)

大規模洪水にも中小洪水にも等しく効くというダム操作は困難そうなので、じゃあ、どこで折り合いをつけるのかという話です。いずれにせよ想定外の洪水が来る可能性は排除できないので、「異常洪水時防災操作(流入量=放流量)」というダムの安全弁は設けておく必要もあるでしょうね。

 

Q4.ちょっと待て、最初のスタート時点で貯水率70%っておかしくないか? 洪水が来るんだから、もっと下げておけば良かったのでは。

A4.その通り・・・なんですが、野村ダムの場合、70%より下は、利水(水道とか農業とか)に使う量なんですよね。水道事業者や水利組合はこの容量を持つためにダム建設や管理に予算を出している権利者です。おいそれと財産を流されるのは・・・※1

それでも「農業に使うので、〇月〇日までに70%に戻ることを確約してくれるなら、今回は放流してもいいですよ」という交渉はできたかもしれない。

にしても、この先の雨の降り方(正確にはそれがどの程度河川へ流入量として出てくるか)が正確に予測できない以上※2、この賭けにはとても乗りづらいのは確か。

ちなみに、1:00の時点でこの決断をして、早くも2:00から700m3/s放流をしていたら、貯水率130%とギリギリで、操作できたかもしれない。 あくまで流入量既知の場合だけど。

エクセルファイル野村ダムシミュレーションをここに置きますので、興味ある人は遊んでみてください。

 

※1ちなみに、このような治水(洪水時に水を貯めるため、貯水率を下げておきたい)と利水(普段水を利用するため、降雨期に貯水率をあげておきたい)の相矛盾するような要求を兼ね備えるダムを「多目的ダム」と言う。治水機能を持つダムで治水専用のダムは珍しく、ほとんど多目的ダムとして建設されている。

多目的ダムはダムの費用対効果は上がるし、複数の団体が建設費用を分担するなどメリットも大きい。けどデメリットとして、発生確率は小さいけど、この規模の大洪水が来た場合の運用に苦慮することになる。 この洪水規模に備える治水ダムは、費用対効果を考えると、建設は難しいだろう。だから、この規模のダムをどう運用すれば、一番最適な運用になるのか はよく考える必要があるだろう。

そういうもろもろの状態を考えつつ、予めダムには「操作規則」が決められていて、今回もそれに従ってダムの操作は行われているようです。「異常洪水時防災操作」もその一環でしょう。

 

※2 地表に降った雨は、そのまま地表を走って川に流れ込むものもあるだろうし、地下に吸い込まれるものも、地下の水が飽和して河川に出てくるものもあるだろう。それは土壌の含水率によって変わってくる。それが時々刻々変わること、そもそも土壌の質が場所によりバラバラであること、雨の降り方も場所によりまちまちであること などから、降水量が分かっても、ダム地点の流入量がどれだけになるか を正確に予測するのは、現状では困難だと思います。