繰り返される「失敗の構図」

旧統一教会をめぐる問題で、政府は、教団の解散命令を裁判所に請求する方向で最終調整に入りました。早ければ10月12日に宗教法人審議会を開き、請求について意見を聴くことを検討しています。

政府 旧統一教会の解散命令 裁判所に請求の方向で最終調整

旧統一教会そのものについて言及するほどの知識はないのだけれど、 解散に至る経緯に関して、少し気になることがありまして。

この宗教団体の問題は、構図としては今話題になっている鬼畜おじさんが率いていた某男性アイドル事務所性加害事件とまったく同じです。

「おじさんは鬼畜だ」と勇気ある告発者がいても、関係者は蜜月関係を壊さないため黙っているし、世間も「噂として知っていたけど、まあ芸能界、特にジャニーズ事務所ってそういうものでしょ?」って知らんぷりで放置。 おじさんが死んで外国から告発が入ると、みな手のひらを返し、溺れる犬を棒で叩きまくり。

まあ悪質な事件なので叩くのは仕方ないのだけれど、今まで黙っておいて、いきなり手のひら返しかよ というレベルです。どうせ叩くなら、もっと前に叩いておけば、被害者を減らせたかもしれないのに。

こちらの問題でも、教団のヤバさは関係者はみな分かっていたはず。

「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)事務局の阿部克臣弁護士も、
「本来であれば、何十年も前に解散請求されるべき法人です。にもかかわらず、いくつもの問題と捜査の機会を巧みに潜り抜け、今日まで存続してきた」
 と指摘。特に2009年2月、警視庁公安部が教団信者が社長を務めていた都内の有限会社「新世」に家宅捜索に入った事件を「逃してはいけないタイミングだった」(阿部弁護士)と振り返る。
 同事件では「悪なる先祖が作用する」などと不安をあおって印鑑を売りつけたなどとして新世の社長ら計7人が特定商取引法違反容疑で逮捕されたものの、教団本部の関与は「証拠は見つからなかった」として摘発が見送られている。
「あの時、捜査のメスをきちんと本部に入れて、刑事事件の責任を負わせるべきだった。防ぐことができた被害は大きい」(阿部弁護士)

旧統一教会への解散命令請求は何十年も遅い 全国弁連が指摘する「逃してはいけなかったタイミング」

でも蜜月関係にある関係者(かつ庇護者)は黙っていました。

自民党は8日、所属国会議員に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)や関連団体との関係について報告を求めていた調査の結果を公表した。何らかの関わりがあったのは179人。公表した121人は以下の通り。

旧統一教会・関連団体と関係があった自民党議員一覧

この事件の場合、おじさんの死と外圧にあたる事象は、時の権力者(安倍元首相)が銃撃により殺害されたことです。そのセンセーショナルな事件がなければ、今も数多くの議員たちが、この集団から様々な便宜供与を受けていた状態が続いていたものだと思われます。

実際には急転直下。解散という方向性に向かっているのですが、それは、襲撃の容疑者が「物事が逆転して回りだす急所を見事に突いた」からに他なりません。水戸黄門が印籠を出すシーンより鮮やかに決まりました。このような非合法行為があって初めて物事が動き出すということは、あってはいけないことなのですが、それもまた事実でしょう。

そもそも、宗教法人が解散を命じられるということは、「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」と認定されたということです。 宗教法人法81条

(解散命令)
第八十一条 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。

e-Gov

著しく公共の福祉を害すると明らかに認められるような団体と、これだけ多数の政権与党議員が関与していたにも関わらず、「事後に関与を断つ」ことだけで幕引きになって良いものでしょうか? 事象をよく調査し、同様の事例があったなら事前に関与を断つ ような強力な規制を行う必要があるのではないのでしょうか?

この件で、政治家の側が何もなかったように幕引きを狙う一番悪質な事例が衆議院議長の細田氏です。旧統一教会トップも出席する会合であいさつもしたA級戦犯ですが、なぜか上記の調査対象にもされていません。それに関して明確な説明もないまま、体調不良を原因に衆院議長は辞職するけど、まだ元気だから次の選挙には出馬する(議員は続ける)そう。 

反省だけならサルでもできる とは言いますけれど、この場合、サルに失礼ですね。

細田氏は、教団関連団体の会合であいさつする動画などがSNS上で出回っている。野党は昨秋の臨時国会でも説明を求め、細田氏は昨年9月に文書で説明。10月には議運委の山口俊一委員長(自民)や笠浩史氏(立憲民主)らに非公開で説明した。しかし、教団トップ韓鶴子(ハンハクチャ)氏も出席した会合で、細田氏が「会の内容を安倍総理にさっそく報告したい」などと述べた動画に触れないなど、説明が不十分だと指摘されていた。・・・自民と教団とが長年にわたって関係を築いてきたことが明るみに出たが、安倍氏や安倍氏に派閥会長を引き継いだ細田氏については、自民の「点検」の対象になっておらず、実態解明は進んでいない。

細田衆院議長、旧統一教会との接点を説明へ 冒頭のみ報道機関に公開

退任は遅きに失するが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係にしろ、女性記者へのセクハラ疑惑にしろ、説明責任を果たさぬまま退場することは許されない。
 細田博之衆院議長が体調不良を理由に退任することになった。7月に熱中症の症状を訴えて救急搬送されるなど、入退院を繰り返していた。臨時国会が20日召集の見通しとなったことを受け、区切りをつけるということだろう。

(社説)細田議長辞意 説明なき退場 許されぬ

体調不良を理由に任期途中で衆院議長を辞任する意向の細田博之衆院議員(79)=島根1区、11期=が1日、次期衆院選に立候補する考えを示した。
東京都内で山陰中央新報社の取材に対し、「(健康に)大きな支障はない。政治家としては元気そのもの。全然変わっていない。立候補する前提で考えている」と述べた。

【速報】細田議長、次期衆院選に出馬意向 「政治家として元気」

悪神が憑いていると、「鬼神も之を避く」 というかなんというか、すげぇ としか言いようがない話です。それでもたぶん当選しちゃうんだろうから、救いようのない話ではあります。

先の大戦時、ほとんどのメディアや国民は、戦争賛美を唱えました。 が、終戦(なぜ事実を正確に把握する「敗戦」と言わず、美辞を使うのだろう)したらすぐ手のひらを返し、当時の政権首脳の戦争責任を厳しく問うた 前例もあります。   

いや、お前の手も汚れているんだよ。 かくいう僕もその一員ですけど。

これらの話を、時間がたってなんとなくうやむやに幕引きにしてしまうのが、日本の癖というかよくある話。そして同じ構造の問題が、また発見され繰り返されます。てか、氷山のごとく、発見されないで続く問題の方が多いんだろうけど。

例えば、福島第一原発の事故原因調査は、当事者は引き続き行っているんだろうね?事故調査委員会はいつしか解散したとは言え 事故原因の究明について調べ終わったということじゃないんだよ。  そして直接の当事者ではない僕らは、それを忘れちゃいけないって思う。 それをしないでホイホイ原発の再稼働とか、怖くてありえんだろと思うんだけど。

国、電力事業者、原子力発電プラントメーカー、研究機関、関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は、今回の事故の検証及び事実解明を積極的に担うべき立場にあり、こうした未解明の諸事項について、それぞれの立場で包括的かつ徹底した調査・検証を継続するべきである。

特に国は、当委員会や国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の活動が終わったことをもって、福島原発災害に関する事故調査・検証を終えたとするのでなく、引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきである。

とりわけ、放射線レベルが下がった段階での原子炉建屋内の詳細な実地検証(地震動の影響の検証も含む。)は必ず行うべき作業である。

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 最終報告書P441

霞堤という治水技術システムの政策的欠陥

バラ農家「その質問はやめて頂きたい」・・・川を氾濫させ下流の住宅等守る「霞堤」再起決断できない上流の苦悩


2023年6月、愛知県の東三河地域を襲った豪雨では、豊川が氾濫した豊川市で多くの農家に甚大な浸水被害が出たが、 それはあえて川を氾濫させる「霞堤」のためで、それは想定されたものだった。  が、そこには課題もある。下流を守る「霞堤」は、不平等を産むのだ。
(地域住民の声)霞堤がある地域は大きな被害が出て、その結果(それ以外の地域の)堤防は無事決壊せず助かった。これはいろんな人の命や財産を守っているわけだが、一方で、霞堤のある地域の住民の命や財産が守れれていない。これはすごい不平等。この住民は農機具16台が壊れ、合わせて800万円もの被害が出たが、過去にも補償は一切ない。自然災害で、法律的にも対応するのは難しいと。一生に一回くらいの災害だったらたまたまだと思えるんですけど、 被害が15年で3回も起きている。

東海テレビ ニュースワン

(考えさせるという意味で)非常に良い記事なんですが、キャプチャできないので、大事なとこだけ引用してます。・・・ケチだなあ。ま、元の記事を読んでください。

治水論は僕が興味を持っているので何度か取り上げているんですが、霞堤というのは、堤防にあえて切れ目をつくり、そこで氾濫を起こすことでそれより下流を洪水から守る治水技術です。    

汎用的に言えば、「システム全体の安全性を高めるため、システムの一部にあえて弱点を作る」というような設計論で、割と一般的に取られる考え方です。 一番知られているのは、車体設計の事例だと思います。

クラッシャブル構造
クラッシャブル構造とは、乗員のいるスペースを守るため、あえて、車体の前後部分を潰れやすく設計した構造をいう。このことにより、衝突の際の衝撃を吸収し、乗員の安全を確保する(生存空間をつくり出す)。

グーネット自動車用語集

 土木・建築業界でも同様の設計思想があります。

壊れない方が危険? 大規模地震を想定した橋の設計で重要なこと


川で隔てられた陸地を結ぶ橋は交通の要といえる部分。これが地震などで壊れると物流に大きな被害が発生します。しかし、大規模地震を想定して「全く壊れない橋」を設計するのは逆に危険といいます。それはなぜなのでしょうか。

・・・・
 こうしたことから橋の設計に際しては、大規模地震が発生したときに壊れる部分を選定し、その部分を補修しやすい構造にするのが一般的です。「壊れる」というよりは「壊す部分」をあらかじめ選んでおくのです。このように設計すると、地震の発生後に損傷の有無を発見しやすくなるといいます。また、修繕しやすい部分を「壊す部分」に選ぶことで、早めに復旧することも可能になるのです。

乗りものニュース

わざと弱く作る技(構造スリットのことなど)
わざと弱く作った建物に住みたいですか?
誰でも嫌ですよね。
 でも、建築には随所に「わざと弱く」してあるところがあります。
構造スリットもそのひとつ。・・・

建築家紹介センター

これらの事例からも分かるように、霞堤を使った洪水制御方法「わざと弱点を残す設計思想」というのは悪い設計ではありません。が、自動車や構造物とは2点違いがあります。

①弱点部に人が居住しており、その人が何度も被害を被ること(上流が被害を受け、下流はそれにより利益を得るなど、住む地域により不平等が生じる)

下流部の人間が、類似事例の対策を見たらこんな感じになるでしょう。 上流部の区画整理において、地盤のかさ上げし上流域の浸水被害を減らそうとする計画に対し、

千葉・海老川の下流域住民が抱える「最大の心配」 上流域の土地区画整理が水害を誘発する危険性は?
「流域治水」という考え方が広がる。気候変動で未曾有の豪雨が頻発し、上流、下流など流域全体で国、自治体、企業、住民がともに治水に取り組む。昨年11月、流域治水関連法が施行された。しかし、利害が異なる関係者間の協議は容易ではない。千葉県船橋市では二級河川・海老川上流域の開発をめぐり、下流域住民から「水害リスクが高まる」と懸念する声が上がる。「情報を共有し、議論する」という状況に遠いことが、問題をこじらせている。

東洋経済オンライン

 ともすると、利益を受ける側は被害を被る側のことを忘れ、被害軽減の対応が自らの利益を減じる可能性があるかもと心配しがちです。まあ当然の反応ではありますけれど。

民主主義ってのは結局多数決なので、(多数の人が住む)下流に住む側の意見が強くなるのはやむを得ないところでもあります。が、そもそも不平等が生じているのではないだろうかという視点は持つ必要があるかもです。 正直、目をそらしたいところではありますが*。

②不平等を小さく抑えるための、速やかな補償や原状回復といった公的補償を充実させるなどの対処が取られていないこと。”氾濫して被害にあっても補償は一切ない。自然災害で、法律的にも対応するのは難しい”

霞堤の治水設計論として、不平等が生じるのはどうしようもないことです。ですが、その不平等感を和らげるための措置がなされていない。これでは、霞堤がいくら設計論としてまっとうだとしても、霞堤を実際の政策として残していくのは困難だと言わざるを得ません。

豊川の事例に戻すと、豊川に現在4つ残る霞堤は、将来的に1つは締め切り、残り3つはかさ上げして霞堤の遊水機能を縮小する方向です。

この計画を作成した豊川の河川管理者(治水担当)である国交省・中部地整としては、将来どれだけ大規模な洪水が発生するかわからないから、「流域全体の治水のことを考えれば遊水機能を縮小したくなかった」はず。技術行政としては正論だったかと。

一方で、霞堤を現状のまま残せば、地域に不平等が残り、まともな補償も期待できない現状の法制度下で、地域の総合行政を担う豊橋市としては同意しかねる方針だったということでしょう。たとえ、その時の担当副市長が、国交省からの出向者だったとしても。(と聞きました)

ねえせめて、こういう時に受けた被害を速やかに救済できるような法律、早く作りましょうよ。このままじゃ、霞堤どんどんなくなっちゃうよ。(設計論的には必要だと思う)

*霞堤を使うような治水技術は、現在に生かすなら想定外規模の災害による被害を減らす(減災)ためのものです。 この減災手法にはあらかじめ弱点を作っておくとか、堤防(の弱いと目されるところ)が現実に破られたらどうするか など、どうしても特定の地域を狙う「不平等」問題が付きまといます。 それを踏まえたうえで有意義な議論をすることは、有識者でも困難なようですね。

大同大学 鷲見助教授のブログ。  

2022年9月 1日 (木)
本当に減災,したいか。
最近の議論を見ての感想。
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洪水でも危機管理でもそうなのだが,
キャパシティーを超えるときに被害・支障を少しでも減らそう,と言う話をしようとしているときに,
キャパシティーの中でいかにキャパシティーを増やすか,っていう話しか出てきてない
っていう事が多いように思う。
ーーー
完全防御,では敗北している場面を想定できていない。
どうすくなく敗北するか,という観点
どこで敗北しどこでは敗北しないようにするかと言う観点
での議論をしたくないのだろう,そこには差別化が入ってくるから。
全体に薄ーく敗北しましょう,
分散・分担しましょう,という考え方もある。
だが,これもやりたくないのだろうなぁ。
ここを真面目に(ときには喧嘩になるだろうが)やれるかどうかが,この話の境目になると思う。
ーーー
流域治水,とうたって2年になるところだが,
想定しているのは,「計画」ではない。
明らかに容量オーバーになる,という場面に
どう対応するか,という原点に立ち返れていない議論が多いように思う。

sumisumi

我々の社会は「平等化」「差別はいけない」ということをかなり大きな社会命題として掲げてきて、現実にはまだまだいろんな問題があるとはいえ、少なくとも大っぴらに政策を語る段階では、これらを否定するような発言は難しくなってきていると思います。ポリティカル・コレクトネスっていうか。

それが我々の潜在意識にまでしみついてしまっているから、議論しづらい、想定しづらいってのはあるでしょうね。それに、不平等や差別化を前提とした、ある意味不穏当な政策議論(時には極論だって出るでしょうし)を必要だから自由闊達にやった挙句、意図に反し誤解され炎上してもかなわないしって、難しいことでしょう。今の日本では、誤解する人も多いと思うし。

が、鷲見先生が言われるように、それらを乗り越えて真面目にやれるかどうかが,霞堤を含めた減災化の成否を握るカギになると思います。 僕は悲観的だったりしますが・・・